63話 グレース2 ~3~
「ミリア。」
「何?エリー。」
「リリアはもう戻ってこないと思う?」
この前の教会での件から私は一度もリリアと会っていない。
「ミリアはあれ以降も話してるのよね?」
「ええ、そうだけど。
エリーはどっちがいいの?戻ってきてほしいの?」
「戻ってきてほしくないと言えば違うけど、無理に命令するのもね…
今でもこれだけややこしくなってるから。」
「そうかしら?それが嫌だからじゃないと思うわよ。
もう少し待ってみたら?」
「それはそのつもりよ。どっちの選択にしてもリリア本人から説明してほしいもの。」
「それは…断れないんじゃないかしら?
おそらく関係ないでしょうけど。」
「にしても、ごめんね。ミリア。付き合わせちゃって。」
「いいわよ。ドーランのことを陛下に進言するのにその時の当事者が一人しかいないってのはあれだものね。」
「お久しぶりです、陛下。本日はお時間をいただき誠に感謝いたします。」
「久しぶりじゃな。エレノア、娘から度々話を
二人ともかけてくれて構わないぞ。」
「にしても災難じゃったな。」
「お気遣い感謝します。
本日はそのことについてお話があるのです。」
「確かに、コーリアス派は最近目に余るが…」
「私はコーリアス派の現状をほとんど知りません。私が中等部に入るころ、4年ほど前から大人の口からはめっきり聞かなくなりました。しかし、陛下は先ほどコーリアス派が目に余ると仰っていました。何が起こっているのですか?」
「今は言えないな。」
「私の立場を踏まえてもですか?」
「エレノアはまだ貴族位を得てはいないであろう。」
「それはそうですが私たちは既に巻き込まれた当事者なのですよ。」
「当事者と言うが、ドーランとおぬしらが揉めているのは今までずっとではないか。今回のことに関してもその延長戦ではないのか?」
「そうかもしれませんね。
では一つ質問をさせてください。今この国にグレースはいますか?」
この問いに答えは求めていない。グレースなんていう絵空事に近い存在に対する反応を見たかった。
「…エレノアのような聡明な子がどうしてそんな突拍子もないことを言うのだ?」
「この国の少なくとも陛下側にはいないですものね。だからこそ、困っていらっしゃるのでは?」
フレール大司教に確認は取っていた。あくまで、私のようにグレースであることを完全に隠していたかったような人間については何も教えてもらえないが。
「そしてグレースがいないからこそ、大義名分がない。それに歯向かうことこそ悪となってしまう。そうですね?」
初めに可能性は4つあった。一つはコーリアス派またはその周囲にグレースを偽称する人物がいて扇動している可能性。ただこの場合はその人物が証をどうやって手に入れたかは不明で可能性は低い。二つ、ドーランと近しい人物の中に非公表のグレースがいる可能性。そのために証を知っていた。これならば大事になる可能性はかなり低い。ドーラン一人がから回っているだけと考えて問題はない。大きく動くのであれば非公表ではなくなるからそこから対策もうてる。三つ、ドーラン自身がグレースである可能性。もしそうであるならばドーランの性格を考えるにそこに自己価値を見出そうとするだろうからこれも低い。四つ、コーリアス派を誰か本物のグレースが扇動している可能性。証のことからグレースが実際に関わっていると仮定した場合、これが一番可能性が高い。
「どうして…そう思った?」
まだ私の立場は隠したい。ミリアたちには不慮の事故でバレたが、ここで自分からバラしてしまうと非公表にしている私の立場が変更され、事実が広まる恐れがあった。
私は首につけたネックレスを外して机に置いた。
「私たちがドーランと対峙していた際、私のネックレスを見てドーランがグレースという発言をしました。このネックレスは今でこそただ珍しいアンティーク物ですが、かつてはグレースに与えられた証だったそうです。これはフレール大司教にも確認を取っております。
ドーランの発言に関してはミリアたちも聞いております。」
「はい、私もはっきりと聞こえました。」
ミリアの発言で陛下はますます頭を抱えた。
このネックレスは私のグレースの証ではない。証に似ているものを偶然見つけた際に気になって購入していたものだ。ただし、かつての証なのも事実だ。グレースが死亡するたびに証を回収することは不可能なため定期的にデザインを微妙に変えているらしい。
「…それをエレノアが持っていてもいいのか?」
「今では何の証明にもならないから問題ないと言われましたので。
しかし、私自身もそのようなことは知りもしませんでした。今回はドーランの発言があったので特別に教えてくださったそうです。私の口から申し上げては失礼かもしれませんが陛下も他言なきようにお願いします。
話を戻しますと、ドーランがグレースの証を見知っていたという事実からコーリアス派にグレースがいると結論づけたわけです。
そこで発生する問題もわかりきっていますから。」
「ヴィクトルも嫌なのを育てた…賢すぎるのも問題だな。」
「私が予想したのはここまでです。結局のところ何が起こっているのか教えていただけませんか?」
「一切の他言を禁ずるぞ。そなたらの父に話すのも城の談話室を使え。」
「帝国にグレースがお見えになったそうだ。」
予想の中でも最悪だった。
フレール大司教からグレースを公表している人物が一人だけ帝国にいるとのことは聞いていた。それを踏まえてかまをかけてみたのに…当たってほしくなかった。
「現皇帝はグレースと婚姻関係を結ぶという。もともと帝国はグレースが興した国だ。彼らからすればあるべき姿に戻ったといえるだろう。」
「その毒牙が王国にも及んできていると…」
言っている途中で服を引かれ、ミリアに止められた。
「その帝国がコーリアス派を取り込もうとしているということですね?」
ミリアの言葉に陛下は頷いた。
「そういうことだ。
後は先にエレノアが言っていた通りだ。グレースの元に動いているのであれば手が出せん。」
「そのグレースが偽物の可能性はないのですか?」
私の言葉で陛下の顔に諦めが浮かんでいた。
「ほとんどないであろうな。国という規模でそれをして教会や他の国々を敵に回す方が利がない。」
「一つ疑問なのですが、私たち学院生の間にそのような噂が一切ないのはどうしてでしょう?」
ミリアが口を開いた。
「そんな夢物語のような話の噂が多少流れたところでよくある話で終わりだ。
まだ帝国内の元老院、貴族くらいにしか正式には知らされていないからだろうな。民に知らせればすぐに広まるが、そうしなければ…な。」
そういうことか。帝国内の貴族たちに公表した時点で非公表ではなくなる。だから噂にはなったものの帝国外に情報が出ることはなかった。それでも教会のネットワークには関係ないから私はフレール大司教から聞くことができたのか。ただ非公表維持を頼めばそうできそうには思う。できないのか、忘れたのか、罠か。それとも途中で非公表に戻されたのをフレール大司教が無視したのか。
「陛下、ここで聞いた話は全て聞かなかったことにしてよろしいですか?」
「エリー!?」
陛下はゆっくり頷いた。
「先日、ドーランから襲われた件で参ったのですが、ドーランの処罰の方はどうなるのでしょうか?
私たちとしましても長年あまりに迷惑が過ぎるがために正式な処罰をお願いしたいのですが。」
「その件については少し待ってくれ。そなたらに被害が及ばないよう警備も増やそうとは思う。今は少し立て込んでいてな。」
「わかりました。陛下のお気持ちありがたく頂戴いたします。
お時間を取らせてしまい申し訳ございません。私たちはこれで失礼します。」
ミリアを促しそのまま部屋を出た。
「エリー!
これでいいの?」
「今は何もできない。私が何か言っても戦争が始まるだけ。降伏もお断りだけど、今は勝てない。絶対に。」
敵になるのがグレースなのは確定した。




