第21話「はい、あーん♪」
「美味しい。すごく美味しい」
「えへへー。実はチャーハンは得意料理なんだよね。時短かつ、ありあわせで作るのは、自分でもなかなかのものかなぁって」
俺が掛け値なしの誉め言葉をかけると、桃花がちょっと自慢げに語ってくる。
「本当に美味しいよ。すごいんもんだ。これならいくらでも食べられる」
「少しだけお代わりがあるから、食べ足りなかったらお代わりしてね」
「悪いがお腹がいっぱいでもお代わりするよ。マジで美味しいからな」
「もぅ、正道くんってば。本当にストレートに言うよね。見つめながら何度も言われたら照れるんですけど!」
なんて言いながらも、桃花はまんざらでもなさそうに見えた。
「褒めて損なし、ってな。いいものに『いい』って言うことに、ためらう理由はないさ。あと人と話す時は、相手の目を見て話すものだろ?」
「感心するくらい、まっすぐだよねぇ。お金持ちなのに偉そうなところがぜんぜんないし。あ、そうだ!」
「ん?」
「これはその、お礼の一環っていうか、あくまでちょっとした提案なんだけどね?」
「なんだ? さっきも言ったが、俺は俺のために借金を肩代わりしたんだから、深く気にする必要はないんだぞ? そうでなくても掃除してもらった上に、こんな美味しい晩御飯まで用意してもらったんだからさ」
お礼ならもう十分してもらっている。
「そんなたいしたことじゃなくてね? その、せっかくだから……あ、あ……」
「あ……?」
「あーんでもしてあげようかなって! 的な! 感じ!」
桃花が頬を染めながら、早口&上目遣いで言った。
『お嫁さん検定1位』と噂されるだけあって、これまためちゃくちゃ可愛い。
だがあーんと言えば恋人同士がやるものだ。
「それ」を桃花にさせることに、俺は気が引けてしまう。
なぜなら俺と桃花は恋人でもなんでもなく、外から見ればお金で買った・買われたという関係だからだ。
そのことに、俺が少し思い悩んでいると。
「すぐ断らないってことはオッケーってことだよね? じゃあはい、あーん♪」
桃花はそれを肯定と受け取ってしまったようで。
自分のスプーンでチャーハンをすくうと、中腰になって俺の方へと身を乗り出して、スプーンを俺の口元へと差し出した。
「はむ――」
俺はそれを反射的にパクリと咥えてしまう。
すぐに桃花の絶品チャーハンが口の中に広がっていく。
うん、やっぱりとても美味しいな。
だがそれよりも何よりも俺が気になってしまったのは、桃花の使っていたスプーンを俺が咥えた――つまりは間接キスをしたということだった。
親ガチャSSRで何不自由なく生活している俺も、なんだかんだで多感な男子高校生。
当然、キスとか間接キスとかそういうラブいことに、興味がないわけではない。
「ど、どうかな?」
「あー、うん……なんか恥ずい」
頬が熱い。
胸元も汗ばんできた気がする。
俺の顔が赤くなっているのは鏡を見なくとも間違いなかった。
「わ、わたしも。えへへ……」
もちろん桃花も、これが間接キスだと気づいているだろう。
「お、おう……」
俺んちという超密室で、テーブルを挟んであーん(という名の間接キス)をしながら、二人きりで見つめ合う。
なんだか妙な雰囲気が室内に漂っていた。
「もう1回……するね?」
「お、おう」
「はい、あーん♪」
「あーん」
桃花が差し出したチャーハンを俺はまたパクリと咥えた。
「……美味しい」
「ふふっ、よかった♪」
くっ、これはだめだ。
ともすれば妙な雰囲気に流されそうになってしまう。
俺は鋼の意思でもって、場の雰囲気に流されそうな己を奮い立たせる。
「チャーハンを食べたら喉が渇いたな。ジュースを入れてくるよ。美味しいオレンジジュースがあるんだ」
俺は桃花の返事も待たずに席を立つと、キッチンに向かった。
「あ――」
桃花の小さな声が聞こえた気がするが、俺は振り返らない。
「落ち着けよ俺。桃花はただのクラスメイトだ」
小声で自分に言い聞かせながら、俺は冷蔵庫から取り出したオレンジジュースを2つのグラスに注いだ。
幸いなことにオレンジジュースを入れて戻ってくると、妙な空気はすっかりと消え失せていて。
「わっ、なにこれ!? 本当に美味しいんだけど!?」
オレンジジュースを一口飲んだ桃花がびっくりしたように俺を見て、
「うちのグループ会社が出してる高級100%ジュースのブランドなんだ」
俺はそれに今までと変わらない説明を返したのだった。
「ちなみにお値段って、いくらぐらいするの?」
「正確には覚えてないけど、たしか900ミリリットルで2500円くらいだったかな」
俺は普段あまり金額を意識することがないので、正直うろ覚えなんだが、多分それくらいはしたはずだ。
「わーお!? お洒落なランチが食べれちゃうよ!?」
大げさに目を見開く桃花は、やっぱりとても可愛かった。




