第10話 鍵の行方
四つの塔からの返事がそろったのは、次の日の昼過ぎだった。
試験室の作業台に、院の貸出台帳と、塔から届いた返答の束が並んでいる。リシアは束を一枚ずつめくり終えて、顔を上げた。
「今使っている点検具は、四つの門に、通常用と予備が一台ずつ。全部で八台です。そのうち七台は、すぐにそろいました」
「残りの一台は?」
「西門の通常用の分だけ、返事が抜けていました。もう一度聞いたら、見回りの魔術師が熱で休んでいて、点検具は、個人の棚にあったそうです」
「決められた置き場は、無いんですか?」
「ありますが、急いでいる時は個人の棚に置くこともあります……私もやったことあります」
リシアは視線を申し訳なさそうに落とした。
「管理の手順も、そのうち改める必要がありそうですね。ともかく、これで八台とも確かめられました」
ネネが、ほっとしたように息を吐いた。リシアの指が、東門の欄で止まる。
「東門の通常用は、あの日、私が門柱につないで『安全』を送った一台です」
ここの実験室にある二台の予備も、あの日は塔の棚にあった。
「八台の記録には、東門を閉じる操作は見つかりませんでした」
リシアはそう言ってから、少しだけ声を落として続けた。
「ただ分かったのは、今使っている八台だけです。前に使っていた古い品は、見回り役が替わるときに、塔か院へ返すことになっています……大抵の場合は」
大抵の場合ということは、返されなかった可能性もあるということだ。その言葉が、胸の奥に小さな棘のように引っかかった。
「点検具は、門を開け閉めできるんですよね? それなら、門の鍵と同じです。返したかどうかも、確かめないんですか?」
リシアは、台帳へ目を落とした。
「……鍵。確かに、そのとおりですね。そんなふうに考えたことはありませんでした。返す決まりがあれば、みんな守ってくれるものだと……使うときも、手順は決まっていますから」
「昨日も言いましたが、決まりがあっても、その通りに使われるとは限りません」
やはり、と思った。昨日、治癒の魔石でも模型は閉じた。聖印さえあれば門は受け入れる。点検具の所在が分かった今、門を閉じた原因は、点検具以外の魔石を利用している可能性は高い。
「閉じる術式は、今も南門側の魔導線から東門へ届いていますよね? 今は東門の手前で、封じくさびが止めているだけで」
「ええ。止まってはいません」
「では、魔導線をたどりたいです。点検具でなくても門が受け入れるなら、実際に線につながっている物を見たいです」
「魔導線を引いたり、設備を直したりしてきたのは、保守班の職人さんたちです」
リシアは、台帳を閉じた。
「南門の保守小屋にいるガルドさんなら、魔導線の経路に詳しいはずです。少し気難しい人ですが……」
「案内を頼めますか?」
「明日、会いに行きましょう。東門のオットーさんの紹介なら、ガルドさんも、話を聞いてくれるはずです」
リシアは使いを呼び止め、オットーさん宛ての手紙を託した。
翌朝、鐘八つにナオトの宿で集合することを決め、今日は解散した。




