第22話 お泊まりの提案
食事を終えると、もう夜の9時になろうとしていた。
「おっと、結構遅くなっちまったな。そろそろ帰るだろ? 家まで送っていくよ」
俺はしごく当たり前の提案をした。
いくら世界トップクラスで安全な日本国とはいえ、万が一を考えたら暗い夜道を女の子一人で帰らせるわけにはいかない。
しかしそこで桃花から意外な答えが返ってきた。
「えっとね?」
「どうした?」
「ええと、今日は友だちの所に泊まるって家には伝えてあるの」
「ああ、そうなのか。じゃあ友だちの所まで送っていくよ」
桃花の家でも友だちの家でも、俺のやることは変わらない。
桃花を無事に送り届ける、それだけだ。
「ううん、そうじゃなくてね」
「? じゃあ、どういうことなんだ?」
「友だちって言うのは、正道くんのことで……」
「え、俺?」
「だからつまり……正道くんのところに泊まるって、そういう意味なんだけど……」
その言葉に俺は一瞬、頭が真っ白になってしまった。
だってなぁ?
桃花は俺んちに泊まると言った。
男の一人暮らしの俺んちにだ。
つまり俺んちで二人きりで一夜を明かすという意味である。
「いや、泊まりはまずいだろ、泊まりは。親御さんがなんて言うか」
俺は顔の前で両手を大きく左右に振って、それはだめだとアピールした。
「うちはわりと友だちとのお泊まりには寛容なの。うちにも泊まりに来るし」
「それは女の子の友だちってことだろ? 男友だちだと意味が全然変わってくるっての」
「……変わるかな?」
「そりゃ変わるだろ。どこの親御さんが、自分の娘が男友だちの家にお泊りすると言って、寛容に送り出してくれるんだよ?」
「でも正道くんは変なことはしないでしょ?」
「そりゃあしないけどさ」
「じゃあいいよね? あ、それとも自信なかったり?」
桃花の問いかけが、なぜかだ妙に挑発的に聞こえた。
「馬鹿言うなっての。俺は獅童正道。獅童の名とともに『正しい道』を行く者だ」
最高の血筋に生まれた親ガチャSSRなだけの凡人ゆえに、誰よりも正しくあってみせる。
俺は今日までずっとそうやって生きてきた。
ある意味、呪いのように自分に言い聞かせながら。
お金で買った女の子に手を出すほど、俺の人生は軽くない。
「じゃあ、いい……よね?」
そんな俺を、桃花が上目づかいで見つめてくる。
もう何度も見せられたこの仕草。
本当に可愛すぎて困る。
桃花は昔から可愛いと褒められてきたと言っていた。
当然、どうすれば自分が可愛く見えるかを、知り尽くしているだろう。
この上目遣いも今日までの過程で積み重ねてきた、自分を最大限に可愛く見せるための武器なのかもしれなかった。
やっぱり桃花は、「自分のことを正しく自覚している」という意味において、俺と似ているな。
や、あくまでただの分析というか推測なのだが。
それはそれとして。
「まぁ親御さんもいいって言ってるなら、いい……のかな?」
「うん、いいんだよ」
コクンと頷いた桃花に、俺はなんとなく決意のような強い意志を感じていた。
なんらかの決意をもって、桃花は俺んちに泊まろうとしている。
それが何かはわからないが、俺はたとえ何があろうとも誠実に応え続けようと思ったのだった。
というわけで桃花はあっさりと俺んちに泊まることになった。




