64話 グレース2 ~4~
「これからどうするの?」
「正直今はどうしようもないのよね。本当に何もかもが嫌になる…
ミリアは何か案ない?」
「私に言われても困るのだけど。エリーの好きなようにすればいいんじゃない?
サポートはするわよ。」
「正直、商会で稼いだお金を持ってどこか遠くの国に亡命したい。」
「どういう冗談かしらね。冗談なら少し不謹慎じゃない?
それが本音なら…絶望的ね。今の状況は。」
「冗談言ってられるほどの余裕はないわよ…
帝国はもちろんだけど、この国の動きすら秘匿されてるのにどうしろと…
学院が休みに入ったら本山に行くわよ。」
「本山って…エルセース教の?」
私は疲れた顔で頷き、言葉を続けた。
「向こうのグレースの情報は手に入らないと思うけど、行く価値はあると思う。」
「それって敵のところに行くことになるんじゃないの?」
「エルセース教が教義通りの存在なら敵ではないわよ。味方でもないけど。常に傍観者を貫くはず。今回は特に。」
「そんなにペラペラと話してていいの?」
「これくらいなら大丈夫よ。何の問題もないわ。」
自覚があるかは別にして、ミリアは未だにグレースが神の使者だと信じている。エルセース教も信じている。前世の記憶を持っただけの存在のグレースが狂人扱いされずに生きるのをサポートするための機関がエルセース教だとでも教えてしまえば、全ての価値観がひっくり返ってしまうと思う。これだけは家族も含めて誰にも話したことはないし、今後も永遠に話すことはない。
逆に言えばそこの部分だけ避けていれば問題はないと思っている。
商会に戻るとリリアが待っていた。
「久しぶりね。リリア。」
「…お久しぶりです…エレノア様…」
リリアの声の端々には震えがあった。
「まずは掛けなさい。」
リリアは促されるがまま向かいの椅子に座った。
「何をしに来たの?」
本音としては半々だった。リリアに戻ってきてほしい気持ちと、あの時にすぐに決断してくれなかったことに対する失望の気持ち。わかってはいる、後者はただのわがままだと。あの状況下で答えを出すことを私は出来ない。
「謝りたくて。エレノア様に。」
「謝りたい?
いったい何を?」
「エレノア様がグレースなのを知って距離を置こうとしてしまって。」
「どういうこと?」
大雑把すぎてリリアの言いたいことがよくわからない。
「もしかしてこれも失礼に当たりましたか?」
リリアの顔は真っ青になっていた。
「そうじゃなくて、もう少し具体的に説明してくれるかしら?」
「ですので、その、エレノア様がグレースだからとミリア様に進言したときの。その、エレノア様はそれを望んでいなかったように思われて…
終わってみればその言葉はよくなかった、というかなんというか…」
「もしかして、その罪悪感が原因?」
「はい。」
そう言って、リリアはコクリと頷いた。
「あはは!」
思わず笑いが込み上げてきた。言葉遣いも乱れてしまうほどに。
「そうか~、そういうことね。そんなの別に気にしなくていいわよ。あんなの当たり前の反応よ!
あれはミリアの肝が据わりすぎてただけ。もしあれで駄目ならどうするつもりだったのかしらね。」
「ずっと騙されてたことを知って絶望していたわね。」
ミリアが横から口を挟んできた。
「言い方からはそこまでの重さが伝わってこないけど?」
「過ぎたことだから、かしらね。」
ミリアは冗談めかして言った。
「そういうことだから。リリアもあんまり気にしなくていいわよ。ドーランの図太さを少しは見習えばいいんじゃない?」
「正直、あれは見習いたくないですね。」
辛辣な言葉がリリアの口から飛び出した。
‘あれ‘か…その通り。
「いいじゃない。その調子よ。ね、ミリア。」
ミリアは満足げに頷いている。その横でミナも笑いながら頷いていた。
「リリア。今後もよろしくってことでいいのよね?」
「はい。よろしくお願いいたしします。」
ミリアは顔を上げて答えた。




