69 知らない方がよかった
ついに帝国がカナリアの存在を公表した。絶対的な存在というのはなかなかに面倒なものだ。
カナリアのことはみるみるうちに広まっていき国中大騒ぎだった。
帝国に支配されるのが正しいという意見まで見受けられるほどだった。
「予想よりはるかに酷いのね。」
ミリアが落胆して言った。
「気持ち悪いくらいに盲目的。
私が隠したかったのもわかるでしょ?
神輿になるのはごめん被りたいわ。」
私はそんな皮肉を言いつつ、苦笑いしか出てこなかった。
「気持ちはわからなくもないですけど。」
リリアがぽつりと言った。
「え、そうなの?どうして?」
正直驚いた。
「私もリリアと同じですね。」
ミナもリリアの発言に続いた。
「ミナまで…
だって支配権がコーリアス派閥に移るのよ。」
「私たちのような人間が派閥争いがあることを知る機会なんてそうそうないですからね。そう考えると、不思議ではないですよね。」
ミナが言った。
「リリアも同じ?」
「私は昔から教え込まれてきましたけど。」
ダストさんの商会のところの関係なのだからそれはそうだろう。
「けど、エレノア様を神聖視していた時期がありましたから。」
「今はどうなの?」
面白半分に問い詰めるとリリアは少し目を逸らした。
「リリアー?
目を逸らさないで。」
「気のせいではないですかね?」
リリアはそう言ってそっぽを向いていた顔をこちらへ向けた。
「そんな風に話せてる時点で問題ないわね。」
少し笑いが込み上げてきた。
「私はそうですね。」
そんな風に久しぶりに楽しく話せていたさなか、扉がノックされた。
「リースです。失礼いたします。」
「どうしたの?」
「エミルからです。」
「エミル?
今それどころじゃないんだけど…」
「それが…それどころでして。」
リースがおずおずと差し出したのは手紙だった。
「誰から?
それが書いてないんです。」
「開けたら毒でした、みたいなことはないわよね?」
「どうでしょう?
では開封してからお持ちしますね。」
「リース。大丈夫?」
「食べなければ!」
「そう。一応気を付けてね。」
「わかりました。」
そう言って出ていったリースはすぐに戻ってきた。
「中は手紙でした。」
「私宛なのよね?」
「そうです。」
「誰から?」
「カナリア様からです。」
リースがそう言った途端、その場の全員が凍り付いた。
「今更何なのよ…
かして!」
イラついた口調でリースに言ってしまったのは申し訳なく思ったが、それよりも焦りが勝っていた。
手紙に目を通した。
「エリー。なんて?」
「寝返りたくなってきた…
まあ、冗談だけど。」
「どういうこと?」
リアナが興味深そうに覗き込んでいた。
「私たちのこと助けてくれるって。」
「目的は?」
「不明。まだ読み終わってないから、条件くらいはこの後書いてるとおも……」
思わず固まった。
「エリー?」
そのリアナの声はほとんど聞こえなかった。
聞いてる余裕なんてなかった。
エレノア、あなた神崎英莉奈だったりしないかしら?
もし違うかったら忘れて。あなたとやり取りして昔の友達を思い出しただけだから。
あなたにも居たでしょ?ここに来る前の家族や友達が。今回の提案は、その友達の代わりに恩恵を受けれたくらいに思ってくれればいい。
かつての友達の冥福と今の友達の幸福を願って。 石巻奏
その文章を見た瞬間、色々な気持ちが混ざり合って涙が溢れてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも…」
泣いてるところを見られたくなくて手で目を覆ってしまった。
最悪だ…何を優先したらいいのかわからない。全部放り投げて逃げ出してしまいたいと思った…




