第12話「だったらせめてお礼をさせてもらえないかな?」
ははっ。
さっきから桃花は驚いてばかりだなぁ。
普段の明るくにこやかな顔も可愛いけど、驚く表情はこれまた愛嬌があって可愛いもんだ。
「だから俺のこづかいの5か月分ってこと」
「……え? えっと? だから、な、なにが……?」
「これはあんまり他の人には言わないで欲しいんだけどさ。っていうか内緒にして欲しいんだけど」
「う、うん。約束するね」
俺の前置きに桃花が神妙に頷いたのを見て、俺は言った。
「俺は月にこづかいを1000万円もらってるんだ」
「…………?」
あ、桃花が固まった。
ポカーンと口を開けてしまっている。
まぁ聞いてはいるだろうと思って、俺は話を続ける。
「だから5000万は俺の5か月分のこづかいってこと。結構な額ではあるんだけど、俺的にはぜんぜん払えない額でもないんだよな。散財するような趣味もないから、貯金もかなりあるし」
俺はソシャゲの課金とか、Vtuberへの高額スパチャとか、ブランドものの収集といった金のかかる趣味はないので、月1000万円のこづかいなんて当然、使いきれはしない。
学校帰りに友だちにアイスをおごったり、ちょっと美味しいものを食べたりとか、まぁそんな程度だ。
ゆえにおこづかいの大半は貯金に回っている。
他にもお年玉とかも小遣いとは別で貰ってきたし。
今はタワマンで一人暮らしをしているが、これも全て親持ちだ。
「ふ、ふへぇ……」
俺の話を聞いた桃花は、へなへなと力が抜けたように椅子に沈み込んだ。
「納得できないかな?」
「急には納得しづらいんだけど……借金をあっさりチャラにしてくれたんだから、納得せざるをえないよね。でもでも、なんだか別世界の話を聞いてるみたいかも?」
椅子に座り直した桃花が小さく苦笑する。
「実際、別世界だと思うぞ。実家の借金で悩んでた桃花には悪いが、俺はお金にだけは困ったことはないからな」
生まれた時から親ガチャSSRの恩恵を受け続けてきた。
それが俺だ。
「なにせ実家がライオネル・グループだもんね。ちなみにこのこと、みんなには言ってないんだよね?」
「言ってもいいことないだろ?」
「あー、うん。それはそうかも。なんとなく言いたいことは想像つくかな。お金目当ての人が寄ってくるってことだよね?」
「そういうこと。だからこのことはみんなには内緒な。学校にも遠縁の遠縁の実質無関係の分家ってことで通ってるから」
少しでも世の中を知っている大人なら、俺の名字を見れば即座にライオネル・グループを連想してしまう。
俺の後ろに見える巨大な存在に恐怖してしまう。
過剰な忖度を受けないようにする必要が、俺には常に付きまとっていた。
「わかったわ。でも、どうしてわたしを助けてくれたの?」
「どうしてって。仲良くなったクラスメイトが酷い目に合いそうになった。俺には簡単に助けることができた。なら助けるだろ普通? そんな疑問に思うことか?」
「さすがに5000万円の肩代わりは、普通じゃないと思うけどぉ……」
「だから俺にとっちゃたいした金額じゃないんだってば。そこはイチイチ気にしないでいいよ。これ割とマジでガチの話な」
「わたしが気にするんだもん」
「桃花は真面目だなぁ」
「これが普通の感覚ですぅ! 正道くんがあまりにも普通じゃないんですぅ!」
ぷくーと頬を膨らませる桃花。
「俺の家庭が普通じゃないのは否定しないが……ま、ライオネル・グループのボンボンがクラスメイトだったことをラッキーだったと思おうぜ」
「ラッキーって、そんな軽い言葉で納得できないもん」
「意外とめんどくさい性格なんだな?」
おっとと、思わず素直な感想が出てしまった。
「全然めんどくさくないですぅ! 当たり前の感覚ですぅ!」
「一応言っとくが、俺だって見ず知らずの相手を助けたりはしないからな?」
「そうなの?」
「あの日、あの時、偶然にも橋の上で困っているクラスメイトと出会った。俺の勘違いとかいろいろあって、身の上話を聞くことになった。俺なら簡単に助けられると思った。だから助けた。それだけだよ」
「それだけって……」
「それだけはそれだけさ。俺は親ガチャに当たってラッキー。桃花は俺のクラスメイトでラッキーってな」
俺の言葉を噛みしめるように、桃花が沈黙した。
俺は黙ってそれを見守りながら、残っていたジンジャエールを完全に飲みほす。
桃花はしばし沈黙を続けてから――俺がドリンクバーにお代わりのジンジャエールを補充しに行こうかなと思ったところで――ゆっくりと口を開いた。
「だったら」
「ん?」
「だったらせめてお礼をさせてもらえないかな?」




