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グレース~エレノアの手記~  作者: 栗橋真縫
第一章
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57話 婚約者~6~

私の婚約は一時見送りとなった。理由は先日のお姉さまの結婚式で、アルジエル派の中にも私とマートルの結婚に判定している人間が相当数いることが発覚したからだ。同派閥内ですら反発意見が多いというのと、政略結婚の状態でここまで言われるのは精神衛生上もよろしくないという判断のもとでだった。


「エリーはこれでよかったの?」

最近お姉さまは私を心配してかよく会いに来る。屋敷にであったり、商会の方であったり、あるいは学院であったりと場所は色々であるが。


「どうなんでしょう?

婚約について一時的に考えなくてよくなったと考えればよかったのかもしれませんが、問題を先送りにしているだけですしね。

一度婚約発表してしまっている手前、前みたいにルードと話そうにもそれはそれで尻軽だなんの変な噂にされそうですからね。」


「エリーは本当にルードが好きよね。」


「否定はしませんけど…」


「貴族位を捨てることは考えないの?」


「商会のトップをミリアにしてしまえばできなくもないのですが、そしたらお父様にすごく迷惑をかけてしまいそうなので。

婚約解消する前からいくつも見合いの手紙が来ていたので。そんなことしたらルミナリア家に非難の嵐ですよ。

そんなのお父様は認めないでしょうし、ルードの家も同じですよ。」


「そうね。要らないことを聞いたわね。

最近、学院はどうなの?」


「ドーランが面倒ですね。お見合いの手紙も何度も断っているのに。」


「ねえ、エリー。私が直接手を下してもいいかしら?」


「やめてくださいよ。お姉さま。

ドーランがどうなっても別に気にならないんですけど、お姉さまが投獄されるのは嫌ですからね。」


「ありがとう。エリー。」


「お礼を言わなきゃいけないのは私の方ですよ。お姉さま。

いつもありがとうございます。」



珍しく一人で学院内を歩いていた。

「エリーじゃないか。一人でいるなんて珍しいな。」


「あなたにその呼び方を許可した覚えはないのだけど?」

振り向くと見たくもない顔があった。


「何か用かしら?」


「婚約者になる人間に向かってそんな言いぐさはないだろ。」

さも自分に話かける権利があるかのような態度にイラっとした。


「あなたの家からのお見合いは断っているはずよ。

いい加減にしてくれないかしら、ドーラン。

あなたと話しているとストレスがたまるのよ。」


「こっちが下手に出てやっているのになんだよ!」


また勝手な逆切れが始まった。こっちまでキレそう…


「どこが下手よ。あなたが欲しいのは私の栄誉でしょ!!」


「そんなのお前に見合いを申し込んでる奴らみんなそうだろ!!」


「それはそうね。

でも全員あなたよりははるかにましよ!!

私を殺そうともしたくせに。」


「は!? 

昔のことだろいい加減にしろよ。そもそも何もなかったんだしよ。」

ふてぶてしい態度でまるで自分が悪くないかのように言った。


「殺そうとしたことを水に流せと!?

いい加減に…!!」


「いい加減にしろよ。」


キレていて周りが見えていなかったが不意に肩に手が置かれ、横から声がした。


「ルード!!

おれはエリーと話してるんだ!!」


「だから、あなたにそう呼ぶ資格は…!」


「黙れ。

怪我したくなかったら今すぐ消えろ。これ以上学院での立ち位置を悪くしたくはないだろ。」


ルード珍しくがキレていた。

その威圧感に圧倒されたドーランはこちらをじっと見た後に去っていった。


「ありがとう、ルード。助かったわ。

にしても私と話して大丈夫なの?」


「どうしてだ?

エレノアの婚約は破棄になったんだろ?」

ルードはそう言って二ッと笑って見せた。


「そうね!」

私もパアッと明るく笑って見せた。


「本当に大変そうだな…」


「まったくよ…

早く婚約者決めてしまいたいわね。

でも決めなかったらこうやってルードとまだ一緒に居れるのかしらね。」


「そうだな。」


そのまましばらく話してルードとわかれた。


これから婚約者が決まるまではまたルードと話せる日々が戻ってくると思うと心が満たされていた。

「エレノア。」

「セレア皇女。学院でお会いするのは珍しいですね。お一人ですか?」


「そうですね。近衛だけですね。

ところで、エレノアはさっきの方が好きなんですか?

嬉しそうでしたけど。」


「随分と直接的に聞いてきますね。

好きですね。婚約は無理ですけど。

お互い家を継ぐ立場にはないので、今はお互い婚約者がいないから話せているだけですよ。」


「そうなのですか。エレノアはさっきの方と結婚したいというわけですね」


「セレア皇女。からかってますか?」


「からかっていますけど、からかっていません。」

セレア皇女は笑って言った。

「どっちですか…」

思わず苦笑いを浮かべた。

「エレノアのああいう顔は初めて見たなと思いまして。」


ルードと話している様子を端から見ていた話をされると妙に恥ずかしい…


「からかわないでください…」


「やりすぎちゃいましたか?」

いたずらっ子のようにセレア皇女は笑った。

「エレノアこの後予定は?」


「申し訳ございません。用事がありまして。」


「それは残念ですけれど、また教育係以外でも遊びに来てくださいね。」

セレア皇女はそう言って去っていった。

私は頭を下げてそれを見送った。

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