第15話 タワマン
◇
俺は桃花と連れ立って一人暮らししているタワマンへと向かった。
「この辺りって、高いマンションがいっぱいあるところだよね? いわゆる高級住宅街?」
「そうだな」
「正道くんはやっぱりすごいお金持ちなんだね」
「まぁな。って言っても俺の親がだけど。別に俺がすごいわけじゃないよ」
俺はただ親ガチャの特賞に当たっただけの、並よりちょっとできるだけの「カテゴリー:凡人」だ。
「なに謙遜してるのかなー? 正道くんは普通にすごいと思うけど? スポーツテストも学年1位でしょ? 主席入学で新入生代表の挨拶をしたでしょ? 野球部のヘルプでピッチャーもやったって聞いたよ? 女子はみんな憧れてるのに」
「みんなってことは、桃花もか?」
「え”っ!? わ、わたしは別かなぁ~!? 期待させちゃってごめんねっ!?」
「別に期待とかしてないから」
「隠さなくていいから~」
「隠してないってーの」
「もぅ、正道くんは強情だねっ。いいよ、そういうことにしといてあ・げ・る♪ あ、見て見てっ! タワマンだよ、タワマン!」
他愛もない話で盛り上がっていると、桃花が進行方向すぐ先に見えたタワマンを指差した。
「ああ、タワマンだな」
「わ~、高いね~。ねぇねぇ知ってる? このタワマンってこのエリアで一番高い建物なんだって。この前ゆかりんが言ってたの。でもでも真下から見るのは初めてなんだけど、すご~い!」
「ここだ」
「最上階とかどんな人が住んでるのかな? 石油王とか? 眺めが良さそう~♪ ……え、今なんて?」
タワマンを見上げてはしゃいでいた桃花が、ギュイン! と高速で上半身を捻って俺を見た。
「ここが俺んち。ちなみに最上階な。ほら、はしゃいでないで入ろうぜ」
俺がカードキーを取り出して入り口のダブルオートロック(+警備員が2名常駐、最新のAI監視カメラ付き)を抜けようとすると、
「ちょ、ちょっと、あの? えっと? ま、正道くん?」
桃花が俺の前に回り込んで立ちふさがると、俺の肩を両手でガシッと抑え着けるように掴んできた。
野球部の助っ人をしたのと借金返済絡みで少し寝不足なで、肩が凝っていたのもあって、なんだか微妙にくすぐった気持ちいい。
「どうした?」
「あの、ここ、だって、えっと、タワマン、だよね?」
「なんで微妙にカタコト? タワマンに入るのは初めてか? 基本的な構造はマンションと変わらないぞ。ほら、行こうぜ」
俺が移動を促したものの、しかし桃花は俺の両肩をロックしたまま動こうとはしない。
「確認なんだけど? 正道くんはここに住んでいるってことだよね?」
「ああ。さっきも言ったけど、ここが俺んちだよ。この春から最上階の部屋で一人暮らしをしているんだ」
そもそもこのタワマン自体がライオネル・グループが開発・販売したもので、最上階などの一部区画は父さんやグループ企業が保有している。
俺はそれを使わせてもらっているにすぎない。
「――――」
桃花が絶句した。
俺を見つめつつ、肩をロックしたまま固まってしまっている。
「桃花?」
「──――」
呼びかけても返事がない。
気のせいか、なんか呼吸まで止まっているような……。
「桃花? おーい! 桃花! 桃花!」
俺が慌てて強めに呼びかけながら、桃花の目の前で手の平を左右にブンブン振ってみると、
「……はわっ!?」
桃花の肩がピクンと小さく跳ねた。
ようやっと気を取り戻したようだ。
呼吸も普通に戻っていた。
「ごめん。ちょっと驚かせようと思ったんだけどさ。そこまで驚くとは思ってなくて。ビックリさせちゃってごめんな」
俺は何事もやり過ぎはいけないなと、肝に銘じながら謝った。
すると桃花はブンブンと力一杯に両手を左右に振った。
「ううん! 正道くんは悪くないし! タワマンに驚きすぎたわたしが悪いんだし!」
言いながら、桃花は背伸びしてズイッと顔を近づけてくる。
俺はその勢いに飲まれるように、「お、おう」とコクコクと頷いた。
ふと、エントランス脇の守衛室から守衛さんがこちらを見ていることに気が付く。
俺の顔は当然知っているから、不審者と思われたわけではないはず。
たんに入り口付近で騒いでいるから職務上、念のためで見ているだけだと思う。
だが可愛い女の子と顔を近づけながらワイワイ盛り上がっているのを見られているのが、なんとも気恥ずかしく感じてしまって、
「ほら、行こうぜ」
俺は桃花の手を取ると、エントランスを歩きだした。
「う、うん」
桃花は言葉少なに答えると、俺の手を握り返しながらトコトコとついてくる。
桃花の手の柔らかい感触に、俺はなぜだか言いようのない緊張を覚えてしまっていた。




