第6話 状況確認
被災者の救出作業は続いていた。
私がまずすべきことは、現場の状況確認だ。
胸ポケットから防水野帳を取り出し、現場のスケッチを始める。
山の斜面が大きく崩れ落ち、下部には大量の土砂が堆積していた。その一部が家屋にまで達し、建物を埋めている。
崩落した斜面の途中には、まだ大量の土砂が不安定な状態で残っていた。
「救助作業が終わるまで、最大の懸念は二次災害だな。再崩落の兆候を監視し、異変があれば有無を言わさず避難させなければ」
私は簡易的な斜面監視装置を設置し、土砂の動きを監視することにした。
ジャイロキャノピーには、2mまで伸ばせる紅白の伸縮ポールと、黄色と黒のナイロン製の虎ロープが積んである。
手元の道具を組み合わせれば、簡単な監視装置は作れそうだ。少なくとも、何も目印がないよりは、土砂が動き始めた兆候を捉えやすいだろう。
急いでジャイロキャノピーに戻り、伸縮ポールを5本と虎ロープを取り出すと、崩落した土砂が堆積している場所へ向かった。
まず、崩落範囲の外にある安定した地盤に伸縮ポールを立て、ロックハンマーで軽く叩いて固定する。
これを基準にする。
残りの4本は、斜面の中央と、その左右、上部に設置するつもりだ。
再崩落の危険はある。
足元の状態を確かめながら、できるだけ慎重に崩落斜面を登っていった。
--------------------------------------------------------
カン、カン。
何かを叩く音が聞こえた。
救助作業を指揮していたヴァルトは、音のする方向へ目を向けた。
そこには、半透明のローブの下に青い服を着た、見慣れない男がいた。
男は赤と白の縞模様が入った、槍のようなものを地面に突き立てている。
そして、黄色と黒の縞模様の紐を槍に結び付けると、足元を確かめながら、さらに斜面を登っていった。
一体、何をやっているのだろうか?
しばらくすると、男は5本の槍を立て、縞模様の紐で結び始めた。
斜面の中央に1本。その左右と上部にそれぞれ1本。そして、斜面の下方にもう1本。
5本の槍が、黄色と黒の紐でつながれている。
何の儀式なのだろうか?
作業を終えた男は、斜面を下りると、槍の方へ向き直った。
どうやら、そのまま監視するつもりらしい。
一体、何のために?
そして、あの槍と紐には、どんな意味があるのだろうか?
ヴァルトには、さっぱり見当がつかなかった。
-----------------------------------------------------
「とりあえず、これで何とかなりそうだ」
私は設置したポールを見上げた。
崩落範囲の外にある安定した地盤に1本、斜面の中央に1本、その左右に1本ずつ、そして斜面の上部に1本。
合計5本のポールを虎ロープで結んである。
崩落範囲の外に立てたポールを基準に、残りのポールの位置関係を確認する。
土砂が動き始めれば、ロープの緩みや張り具合、ポールの傾きなどに変化が現れるかもしれない。
時折、ペンを水平に掲げ、ロープの位置やたるみ具合を見比べる。
もちろん、これだけで斜面の動きを確実に捉えられるわけではない。急激な崩壊には間に合わない可能性もある。
それでも、何もないよりはましだ。
今ある道具では、これ以上のことはできない。
頼むから、救助作業が終わるまで持ちこたえてくれよ。
---------------------------------------------------------------
ドリイは土砂の除去を続けながら、時折、斜面の方を見ていた。
異国の聖者様が、雨の中で何かをしている。
やがて、聖者様は斜面から下りてくると、立ち止まって斜面を見上げた。
そこには、赤と白の槍が5本突き立てられ、黄色と黒の縞模様の紐で大きな十字が作られていた。
何かの魔法の儀式だろうか?
きっと、聖者様が私たちを守るために、魔法を使ってくださっているのね。
ドリイはそう思った。




