65話 グレーセス
「ようこそいらっしゃいました。エレノア様。」
エルセース教の本山に来ていた。出迎えてくれた司祭も連れて図書室に向かってた。
「出迎えありがとう。先に手紙に書いた通りこの三人も図書室に入りたいのだけどいいわよね?」
三人を目でちらっと確認して視線を戻した。
「それは構いませんが…」
何か不服そうな様子に少しイラっときてしまった。
「三人に何か問題があるの?」
「それはございません。ですが…少しお待ちください。」
その言葉を無視して図書室の扉を開けた。
そこには先客がいた。
「どなたかしら?」
その先客は顔を上げてこちらを向いた。
その立ち振る舞いには同じ匂いを感じた。おそらく貴族。
「申し訳ありませんがこの場においては名乗る義務がないと思われますので、リナとでもお呼びください。」
私はエリナをもじって適当にリナと名乗ってみた。
「そう残念ね。もう少し仲良くしてくれてもいいのにね、エリー。あなたよね?
奥のお三方は初めましてね。カナリア・フォン・レミストールです。以後お見知りおきを。
エリーからしたらエレアの名前の方が聞きなじみがあるわよね?」
そう言って笑うカナリアが恐ろしく見えたことは言うまでもない。
どうして私は案内の司祭の言葉をちゃんと聞かなかった?
気持ちが急いたことでリスク管理が疎かになっていた。最悪だ…
「そうね、カナ。美人になりすぎていて気が付かなかったわ。」
笑みを返した。
「ミナやめなさい。」
武器はないものの戦闘態勢に入ろうとしたミナを静止した。
「いつから予想がついていたの?」
どこでバレたのかがわからなかった。
「それはお互い様じゃないかしら。エリー?」
「皇帝の妃になるには貴族位が少し低かったんじゃない?エレア家は。
そもそも今ではエレア家は無いし、変なことが多すぎたのよ。」
カナリアの顔が一瞬曇ったように思えた。ただそれをごまかすように軽く笑った。
「そういうことね!
そう言うエリーもあんまり変わらないのだけどね。商会まで作って目立ちすぎ。後はここで会ったタイミングと商会の動きが一致しすぎている。疑うには十分ね。」
「まあ、そうなるわよね…
さて、どうするの?あなたの口ぶりからするに確信はなく今初めて確定したみたいだけど、どうするの?」
「あら、これでも可能性すら誰にも話したことないのよ。」
「で、確信を持った今はどうするの?」
「どうもしないわよ。
あなたたちのところが一枚岩じゃないように私たちのところも簡単にはいかないのよね。あなたと接点があるだけで不利になることも多いと思うから。それはそうでしょ?家柄の低い人間が簡単に皇帝の妃ですものね。私を引きずり下ろしたい貴族なんて両手で数えきれない。」
余裕そうに言うカナリアに違和感を覚えた。どうして自分が不利になる可能性のある手札を見せたのか。
「それでも、皇帝くらいになら言うんじゃない?
あなた妃でしょ?」
「あの人か…言わないわね。
エリー。今の価値観か前の価値観かは知らないけど、全ての婚約が幸せを得るためだと考えない方がいいわよ。私はそれを学んだの。」
「こんなものでいいかしらね。私はこれで帰るわ。あなたもそれを探しに来たんでしょうから置いておくわね。
ここでのことは誰にも言わないし、護衛も全員別室で待機させてるから知る余地もないわ。
それとエリー、もう文通やめましょうか。お互いの立場も確定したわけだし。
今までありがとう、さようなら。次に会うのはどこかしらね。」
笑ったカナリアの顔に一筋の涙があった。
「そうね、さようなら。」
嫌な別れだった。
「司祭様。リアナたちの様子を見てきていただいてもよろしいですか?鉢合わせないようにだけお願いします。」
「かしこまりました。」
司祭はカナリアの通った扉から急いで出ていった。
「エリー…」
「ミリア…ごめんミスしたかもしれない。」
どうしていいかわからずはにかんで笑って見せた。
「リリアに聞きたいのだけど、どんな感じがした?カナリアのこと嫌いになった?」
カナリアの言動には違和感が多すぎた。私のことを大して詮索もせず自分のことだけを話していた。
感受性の強いリリアなら何か思うことがあるのだろうか?
「なんとなくですがミリア様やエレノア様に近いような。特にエレノア様に似ているように思いました。中等部の始め頃の。」
中等部の始め頃か…
ふとカナリアが残していった本が目に入った。書いてあったのは銃の構造。
そこまではよかった。目的は武器の作製図を探しに来ることだったから。
「…!!これ原本よね…」
ただ書いてある言語がこっちのものではない英語だった。これを読めたということ、これを私に渡したということは、国はわからないまでも同じ場所からきている。そしてカナリアもそれをわかっている。
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