断章・その一・後編
「なんという事だ……」
平静を装いつつ、八尋と共に第二祭儀室へと向かう宝利命ですが、内心は混乱しきっていました。
いつか八尋が帰れなくなったら嫁にしようと思い、その機会を窺ってっていたのに、今度は男子として顕現してしまったのです。
それなら皇族の女子と結婚させて義兄か義弟にする手もありますが、あいにく、いまの八尋は三毛になっていました。
地球では雄の三毛猫は極めて珍しく、しかも生殖能力がないもので、それは弥祖の猫人間も同様なのです。
子供を作れない八尋は、子宝を重んじる皇族の婿にはなれません。
「宝利兄様、褌を持って参りました!」
艦内通路で合流した簗は、水兵服を着ていたものの、伝馬船用格納庫で爾蕪奈少尉の指導を受けて筋力鍛錬を行っていたせいか、汗でびっしょりと濡れています。
手には自分のを含めたキンツリ(黒猫褌)が二丁。
「これは都合が良い。簗、悪いが艦長室に戻って、八尋に褌の締め方を教えてやってくれ。あと服も貸してやって欲しい」
「ええっ⁉」
いまの八尋が男子と知らない簗はビックリ仰天。
「……ええっ⁉」
そして三毛猫化でモジモジする八尋を見て、もう一度仰天しました。
「終わり次第、食堂に戻してやってくれ。吾輩は通信室に寄って姉上を捕まえてから行く」
そう言って走り去る宝利命。
正直な話、いまの八尋と一緒にいるのは耐えられなかったのです。
祭儀室は本来男子禁制なので、どこで着替えるか、女性用の神官服を貸してよいものか迷っていたのはありますが、これは簗のおかげで解決しています。
宝利は風呂場で八尋にアレを見られて、こっ酷く嫌われた経験があるので、目の前で褌を締め直さずに済んだのも幸いでした。
八尋が女の子になってしまったのは……実はそんなに嫌ではありません。
性別とは無関係に可愛いので、そこはまるで気になりません。
そして実は、それこそが宝利にとって悩みの種だったのです。
八尋への感情は、本当に愛なのか。
別に同性間の友情でもよいのではないか。
でも友情で妥協してしまっていいモノなのか。
短時間であっさり割り切れる感情ではなかったのです。
「……お前たちも部屋に戻れ。ここから先は乗組員以外立ち入り禁止だ」
混乱する宝利と、仲良く艦内通路を歩く八尋と簗を見てウットリしている小夜理と風子、そして腐りきれずにボ~っとしている歩を見つけて、宝利命は通せんぼをしました。
「本艦はじきに翡翠と合流する。それまで悪樓釣りに備えてくれ」




