断章・その一・前編
「ねっ……ネコミミだぁっ‼」
「今度は三毛猫化ですか。八尋くんはいつでもネタで溢れ返ってますね」
「宝利さんどいて~。そいつモフれない~」
魔海対策本庁所属の釣行艦、速安宅【月長】の後檣楼基部にある蕃神用食堂兼会議室にて。
今回は自力で異世界転移した稲庭八尋は、女体化こそ回避できたものの、今度はネコミミの生えた三毛猫ショタになっていました。
あまりのラブリーさに目の色を変えた磯鶴高校釣り研究部の三人を前に、八尋は宝利命の後ろに隠れ、生まれたての小鹿のようにブルブルと震えています。
「みな少しは抑えよ。八尋が怖がっておるではないか」
大マッチョは八尋を庇って仁王立ち。
「だってネコミミだよ~? 先っぽツンツンしてプルプル震えるとこ見たい~♡」
あくまでも風子は八尋を玩具にしたいようです。
「あっ、こいつお尻をモッコリさせてるぞぉ!」
「尻尾も生えたようですね」
普段からセクハラ三昧な歩はともかく、抑え役の小夜理まで、八尋の変化に夢中になっています。
「ネコミミネコシッポで~、おまけに女体化なんて~、八尋ずるい~っ‼」
地団太を踏んで悔しがる風子。
どこに悔しがる要素があるのかは謎ですが。
「いまの八尋は男子であるぞ」
「なんだって⁉」
さすがの歩もビックリ仰天です。
「どうやら自力で弥祖にきたらしい……どうやったのだ?」
「昔、蕃神だったっていう先生に、鏡でこっちの世界を見る方法を教えてもらったんだ。でもバケツの水で代用してたら、なんだかこれそうな気がして……」
「まさか白和邇の宝珠を目印にしたのか?」
「帰る時はヒラさんの歯を使ってるから、宝珠を使えば弥祖皇国にこれるはず……と思って、なんとなく試してみたら、できちゃった」
「なんていい加減な……」
「御都合主義もいいところですね」
「なんとなく異世界転移~」
文句タラタラな女子たちですが、その実、これ幸いといった表情をしています。
可愛ければなんでもいいのか女子高生。
「まあ、きてしまったものは致し方ない。どうせ姉上が召喚を行う頃合いであったしな」
怯える八尋を抱き上げる宝利命。
「第二祭儀室に参ろう。尻尾穴の空いた神官用の緋袴がある」
魔海対策庁のヒラ神官は、皇族の人数が揃っているいまは、あまりお仕事がありませんが、本来は子供の頃から仕込むものなので、八尋のサイズに合う着物が用意されているのです。
「それともう一つ……」
宝利命は手近な伝声管を掴みました。
「簗はいるか?」
『……はい! 艦長室です!』
簗は皇族とはいえ男子なので、玉網媛の寝室や神官用寝室が使えず、艦長室でお世話になっていました。
「キンツリ(黒猫褌)を一丁頼む。第二祭儀室の脱衣所だ」
黒猫褌は主に水着として使われる褌です。
『キンツリですか……?』
「仔細はあとで説明する」
『了解しました! すぐ持って参ります!』
そして宝利命は八尋に向き直り。
「褌の締め方も教えて進ぜよう」
のしのしと前進を始める真っ黒な巨体。
「ああっ、宝利さんずるい!」
「子象さんも三毛なのか確かめたい~!」
そう言って歩と風子は二人について行こうとしますが……。
ガッ!
「させません!」
小夜理の両手が、それぞれの襟を掴んでいました。
「待てマキエ! 簗もくるって言ってんぞ!」
「そんな誘惑には引っかかりませんよ!」
「簗くん~、さっき褌一丁だったの見かけたよ~? なんか汗ビッショリだった~」
「…………行きましょう」
簗と八尋が二人で褌を穿く姿を想像したのか、小夜理は二人をあっさり開放しました。
「ひょっとしたら尊い掛け算が拝めるかもしれませんね」
「おっ、今回はものわかりがいいなぁ……算数がなんだって?」
「ナマコのフェンシングです」
「それはウミウシだよ~」
算数が理科の授業に変わっていました。




