第19話「捨てる勇気!」
「──っ!? な、何でもないですぅ! 正道くんは向上心の塊だねって言ったんですぅ!」
なぜだか妙に焦った風の桃花。
鼻息も荒く、手に持っていた新聞をぐしゃりと握りつぶしながら手をワチャワチャと振っていた。
「そうなのか? ごめん、聞き間違いだったみたいだ」
俺は素直に謝った。
「……もぅ、正道くんってそういうとこあるよね」
「そういうとこって?」
どういうところだ?
「そういうところは、そういうところですぅー♪」
桃花が答えになってない答えを返してくる。
けれどあまり話を引き伸ばして家事の邪魔するのも悪いと思って、俺はこの話を切り上げることにした。
「それで、見ていても大丈夫かな? 嫌なら自分の部屋にでも行っているけど」
「ううん。せっかくの機会だしコツを教えてあげる」
「いいのか? 嫌なら言ってくれていいんだぞ?」
「ちゃんと理由が分かったから、ぜんぜん問題ないよー」
「了解。それでは桃花先生、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
「そーゆーのはナシでーす。わたしたちはお友だちでーす」
「それも了解」
「じゃあ最初にまず掃除と片付けにおける大事なポリシーを教えます」
「ポリシーときたか。それはぜひ聞きたいな」
やはり物事においてまず何よりも大切なのは、小手先のテクニックではなく根幹にあるポリシーだろう。
「あれは使うかも、これも使うかも……って、この先使うかもしれない微妙な可能性で悩むこと、あるよね?」
「あるな、うん」
「はいアウト!」
桃花がビシッと俺を指さした!
「え?」
「今使わないものは結局、いつまでも使いません。よって大事なのは、捨てる勇気です!」
「捨てる勇気!」
桃花の勢いに飲まれるように、俺は背筋を伸ばして復唱した。
「これがお片付けのポリシーなんだよ。悩むものは捨てましょう。ね、簡単でしょ?」
「なるほどな。実にシンプルでわかりやすいポリシーだ」
「もちろん、冬物とかは別だけどね?」
「わかっているさ。使うビジョンが明確に持てないものは捨てるってことだよな? 冬物は冬になったら確実に使うから、捨てる対象ではないわけだ」
「そーゆーこと。さすが正道くん、主席入学は伊達じゃないね♪ じゃあ早速、一緒にやってこっ♪」
こうして桃花にあれこれ教わりながら、俺は部屋の片付けに勤しんだ。
捨てる勇気を持ったことにより、俺の部屋は見違えるように綺麗になっていった。
◇
そうしてしばらく家事を教えてもらうと、いい時間になっていた。
「ありがとう桃花。桃花のおかげでかなり綺麗になったよ」
「表面上はね。寄せたりまとめただけだから、本格的にやるならちゃんと置き場とかを考えないとだし。でないとまた同じことになっちゃうから」
「さすがは家事のプロフェッショナルだ。俺とは見ている次元が違っている」
俺は表層的な部分だけしか見ていなかったが、桃花は根治療法に取り組もうとしているのだ。
「うーん、正道くんが掃除や片付けに無頓着すぎるんだと思うよ?」
「それもある。これまでずっとお手伝いさんにやってもらってたのが裏目に出ているな」
この自己分析は間違っていないだろう。
「本格的に綺麗にするなら、拭き掃除とかもしたいし。でもでも、5カ月もあるから急がなくてもいいかなって? それにその期間ずっと、タワマン最上階に遊びに来れるわけでしょ? これってむしろ役得じゃない?」
「遊びというか、家事だけどな? や、別に遊んでくれても全然かまわないんだが。そもそも桃花のしたいようにするって前提での、お手伝いだしな」
「じゃあ家事の方が一段落したら、遊びにこさせてもらおっかなー、なーんてね。うそうそ、ちゃーんとお礼はするから♪」
桃花が「あははー」と楽しそうに笑った。
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