66話 二人目
「エレノア様、これが読めるのですか?
帝国で使われている文字ではないようですが。」
カナリアが残していったもの読もうとしたがリリアには読めなかった。
「ええ。私は読めるわよ。グレースってそういうものなのよ。」
しばらく考え込んでいたところに司祭が戻ってきた。
「カナリア様はお帰りになられました。」
「そう、ありがとう。
あと、これの写しってどこにあるかわかるかしら?」
「それはですね…少し失礼します。」
司祭は資料の端に書いてある数字を確認した。
「こちらですね。」
少ししてその物を取ってきてくれた。
中にさっと目を通して同じであることを確認しリリアに渡した。
「リリアこれをそのまま写してくれる?図もそのまま綺麗に。」
「これをですか?」
「そう。これと中身は同じだから。」
英語で書かれたものを指さして言った。
「かしこまりました。」
「エリー…」
「カナリアはどうすると思う?」
「私にはわからないわよ。エリーの方が付き合いは長いのでしょう?」
「そう言われても、紙の上だけの関係よ。
とりあえずは、皇帝に私のことを話すかどうかそれ次第ね。」
「話せないんじゃないの?」
「そこのところは私もよく知らないのよ。そもそも細かい決まりはないだろうし。」
「そうなのね。なら様子見かしら?」
「そうなるわね。」
ずっと後手に回っている。今もカナリアの言葉を信じて、願うことしかできない。それがあまりにもやるせなかった。だからと言って出来ることもない。急いで準備することだけ。
「エリー。相手も今からなんだから慌て過ぎないようにね。」
私の心うちを察したかのようなリアナに諭された。
「わかったわ。ありがとう。」
「カイ。これを作ってほしいのだけど。」
本山から帰った後、私だけは別行動でカイの村に来ていた。製鉄技術などが集まっており、外からの緩衝を受けずに自由にやれる場所だから。
カイは設計図を一瞥し、すぐに向き直った。
「かしこまりました。
それにしても、エレノア様自らいらっしゃるなんて珍しいですね。」
「そうよ。私が直接来たのだから。なら言いたいことはわかるわよね?」
「そういうことですか。選定したメンバーの詳細を数日以内に送らせていただきます。」
「よろしく。
カイもこの村も成長したわねー。」
居住域が増えるに従いスラムの人間を受け入れていた。
「初めて会ったころは無力で決断力のない青年だったのに。こんなに立派になって…感慨深いわ…」
冗談っぽく目頭を押さえた。
「無力じゃなくしてくれたのはエレノア様ですよ。本当に感謝してます。
でも、自分より年下の方にその言い方をされると何というか違和感ありますね。」
「ん、なに?」
「いえ、決して敬意がないとかそういうわけではなくて…」
カイは慌てたように自分の失言を誤魔化した。
「半分冗談だから別にいいわよ。私自身も“何言ってるんだろう?”ってなってたから。」
「そうですか。」
「そこ何かフォローとかないの?笑うなりなんなり。せめて冷静にならないでくれないかしら?」
「横暴ですね。」
「私もそう思う。そういえば、初めてあなたの村に来た時の私は横暴だったかしら?」
「何を言ってもよろしいので?」
「構わないわよ。私は今これを見て自分は正しかったと思えてる。だから当時のあなたが何を思っていようと関係ない。それに今でも不満があるのならそれは聞く価値のあることでしょ?」
「そうですね。無茶苦茶でしたけど横暴ではありませんでした。正しかったです。ですが、少し怖さもあります。」
「怖い?」
「はい。エレノア様の話だけを聞いていればいいと思ってしまいまして。上が変わっただけでそこに依存していると言いますか。決してエレノア様が悪いというわけではございませんが。ただ、自分の価値のなさを自覚して、考えるのを辞めてしまっている気がして。」
「ただのイエスマンになりそうってことよね。でもその自覚があるかどうかは大きいんじゃないかしら?
それなら間違いにも気づけるでしょ?」
「エレノア様は大人ですね。」
「信用されるためにはね。」
「エレノア様も悩まれることがあるんですね」
「あるわよ。私をなんだと思ってるのよ。」
カイの対応に少しほっとした。背負っていたものが二つほど軽くなった気がした。




