75話 最悪のパーティー~4~
どうしてこうなったのだろうか?
「…エレノア。」
「はい。お父様。」
姿勢を正して座りながら私は答えた。
あの後コーリアス夫人は無事に捕縛され、他のコーリアス派の貴族も国家転覆罪の疑いで現在拘束されている。少なくとも爵位剝奪は確定。極刑を避けられればラッキーといったところだろう。パーティーそのものも中止になり、参加生徒は学院へ、他の参加者も城外へ出ることは禁止されている。
そして私たちは城の一室で自分の親と向かい合っていた。
私たちというのは私、ミリア、リリア、ミナ、ルード、ルーウェン(モリスお兄様の友人のルー)、そしてお兄様たちだ。
「どうしてこんなことをした?」
お父様が口を開いた。
「私なりの考えです。」
じっとお父様を見つめた。
「…はぁ。
バチストお前がいながら。」
「自分はこれが正しいと判断いたしました。」
バチストお兄様の言葉にお父様は眉間を押さえた。
「わかった。もういい。」
「ミリア。お前もだ。」
お父様の代わりにミライブ伯爵が口を開いた。
「お父様だってコーリアス夫人に何も言い返せてなかったじゃありませんか。」
「それとこれとは関係ないだろ。」
ぶっきらぼうな様子でミライブ伯爵が言った。
「そうですか。それでもあの程度の人間に言い負けるなんてお父様には失望しました。」
ミリアも負けじと応戦し、二人は無言でにらみ合う形となった。
ミリア?意外と気が強い方だと思ってたけど、実の父親にそこまで言うの?
驚きのあまり、思わずそう口に出しそうになった。
険悪な雰囲気の中、お父様が口を開いた。
「ミリア嬢。ロイド(ミライブ伯爵)を責めないでやってくれ、エリーのことを知っていたからこそ悩んでしまったのだろう。嘘もつけない性格だからな。
ロイドもその辺にしておけ。娘の挑発に乗る必要もなかろう。」
「お見苦しい姿をお見せしました。ルミナリア子爵。」
「そうだな。ルイス(ルミナリア子爵)。」
ミリアもミライブ伯爵も言い合いを止めた。
「お父様。」
「何だ?エレノア。」
「これは私も怒ってよろしい感じなのでしょうか。隠しておいてほしいと言っていたのに。」
ミリアとミライブ伯爵のやり取りを見たからか、思わず私もお父様に言ってしまった。冗談めかした会話がしたかったのだと思う。
「父親同士悩みも相談するだろ。そもそもエレノアが目立つような行動ばかりとるからな。」
そうお父様が焦りながら話している途中、遮るようにミライブ伯爵が口を開いた。
「エレノア嬢。すまないね。元はと言えば、私がルイスに聞いてしまったからなんだ。」
「そうですか。私もお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。」
「エレノア嬢は物分かりがいい。」
ミライブ伯爵はそう言って笑った。
ミリアが不貞腐れたようにミライブ伯爵を見た。
ゆっくりと深呼吸をした。頭から無駄な思考が消えていった。
「いえ、せっかく皆様お揃いのときに親子喧嘩に時間を割くべきではないと考えましたので。口論の続きは帰ってからでもできますから。
それにしてもお父様方はどうなさるおつもりだったのですか?」
「皆を逃がすための方法をな。」
「負ける前提で考えておられたので?」
「向こうにグレースがいる以上な。技術も異なるし、兵の士気を維持するのも難しいだろう。今の民の様子を見ればそんなのは目に見えるだろう?
それなら、希望する人間だけでも別の国に行かせるのが簡単だ。」
「それでお父様方を含めた多くの貴族と陛下の首で事を済ませようと。」
私は横目にお父様を睨みつけた。
少しの沈黙の後にお父様は口を開いた。
「そういうことだ。」
ミリアが泣きそうな顔で自身の父親を睨みつけていた。リリアは唖然とした表情をしていた。そしてミナでさえも顔が凍り付いていた。
ただ私としては、可能性の一つになり下がったことにもう興味はなかった。そもそも予想がついていたのもあると思うが。
「今ならコーリアス派を完全解体できますから状況も変わりましたよね。」
「そうだな。して、エリーはどうするつもりなんだ?」
「先ほどお見せした通りです。帝国と同等の大義名分を手に入れたわけですから。
お互いがにらみ合うだけで済めばいいと思っていますけど、お父様はどう思われますか?」
「この機を逃すはずがないだろうな。」
「お父様も宰相閣下と同じお考えですね。
グレースが自国にいる今の状況下であれば、グレースの救済として大抵のことが正しいとされますからね。」
「それに今回を逃せば何十年何百年後になるからな…」
「ではお父様は私の考えに賛成してくれるということでよろしいですか?」
お父様は少し黙った後、首を縦に振った。
「ミライブ伯爵も、エルンスト子爵もよろしいですか?」
ミライブ伯爵はお父様の方をちらっと見た。お父様はそれに対し、
「構わない。」
とだけ言った。
「では私も協力しよう。」
ミライブ伯爵が先に言った。
「私もだ。」
エルンスト子爵も続けて言った。
「感謝いたします。」
私はそう言って頭を下げた。
「私としてはこの場で話したいことは終わったのですが、本日はこれにて解散で構いませんか?」
全員異論はないようだった。
ミリアたちが一番肩の力が抜けるのが早かった。他の大人たちもそれに倣って、場の張りつめた空気はとけていった。
そんな中私はルードに近づいて、耳元で言った。
「これが最後。引くとしたら今のうち。私の婚約者。
ミリアたちよりはるかに重いけど?」
「今更そんなこと聞くのか?」
ルードはニヤッと笑って言った。
「もう少し自分を大事にしたら?」
「説得力のなさをわかって言ってるのか?」
「捨てた人間だからこそ。」
「なら、それを横で見たからこそだな。」
「そっか。ありがと。」
私はルードからそっと離れ、エルンスト子爵に軽く頭を下げた。そしてお父様の元へ戻った。
「ごめんなさい。」
お父様だけに聞こえるようにそっと言った。
「ああ。」
「でもお父様はもっと酷いことしようとしたんですからね。」
「わかっているよ。」
「はい。」
「今日はお姉さまもモリスお兄様も家に帰って来ませんか?」
二人が嫁と婿に行ってしまったため家族でそろう機会が最近はなかなかなかった。
「それもいいわね。」
お姉さまはそう言いながら、私の目元をハンカチで押さえた。思わず涙が溢れていた。
「そうするか。」
モリスお兄様もそう言いながら私の頭に手を置いた。




