70話 考えたくなかったこと
「ごめん。少し時間を頂戴。
大丈夫。あなたたちのことは裏切ったりしないから。」
「エリー!? 何があったの?
見せて。」
無理やりにでも手紙を奪おうとミリアが手を伸ばした。
私は無言でその手を跳ねのけた。
「悩んだら相談するって言ったわよね?」
詰め寄ってきたミリアから目を逸らしていった。
「それでも全てを話せるわけじゃないでしょ?」
「嘘つきね。」
「嘘つきでも何でもいいわよ。
今日は帰らせて。」
「エレノア様…」
ミリアはそれ以上引き留めようとはしなかった。リリアとミナは引き留めようとしたもののそれを無視して屋敷に帰った。
「エレノア様。私にできることがあれば何でも仰せください。」
「わかった。」
「私は主を失って路頭に迷う予定はありませんからね。」
リースなりの精一杯の冗談だったと思う。
「大丈夫。死ぬまで困らないくらい退職金は渡すから。
それにまだしばらくは付き合ってもらうし。」
そう言う私の顔は死んでいたと思う。
「かしこまりました。では失礼いたします。」
こんなところで会うとは思わなかった。初めは会えたらいいななんて思ったし、リアナがそうじゃないか疑ったこともあった。でも、同じ世界の出身でもなければ、グレースでもなかった。だから、再開できるなんて幻想、夢物語だと思っていた。
でもこんなことなら気づかないままでいたかった。
奏を殺さなければならない。殺さずとも全てを奪わなければいけない…
「あはは…最悪。
もう決めてたのに…決められないふりしてた…」
自分を理解するために呟いた言葉だった。
せっかくの提案だけどお断りするわ。ありがとう。
それにしても、一緒に火事に巻き込まれてこんなところで再開することになるなんて思わなかったわ。
そっちと同じような提案になるけれど、私なら奏の安全を保障してあげられる。
奏の友人家族までは必ずどうにかする。だからお願い。
もしそれが無理だったら。
今まで本当にありがとう、奏。さようなら。
手紙を書いていると涙が溢れてきた。せっかく書いた手紙が濡れてしまうのに我慢できなかった。
「リース。後はお願い。」
リースを呼んで書き終えた手紙を渡した。
「もう寝るから、今日は起こさないでってルイーシャに伝えといて。」
「ヴィクトル様が心配なさるのでは?」
「少し体調を崩したとでも言っておいて。」
「かしこまりました。」
ずっと一人でベッドにうずくまっていた
「エリー。」
「体調が悪いとお伝えしたはずです。
それに、そもそもどうしてこちらにいらっしゃるんですか? お姉さま。」
「私のことはいいから。軽くは食べておきなさい。」
机の上にスープが置かれた。
「わかりました。」
「何があったの?」
心配そうな声でお姉さまが聞いてきた。
「誰から聞いたのですか?」
「リアナがわざわざ教えに来てくれたわよ。」
「お父様たちには?」
「二人は知らないみたいよ。私も口裏合わせるから。
カナリアがどうかしたの?」
思い出したくないことが、考えたくない未来が、頭を駆け巡った。
「放っておいてください!」
「そんなに話したくないことなの?」
「はい。」
知らない方がカナリアに対して冷血になれる。
「お姉さま方が知らなくて困ることはありませんから。
知らないでいてくれる方がかえってありがたいです。」
「そう…そこまで言いたくないのね。」
「これだけは…」
「わかった。ならいいわ。
無理はしすぎないように。」
そう言葉を残してお姉さまは部屋を出ていった。




