第17話「ふむ……」「な、なに……?」 「や、気にしないでくれ」 「そう……?」
「まずは洗濯からかな」
「その心は?」
桃花はノータイムで答えた。
つまり洗濯から始める確信的な理由があるはずだ。
俺はそれを問いかける。
「それはもちろん洗濯機を回している間に、他のことができるから」
「なるほどだ。桃花の言う通りだよ。とても勉強になった」
即答した桃花に、俺はおおいに感心したのだが。
「あの、そんな真面目な顔で頷かれても困るんだけど……洗濯機を回している間に別のことをするのは、家事をする時の基本中の基本中の基本中の基本だからね?」
なんと4度も基本と言われてしまった。
「そうか……やはり俺の家事能力は、基礎の基礎からなっていないようだ」
改めてそのことを実感した俺を見て、桃花は「あはは……」と苦笑すると早速、「洗面所ってどこ?」と尋ねてくる。
「右側の手前から3つ目のドアのところだ」
「ありがと」
にぱーと笑うと、桃花が洗面所へと向かった。
それに俺も着いていく。
「わっ、洗面所も広~い! でもでも、洗濯物はそんなには溜まってないみたいだね。えらいじゃん?」
洗面所に移動すると、いきなり桃花が褒めてくれた。
誉めて伸ばしてくれるタイプらしい。
「一人暮らしだからな。そもそもあまり洗濯物も出ないんだよ」
「なーる。自然と家族がいる前提で考えちゃった、えへへ♪」
「高校生なんだし普通はそうだよな」
高校生での独り暮らしは極めて珍しい。
この物価高だ、親も経済的にも大変だろうし。
や、もちろん俺には実感はないのだが、社会情勢は理解している。
そんなことをなんとなく思っている俺の前で、桃花は洗濯機周りをあれこれ触り始めた。
「ええっと、洗剤はこれかな? わっ、なにこの高そうなの! スーパーでもホームセンターでも見たことないんだけど! いいなぁ」
声を弾ませる桃花が洗濯機に洗濯物を入れ、洗剤と柔軟剤をセットして、スタートボタンを押した。
「これでよしっと」
そして俺はそれら一連の動きをジッと観察していた。
「ふむ……」
「な、なに……?」
「や、気にしないでくれ。桃花はそのまま自然体で」
「そう……?」
洗濯機を動かしてリビングに戻ってきた桃花は、散らかった部屋を改めて見ながら言った。
「掃除機をかける前に、まずは要るものと要らないものを整理かな。ビニール紐ってある?」
「確かこの辺にあったはずだ」
俺は収納ボックスを漁ると、ビニール紐を取り出して桃花に渡した。
「ありがとー。ちなみにこれも高級なやつだったりする?」
「や、それは近くのホームセンターで買ってきたやつだな」
「そうなんだぁ」
「俺も不要な新聞やらなんやらをまとめないといけないな、とは思ってはいたんだよ」
「あ、思ってはいたんだ?」
「思ってはいたんだよ。ただ思っただけでな……」
「あはは」
「っていうか高級なビニール紐ってあるのかな? 業務用で耐久力があるものはそりゃあ高いだろうけど、高級とはまたちょっと意味が違うよな?」
「だよねー。わたしも自分で言って何それって思っちゃった♪」
というわけで「高級ではない普通のビニール紐」を受け取った桃花は、ラックに乱雑に突っ込まれていた、読み終えた古い新聞をまとめてビニール紐で縛りはじめた。
桃花は実に手際よく新聞を片付けていたのだが、ふと新聞の名前を見た桃花が小首をかしげた。
「日本経済新聞……? こんな名前の新聞あるんだ?」
「略して日経新聞なんだけど、聞いたことないか? かなり有名なんだが」
「うん、ないよ」
「ああ、そう……か」
あっさりと断言されてしまった。
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