結果良し……蚊取り線香の使い方応用編&なんでも効くキンカンさん
「お母さん。蚊にさされちゃった」「うえええん。かゆいよう」
初めての人は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。
私の名前は新 澄香。旧姓紺野澄香と申します。
まっかに腫れた虫刺され痕をさして泣くのは私たちの長女。光。
不満そうにキンカンを探しているらしく、なぜか私の鏡台を荒らしているのは光の双子の香と申します。
「もう。そこにはないわよ。秋なのに蚊なんているのね」そういえば昔テング熱が流行ったっけ。その時は。
「落ち着いて。光ちゃん。私が歌をうたってあげるから」
ぽっぽと湯気を立てながら声なき歌を歌うのはうちの夫、真の相棒の『珈琲メーカー』です。
「澄香。香に言っておけ。お前は確か二階の天袋にキンカンを入れたはずだ」そんなところに入れたっけ? 診療所だよね?
内科クリニック兼オープンカフェの我が家は彼がいないといろいろなものがどこに消えたか把握しきれないことがあり。
ああ。『彼』っていうのは私の相棒のロボット掃除機です。足元がうっとおしいけど悪いヤツじゃないから。
「うーん。蚊取り線香炊いていたんだけどなぁ」
やっぱり10年前に買ったのはダメだったか。
「アレ、たばこの臭いにしか感じなくて臭い」消したのはキミか。光ちゃん。
「あんな有毒物質を使うほうが悪いのよ。お母さん」鼻をつんと上に向けて私を見上げる香ちゃんにとほほ。私ってお母さんに向いていないかも。
「てっきりお母さんが男の人連れ込んで浮気したかと」「していません!」
言っていいことと悪いことがあるわよ?!
「しかし、お前の昔の所業」「だよねえ」外野は黙ってろッ?!
「なんせ(以下略)」「うわ。引くわ。澄香引くわ~。私みたいな女子高生には解らない世界ねぇ」こら。そこの掃除機。珈琲メーカーは黙っていなさい?!
「というか、いつまで女子高生のつもりなのよ」香ちゃんのツッコミに黙る珈琲メーカーさん。
「香ちゃんが苛める。いつも話しかけても聞こえないくせに」「香はいつもそうだな」
ぽんぽんと二人(?)を慰める光ちゃん。
キンカンは見つかったみたいね。
「キンカンのかゆみを取る原理はまったくほかの薬品と異なる」へぇ。相変わらずね。掃除機さん。聞いてあげるわ。
「あのね。カプサイシンなどの辛み成分でとるのよ」本当?
「不十分だな。珈琲メーカー。だが半分は正解だ。
キンカンの中には一般的なかゆみ除去成分、『ジフェンヒドラミン』は含まれていない。
また、虫刺されに有効な」「あのねあのね。光ちゃんみたいに大きく腫れている場合はステロイド系のかゆみ止めを使ってあげて~」はいはい。それならあるわ。なんたってうちは病院ですからね。
香ちゃんが涙目の光ちゃんを慰めながら薬を塗っている。いい子だよね。
「ねね。二人とも」光ちゃんが泣き止んで二人に話しかける。
「また掃除機やコーヒーメーカーに話しかけているけど、みんなに苛められるよ。光ちゃん」うう。ごめんなさい。光ちゃんの『能力』はお母さんの血筋なの。
ぽっぽぽっぽと湯気を立てる珈琲メーカーは一言。
「澄香ぁ。苛める奴が悪いよ。そんな奴は苦い珈琲を飲ませてあげる」
「まったくだ。お前は阿呆だが賢い」「褒められている気がしないわ」
この二人がいるから、けっこう私は助かっているのかもね。
ちなみにどうしてキンカンが効くのかというと神経を麻痺させてかゆみや痛みを感じない状態にするから。らしいわ。
アンモニアが染みる刺激。メントールやカンフルが冷感。
すーとするアレ。そしてトウガラシチンキで温める。
「いろいろ複雑だね」光ちゃんがしゃがみこんで掃除機さんをつんつん。
掃除機さん、音楽に合わせてくるくる。左右にダンス。
「光ちゃん。掃除機が壊れる。遊ばない」「香ちゃんだって珈琲メーカーさんをつついてる」
二人とも娘たちには寛容。口は悪いがいいやつらなのだ。
「お母さん。蚊をやっつけないと」
は。そうだそうだ。
では以前掃除機さんに教わったすごい技をお母さんが見せてあげよう。
私は香ちゃんに「任せろ」と言って新品の蚊取り線香を四つ。
知ってるかしら? 蚊取り線香って殺虫成分は点火部分にはないのよ?
点火しているところから7ミリ手前のところらへんから水蒸気と一緒に殺虫成分が広がっていくの。煙の役目はその殺虫成分を広げることで、殺虫成分自体は周囲の水蒸気とともに広がるんだって。
だから、四隅に蚊取り線香を設置したら結界のごとく蚊を近づけることはないし、一番効率よく……。
『ぱしん』音がした。
香ちゃんはその小さな手に持ったハエたたきを示して一言。
「お母さん。たたいたほうが早いよ」
私の名前は紺野澄香。
かつて珈琲を飲むと所有するロボット掃除機の声が聞こえていた女。
現在は夫と双子の娘二人。喋る珈琲メーカーとロボット掃除機の5人で暮らしている。
『あらた内科クリニック』は幽霊だってなんだって大歓迎。美味しい珈琲を淹れて待っているから今後ともよろしくお願いします。
(かふぇ&るんばっ♪ えきすとら おしまい)
あの独特の臭いが嫌いな方には『アロマ蚊取り線香』という商品がありますが、猫を飼っていらっしゃる方は一度動物病院にてご相談して使うことを推奨します。
(猫は一部のアロマが有害。商品によっては猫に有害な精油を使用している模様)




