68話 諦め
「みんなに集まってもらったわけだけど。」
「エリー。変わった?」
いつもと何ら変わらない様子でミリアが言った。
「どうかしらね。」
絶対にルードは私のそばにいてくれる。それだけで十分な救いだった。それにミリアたちも少しずつ受け入れてくれるだろうという信頼があった。
「ルードがいるからかしら?」
「それはあんまり関係ないわよ。」
「あんまりってことは…」
リリアがボソッと呟いた。
「リリア。変な想像はしないで…
さて仕切り直して、私のことを知った人に集まってもらった…」
「いつもエリーがお世話になってるわね。」
「お姉様!」
私が話そうとしているのを無視してルードに話しかけているお姉様の方を見た。声が耳に入ったのはお姉さまだけで話しかけているのはお兄様たちも同様だった。
「お兄様たちも…後にしていただけませんか。」
モリスお兄様だけ少ししつこく話し続けようとしたが、モリスお兄様にたしなめられて戻ってきた。
「では2回目改めて、集まってくれてありがとう。私のことを知ってる全員に集まってもらったわけだけど。」
「父上は?」
「お父様はお父様で動いておられるようだし、私たちは私たちで動く。
このままだと私を使おうとしないだろうから。引き返せないところまで話を進めておきたいの。」
「まずは?」
「まずは…全然決まってない。それを相談するために呼んだから。正直こっそり動ける範囲のことはもうない気がしてる。」
「エリー。そもそも隠す必要性はあるの?
この前カナリアに会ったじゃない。それならそろそろ帝国側に知られていても不思議じゃないわよね。」
「それもそうね。」
ミリアの言葉通りだ。もうコソコソと動く意味がなくなった。
「誰を味方につける?
というより誰が味方なの?
同派閥内でも全員が信用できるわけじゃないでしょ。派閥間のスパイもいるでしょうし。」
「正直私にはわからないのよね。
バチストお兄様ならご存じですよね」
「知っている。だが父上に伝わらないようにもしなければならないんだろ。」
「そうです。ですからミライブ家もルシアス家も駄目です。お兄様とお姉さまの婚約者の方も駄目でしょうし。」
「あてがほとんどないぞ。そうなるとわかったうえで黙っていてくれそうな…
エリーこそいないのか?交友関係自体は私よりも広いと思うが。」
「陛下くらいですかね。」
「他は?」
「私はあんまり深くかかわってきていませんでしたから、人となりまでは…
ルードのところは駄目?」
「うちも駄目だろ。エリーとの婚約が決定している状況だからな。ちゃんとした繋がりがあるわけだし。」
やっぱりお父様を説得する方向しかないか?
正直五分五分だと思っている。すんなり受け入れられるか、絶対に反対されるかのどっちかだろう。
「宰相閣下なんてだめですかね?」
「モリスお兄様。ですが、お父様は宰相閣下の元で。」
「だからだよ。横の関係じゃなく縦の関係なら情報の伝わりも遅いと思うんだけど。
兄上も宰相閣下の元にいるわけだし、エリーとの面識もある。」
確かにバチストお兄様は今宰相閣下の元で働いておられるし、アポは取りやすい。
「宰相閣下は今回の件の対応を考えておられるだろうし、エリーが出てくると解決しやすくなるわけか。」
「そういうことです。思慮深い方ですし私が提示できるメリットとしても十分でしょ。」
「バチストお兄様、お願いしてもよろしいですか?」
「わかった。」
これしか方法はなかったしこの場の全員が納得してくれると思っていた。
「悪いのだけど、私は反対するわよ。」
そう発したのはお姉さまだった。みんなの視線はそこに集まった。
「どうしてですか?お姉さま。」
「エリーはどうなるの?」
「・・・?
と言いますと?」
「何のために今まで隠してきたの?」
「人として生きるためです。」
「ならどうして…」
お姉さまが泣きそうな顔をしていた。
「もうどうしようもないんですよ。」
張り詰めた空気の中、口から滑り出した言葉だった。私だって泣き出したかった。
「エリーたちだけなら亡命でも何でもできるでしょ。
お願いだからそうしてくれない?本当にお願いだから。」
「私がそうしたらお姉さまたちはどうなるんですか?」
「エリーが心配することじゃないわ。」
貴族位をもらうことが確定している状況でこの国から逃げ出そうものなら、その責任が家族にいくのは目に見えている。
「お姉さまが私を守りたい気持ちはわかりますけど…でもそれは私だって同じです。お姉さまたちのことがなかったら正直な話逃げることも考えました。
ですからわかってください。」
「どっちに転んでもエリーにとっては負けよ。」
落ち着いているが圧のある声だった。。
「失敗したらグレースを語るものとして処刑。成功しても救世主。エリーが望んだ日常はそこにないわよ。」
「わかっています。でも今一番大切なものはなくなりませんから。逃げたらなくなるんです。」
「でもね…」
「亡命先で私はどう生きたらいいのですか?」
「どうとでもなるわよ。資金も潤沢なのだから商売をしても生きていけるでしょうし。」
「そこにお姉さまたちはいないですよね?」
「ミリアたちはいるかもしれないわよ。」
「それでは質問の答えになっていません!」
お姉さまと目が合った。
わかってほしい。それだけの気持ちでお姉さまを見ていた。
伝わったのか諦めたのかはわからないが
お姉さまは少し不服そうながらも黙って頷いた。
「ありがとうございます。お姉さま。」
「言っておくけど納得はしていないわよ。それはわかっておきなさい。」
「もちろんわかっています。」
正直、お姉さまだけ納得してくれないのはなぜか少しうれしく思った。お姉さまはお姉さまなりに妹のことを案じてくれていることが分かったから。やけにツンデレ口調だったのは置いておいて。




