第4話 斜面崩壊
次はアネットさんの裏山だ。
ここは以前から時々小さく崩れることがあったが、土砂が流れてくるのは家の裏の芋畑までだった。
アネットさんは、いつも裏山の清水を沸かして淹れたお茶と、自家製のポテトスープを振る舞ってくれる。
巡回の途中、アネットさんの家で休憩するのがドリイの定番だった。
冷たい雨の中、朝から水路の補修を続けてきた。
身体は冷え切り、疲れも溜まっている。
温かいお茶とポテトスープが恋しい。
(早くアネットさんの家に行って、温まりたいなあ……)
そんなことを考えながら、ドリイはぬかるんだ道を歩き、アネットさんの家へ向かっていた。
そのときだった。
バサバサバサッ!
突然、森がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立った。
「え? 何?」
足元に、かすかな振動が伝わってきた。
「地震……?」
振動は次第に大きくなり、ドリイは思わず足を止めた。
山の方から、低い地鳴りが聞こえてくる。
ゴゴゴゴ……。
「え? 大きい……!」
揺れがさらに強くなり、ドリイはバランスを崩して尻もちをついてしまった。
ドドドドド……!
地鳴りが一段と大きくなった。
嫌な予感がした。
「まさか……!」
ドリイは慌ててアネットさんの家の方を振り返った。
その瞬間、裏山の斜面に大きな亀裂が走った。
そして――。
ドドドドドッ!!
斜面が崩れ、大量の土砂が一気に流れ落ちた。
土砂は裏の芋畑を越え、アネットさんの家へと押し寄せる。
「あっ……!」
ドリイが声を上げる間もなく、家の一部が土砂に押し潰されてしまった。
「アネットさん!!」
ドリイは慌てて立ち上がった。
「いけない! 早く助けないと!」
泥だらけのローブも、寒さも、疲れも、今はどうでもよかった。
ドリイは杖を握りしめ、ぬかるんだ道をアネットさんの家に向かって走り出した。
ようやく家にたどり着くと、目の前には変わり果てた光景が広がっていた。
裏山は大きく崩れ、大量の土砂が芋畑を越えて、家の周囲に堆積している。
斜面の途中にも、崩れた土砂が引っかかるように残っていた。
アネットさんの家は半壊していたが、完全には埋まっていなかった。
ドリイは急いで家へ駆け寄った。
「アネットさーん! いますかー? 大丈夫ですかー?」
大声で呼びかける。
「げほっ、げほっ……ドリイかい?」
崩れた家の隙間から、かすかな声が聞こえた。
アネットさんの声だ。
「アネットさん! 良かった、生きていたんですね!」
「ああ、なんとか生きているよ。でも、周りが埋まっていてね。動けんのじゃ」
「アネットさん……」
「ここは危ないから、私なんかほっといて、早くお逃げ……」
「いいえ! ここは私がなんとかしますから! 少しだけ我慢してください!」
ドリイは杖を握り直した。




