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異世界土木技術者  作者: 中野秋風
第1章 土砂崩れ

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第8話 食事休憩


どうやら、助かったようだ。


私は女性と顔を見合わせた。


ゴーン、ゴーン。……カーン、カーン。


どこか遠くから、鐘の音が聞こえてきた。


それに合わせたように――。


ぐーっ。


二人のお腹が、ほとんど同時に鳴った。


女性は顔を真っ赤にして、うつむいている。


そういえば、朝から何も食べていなかったな。


ジャイロキャノピーのリュックの中に、弁当があるはずだ。


この女性も、きっと腹が減っているだろう。何か食べれば少しは元気になるかもしれない。


私は女性に身振り手振りで、ここで待っているように伝えると、ジャイロキャノピーへ戻った。


荷台のボックスを開ける。


そういえば、斜面に設置したポールはどうなっただろう。


あれだけの土砂崩れだ。曲がって使い物にならなくなっているかもしれない。


たとえ無事でも、土砂の下では回収は難しいだろう。


伸縮ポール5本、虎ロープ1巻。それに、救助現場に置いたままの水筒も失ったか……。


だが、彼女の命と引き換えなら安いものだ。


私はリュックから弁当を取り出すと、チェックリストを開いた。


伸縮ポール5本、虎ロープ1巻、水筒の項目に線を引き、「喪失」と書き込む。


残った道具は、大切に使わないとな。


弁当を持って、女性のもとへ戻った。


女性はちゃんと待っていた。どうやら、少しは落ち着いたようだ。


私は胸ポケットから防水野帳を取り出した。


野帳に挟んであった、雨で濡れた名刺を抜き取り、両手で女性に差し出す。


女性は名刺を不思議そうに眺めている。


「土門竜介。ど・も・ん、りょ・う・す・け」


自分を指さしながら、ゆっくりと名乗った。


女性がうなずく。


「ド・リ・イ、ス・テー・ブ・ル」


今度は女性が自分を指さしながら名乗った。


「初めまして、ドリイさん」


ドリイがにっこり笑って答える。


「$%‘ドモン’&%」


どうやら、名前は伝わったらしい。


--------------------------------------------------


聖者様は、小さな手帳から一枚のカードを取り出し、ドリイに渡した。


何だろう?


不思議な文字と記号が書かれている。


(スクロールの一種かしら?)


聖者様は自分を指さして、


「ど・も・ん、りょ・う・す・け」


と名乗った。


(それが、聖者様のお名前なのね)


ドリイも自分を指さす。


「ド・リ・イ、ス・テー・ブ・ル」


そして、にっこりとほほ笑んだ。


「初めまして、ドモンさん」


どうやら名前は通じたらしい。


ドモンさんは何か言いながら、四角い黒い箱を取り出した。


蓋を開けると、中には見たこともない食べ物が並んでいた。


白い穀物の上に、黒い粒々と、赤くて丸いものが乗っている。


その隣には、人参、きのこ、草の根のようなもの。


茶色い肉らしきものに、黄色い卵焼き。


さらに、黄色や緑色の野菜を刻んだものまで入っていた。


(わあ……すごく綺麗!)


色とりどりの料理が、きちんと仕切られて並んでいる。


まるで宝石箱のようだ。


見たこともない料理ばかりだった。


「美味しそう……」


思わず声が漏れた。


(あっ、いけない! はしたないと思われちゃうかな……)


ドモンさんは気にした様子もなく、細長い二本の棒を取り出した。


その棒を器用に使い、箱の中身を半分ほど蓋に取り分ける。


そして、料理の残った箱と、もう一組の棒をドリイに差し出してきた。


(えっ? 食べてもいいの?)


ドモンさんがうなずく。


どうやら、分けてくれるらしい。


「ありがとうございます!」


ドリイは軍手を外し、手についた泥を雨で洗い落とした。


二本の棒を受け取る。


……が、どうやって使うのだろう?


ドモンさんが棒を動かしてみせる。


なるほど、これで食べ物をつまむらしい。


真似してみたが、なかなか難しい。


仕方なく、一番美味しそうな茶色い肉に棒を突き刺し、恐る恐る口へ運んでみた。


「!」


美味しい!


外側は香ばしく、中は柔らかい。


噛むと肉の旨味が口いっぱいに広がった。


今まで食べたことのない味だった。


「美味しいです! すごく美味しい!」


思わず声が出てしまった。


ドモンさんが笑っている。


(よかった。喜んでくれたみたい)


続いて、白い穀物も食べてみる。


少し粘り気があり、噛むとほのかな甘みがある。


さっきのお肉ともよく合う。


今度は、真ん中に乗っている赤い丸いものを食べてみた。


「すっぱーい!」


思わず顔をしかめてしまった。


ドモンさんがまた笑った。


(もう! 笑わなくてもいいじゃない!)


でも、本当に美味しい。


せっかくの異国のお料理だ。


ゆっくり味わって食べよう。


ドリイは、にこにこしながら食べ続けた。


ドリイさんは弁当を美味しそうに食べている。


どうやら、気に入ってもらえたようだ。


私は予備の割り箸を取り出し、蓋に取り分けた自分の分を食べ始めた。


いつもと変わらない唐揚げ弁当だ。


だが、ここがどこなのか、どうすれば帰れるのかも分からない。


もしかしたら、これが日本の食事を口にする最後になるのかもしれない。


そんなことを考えながら、唐揚げを一つ口に運んだ。


ドリイさんは時折、こちらに何かを話しかけてくる。


しかし、何を言っているのか、さっぱり分からない。


これは困ったな。


早急に言葉を覚える必要がある。


私は防水野帳を取り出し、TO DOリストに書き加えた。


「言語の習得」


さて、どうやって勉強したものか。


-----------------------------------------------------------------


ヴァルトは、背後から響いた轟音に振り返った。


先ほどまで自分たちが救助活動をしていた場所が、大量の土砂に埋まっていた。


顔から血の気が引く。


まさか……。


そういえば、ドリイはどこだ?


確か、現場に残っていたはずだ。


まさか、生き埋めに……!


ヴァルトは急いで周囲を見回した。


いた!


ドリイは、見慣れない男と一緒に、崩落現場から離れた場所にいた。


どうやら無事らしい。


「良かった……」


ヴァルトは胸をなで下ろした。


しかし、まずはアネットさんの搬送と隊員たちの安全確認が先だ。


ヴァルトは隊員たちに指示を出し、負傷者の搬送を続けた。


それからしばらくして――。


「ヴァルト隊長……」


一人の隊員が声をかけてきた。


「何だ?」


「あの者をご存じでしょうか?」


隊員が指さす先には、見慣れない男が座っていた。


先ほどまで斜面で、奇妙な槍と紐を使って何かをしていた男だ。


しかも、ドリイと一緒に食事をしている。


「知らんな」


「怪しくありませんか?」


「怪しいな」


「あんな見たこともない服装ですし……」


「ああ」


「それに、ドリイちゃんとあんなに親しげにしているなんて、怪しすぎませんか!」


「やれやれ、そこか……」


すると、別の隊員が声を上げた。


「あの不審人物を絶対に逃がすな!」


「おい、待て!」


ヴァルトが制止する間もなく、隊員たちは男の方へ向かっていった。


-----------------------------------------------------------------------


ドリイさんは初めて食べる料理が気に入ったらしく、にこにこしながら食べている。


時折、こちらに話しかけてくるが、相変わらず何を言っているのか分からない。


どうやら、言葉の問題は早急に解決する必要がありそうだ。


挿絵(By みてみん)


そんなことを考えながらドリイさんの顔を見ていると、急に周囲が暗くなった。


「ん?」


ゆっくりと顔を上げる。


いつの間にか、険しい表情をした兵士たちに囲まれていた。


……何だ?


私は手にしていた箸を置いた。


落ち着け。


まずは状況を確認しよう。


そういえば……。


ここでは、私は身元の分からない不審人物だったな。


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