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グレース~エレノアの手記~  作者: 栗橋真縫
第一章
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76話 思い込み

「セレア皇女。ごきげんよう。」


「え…エレノア様。ごきげんよう。」

そう言うと、いつもセレア皇女は小走りで去って行ってしまう。

あれからセレア皇女に避けられていると思う。


「セレア皇女、今度お茶でもどうですか?」

今回も走り去ろうとしたセレア皇女を捕まえた。


「え、エレノア様…」

セレア皇女はすぐに目線を逸らした。


「最近お話もできていませんから。」


「…そうですね。わかりました。」

たじろぐセレア皇女だったが、しぶしぶと了承してくれた。


「エレノア様。本日のご予定は?」


「ちょうど済んだところです。」


「でしたら、これからどうですか?用意はこちらでさせますので。」


「私からお誘いしたのにセレア皇女に用意させるのは申し訳ないですよ。」


「エレノア様とお茶ができるだけで栄誉なことですから。

そのくらいはぜひ私にやらせてください。」


私がグレースだからそんなことを言っているんだと思う。今までだったら用意するにしても「話したいことがたくさんあって。ただの我儘です。」なんて言っていたのに。思ってたよりキツいな。ちゃんと仲のよい人間にこういう反応をされたのは初めてだ。



二人のお茶会が始まっても、お互いお茶にも手を出さないまま沈黙が続いた。

「こんな風にお茶をするの久しぶりのように感じますね。」

沈黙に耐え切れず先に口を開いたのは私だった。


「そうですね。忙しいと少し前のことがかなり過去のように感じますものね。」

セレア皇女はにこりと笑った。


再びの沈黙が私たちを包んだ。

次に口を開いたのはセレア皇女だった。

「エレノアは自分のことをどう思っているのですか?」


「グレースとしてってことですよね?」


「はい。」


「あんまりいいものじゃないですね。

何かを強制されるようで。」


「グレースでもそう思われるのですね。」


「ええ。グレースも所詮人間ですから。」


セレア皇女はキョトンとした表情を見せた。


「セレア皇女はグレースについてどう考えています?」


「神の使いだと…」


「そんな大それたものじゃないですよ。

聞いたところによると、グレースがその人生で成したものに意味があるらしいです。

人々がそれに気づくか気づかないかは関係ありませんし、私たちがそれに縛られる必要も本来はないんです。」


「そうなんですか。」


「そうですよ。どこまでいっても人間ですから。所詮ね。」


「エレノア様。怒ってます?」

セレア皇女がふと顔を上げた。


「別に…

どうしてそう思ったの?」


「投げやりな言い方に思えて。」

セレア皇女は不安そうな顔をした。


「セレア皇女はどうしてそのような顔をなさるのですか?」


「エレノア様を怒らせたんじゃないかと思って。」


「怖いってことですか?」


セレア皇女は首を横に振った。

「嫌われたんじゃないかと思って。」

未だセレア皇女の表情は変わらなかったが、少し嬉しかった。私に嫌われることを気にしてくれていた。


「エレノア様がグレースだと知って嫌だったんです!

私と関わってくれたエレノアはそういう風に演じていただけで、ここまでの準備だったんじゃないかって。結局わたしの地位を見てたんじゃないかって。」

感情を吐露したセレア皇女は泣きだしてしまった。セレア皇女は初めて会ったときと同じ不安を感じていたのだろう。


「演じられるほど私は器用じゃなかったですよ。」


「ごめんなさい。ごめんなさい…」

泣き止むのに数分はかかったが、セレア皇女はどうにか泣き止んでくれた。


「セレア。ごめんね。」


「エレノア様が謝る必要はないです!

私が勝手に勘違いして、一人で暴走しただけです…」


「私はね、受け入れられる自信がなかったの。誰もエレノアを見てくれなくなると思った。だからずっと隠してきた。

まあ、それでも成り行きでバレたんだけどね。」


セレア皇女は黙ったまま繰り返し頷いていた。


「でもセレアは違うかったでしょ?」

その言葉にセレア皇女はスッと目を逸らした。最初の自分の発言、態度が心に引っかかっているのだろう。


「少なくとも今は。」

私がそう言うとセレア皇女はゆっくりと首を縦に振った。


「エレノア様は…エレノアはいつから。」

セレア皇女がゆっくりと口を開いた。


「いつから?」


「えっと、ミリアたちはいつから知っていたんですか?エレノアのこと。」


「結構最近よ。」


私はミリアたちが知った経緯を話した。それだけでなく、いつから自覚があったかも、ほとんどすべてをセレア皇女に話した。


「やっぱりエレノア様って呼んだ方がいいですか?」

聞き終わったセレア皇女はむくれていた。


「セレア?」


「だって私だけ教えてもらってなかったんですよ。

宰相ですら知ってたのに。」


「セレア。拗ねてるわよね?」


「…もちろんですよ。」

セレア皇女は口を尖らせた。


「セレア…」

ふとリアナに肩を叩かれた。もうそろそろ時間らしい。

セレア皇女もそれに気づいた。


「続きは後日の方がよさそうですね。」


「お気遣いありがとう。セレア。

次こそは私が用意するわね。」


「では、楽しみにしておきますね。エレノア。」

セレア皇女はそう言ってにっこりと笑った。


「セレア…含みを感じるのは気のせい?」


「どうでしょう?

私の気持ちはほとんど晴れたのですけど。」

セレア皇女は楽しそうに笑った。


「ほとんどね…残りが気になるけど。」


「気にしないでください!」


「…ええ。わかったわ…

では、また。」


「はい。よろしくお願いします。」

セレア皇女はにっこりと笑って言った。


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