第21話 ゼロデイ攻撃
「……うむ。疑いだけで院が動けば、間違えたときに止める者がおらん。わしの疑いは、ひとまず脇へ置こう。報告にあった、門が術式を受け入れる仕組みの問題じゃな。ナオト君、君の言葉で説明してくれ」
俺は、リシアとネネを見た。二人が小さく頷いた。ガルドも俺の目を真っ直ぐ見ている。
「門は、これまで、届いた術式を受け入れる前に、院の聖印だけを確かめていました。試験室で、傷を塞ぐために検査を受けた、本物の聖印がある院の治癒の魔石に、閉じる術式を写してみました。それでも、模型の門は閉じました」
院長は小さく頷いてから、俺に目を向けた。
「聖印は本物だから、門も受け入れたのじゃな?」
「はい。門が確認したのは、聖印が本物かだけです。魔石自体の役割は確認していませんでした」
俺は、机に置かれた院の印章を見た。
「例えば、俺が院長の印章が押してある紙を持って門に行けば、門番はきっと通します。中身や持ち主までは確認しないでしょう」
リシアが、膝の上で拳を握った。
「私も、検査を通った物なら正しく使われると思っていました。点検のときも、聖印があるかを確かめるだけで……」
「誰かを責めたいわけではありません。そういう使い方もできるという話です」
院長は黙って聞き、杖の先で床を一度突いた。
「つまり、今回の魔石を外しても、また同じことが起きうるということじゃな?」
リシアが、膝の上の拳をほどいて、院長を見た。
「東門には、今日、応急の手当てをしました。院で確かめた点検具の魔石に許可の刻印を足して、門の側に、見分ける魔石を据えています。北や南からの点検の知らせは、聖印があっても、その刻印がなければ通りません」
「ただ、手当てが済んでいるのは東門だけです。残りの三つの門は、今も聖印さえあれば同じ術式を受け付けてしまいます。急いで、同じ対策を広げる必要があります」
俺とリシアが真っ直ぐ見据えて問いかけても、院長は答えず、ただ窓の外の景色へと目を向けた。
「院の聖印さえ本物なら、中身は問わん……そう決めたのも、それを何十年も当たり前のように運用してきたのも、院じゃ。リシアでも、門番でもない」
俺はその言葉を聞いて、まさにゼロデイ攻撃と同じ構図だと思った。
ゼロデイ攻撃とは、開発者がまだその存在に気づいておらず、修正手段も用意されていない脆弱性を利用して攻撃することだ。前の世界では、そうした脆弱性をいち早く見つけ、悪用される前に修正するのがサイバーセキュリティエンジニアである俺の仕事だった。
院長は、リシアに目を戻した。
「うむ。道具係と点検の者、それに保守班を回そう。残りの門への手当てを、何より先に済ませる」
「職人は、俺のところから出す」
ガルドが言うと、院長は頷いた。
俺は、もう一つだけ付け足した。
「ただし、刻印を入れた本物の点検具を盗まれたり、中を書き換えられたりしたら、この手当てでは防げません。それに――」
俺は、一呼吸して続けた。
「それに、本当に門だけの問題でしょうか?」
室内は静まり返った。王都ヴァルディアのどこかに、まだ誰も知らない脆弱性があり、今この瞬間もゼロデイ攻撃を受けているかもしれない。ナオトの言葉の意味は、そこにいる全員が分かっていた。
院長は短く頷き、こちらへ向き直った。もう軽口を言う顔ではなかった。
「では、聞こう。君たちがこの問題を解決するとしたら、何が要る?」




