第24話 桃花の宿題、正道の心の闇
「それなら桃花は宿題まだ終わってないだろ? せっかくだし見てやるよ」
「……」
俺の高校生らしい提案に、しかし桃花は真顔になって黙り込んだ。
「どうした? もしかしてもう宿題は終わったのか?」
「ううん、終わってないけど……」
「じゃあ宿題をやろう。数学は明日もあるしな。ちゃんとやっておかないと、数学は積み重ねの教科だから、1年の春につまづいたらこの先大変だ」
「はい……そう……ですね……」
「おう。じゃあやるか」
「うん……やる……」
というわけで、寝る前に桃花の宿題を見てあげた。
……
…………
………………
「はい、正解。これで全部終了だ。頑張ったな!」
最初こそテンションが低かった桃花だが、根が真面目なんだろう、途中からは真剣に勉強に打ち込んでいた。
「もぅ、すっごくはかどったよ~! ありがとう正道くん。正道くんは本当に頭いいよね。さすがは学年首席って思ったし♪」
「別にたいしたことじゃないさ」
「さすが学年首席は言うことが違うねー♪ そうやって、いろんな女の子の宿題を見てあげてるんでしょ?」
「や、女子の宿題を見てあげたのは桃花が初めてだと思うぞ」
「そ、そうなんだ? えへへ、初めてなんだ……♪ えへっ」
「さてと、明日も学校だしそろそろ寝るか」
「そうだね」
「さっき説明したように、桃花は客間のベッドを使ってくれな」
「うん」
俺は自分の部屋で。
桃花は客間のベッドで。
それぞれ別々の部屋で寝る。
一緒に寝たりはしない。
恋人でもないんだから当たり前だ。
最上階ワンフロア貸し切りの一人暮らしだから、部屋も余っているしな。
「おやすみ桃花」
「おやすみなさい、正道くん」
桃花と別れ、俺は自分の部屋に戻った。
スマホを見ると桃花からラインで「おやすみなさい」のスタンプが送られてきている。
「さっきそこで挨拶したとこだってのに、律儀だなぁ」
俺は苦笑しながら「おやすみ」のスタンプを返すと、即座に既読が付いたのを確認してから部屋の電気を消した。
そして真っ暗な部屋でベッドに一人寝ころびながら、俺は今日のことを――ほとんどが桃花とのあれやこれやだ――を思い返していた。
「なんか想定外のことになったな。全然、こんなつもりじゃなかったんだけど」
俺が助けてやったんだ感謝しろ――などと恩着せがましく桃花に接するつもりなんて、微塵もなかった。
理不尽に苦しむクラスメイトを助けられるなら助けたい、ただそれだけだったのに。
だけど――
「結果として、俺は桃花を5000万円で買ったことになるんだよな」
俺が思っていなくとも、少なくとも桃花はそう感じているのが伝わってくるし、周囲からもそう見えてしまう。
これは客観的な事実だった。
女の子を金で買う。
表現からして最悪だ。
しかも俺が稼いだ金ではなく、親の金でだ。
本当に聞こえが悪すぎる。
俺なりに「正しい道」を行こうとしたはずが、どうしてこうなった?
「こんなこともスマートにやれないなんて、やっぱり俺はどうしようもない凡人だよな」
自然と自嘲が漏れ出でる。
もしこれが父さんや修二――双子の弟なら、もっとスマートに解決することだろう。
「せめてまっすぐに生きることだけは負けたくないって思っても――俺は結局それすらも満足にこなせないのか」
今日という日の最後に、呪いのような劣等コンプレックスをわずかに覚えながら、俺は眠りへと落ちていった――
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