9〖始祖さんの悪夢〗
自分の数倍ある蝶が、毒の鱗粉で体を溶かしてくる夢を見た、
ああ! 全身がドロドロになって――ああ! 死ねる! やっとだ!
と思ったら、何故か俺は蛹になっていた。闇の中なのにはっきり意識がある。
それが永遠に続いて、動けないのに死ねない夢。最悪だ。
「蛹から顔をだし~おはよう世界~♪お花とともに~私は生きるの~♪ 色鮮やかな羽で色鮮やかな空を飛んで~♪素晴らしい日常を~♪」
絶対に、あの蝶の歌のせいだった。
なーにが、色鮮やかな空だ。見てみろ、雨が降ってるだろ。お前の目は節穴か。
「ああ、鬱だ。殺すならはっきり殺してくれ」
夢に文句を言った時、ご機嫌な蝶が飛んできた。青と黄色の色鮮やかな羽が、俺を更に鬱々とさせた。
「久しぶりの雨ね! お花も喜んでる!」
「雨で喜ぶなんて、おかしなやつだな」
まぁ、俺は晴れていても雨でも、嵐でも雪でも関係ない。
むしろ世界なんて災害に埋もれて滅んでしまえ。
「雨は恵みだもの! 私たちを生かしてくれるのよ!」
「殺しもするけどな」
「すぐそういうこと言うんだから! 生きる喜びを思い出しなさいよ!」
ムスッとこちらを見てきた蝶が、生きる喜びとやらを話し出した。
毎日水やりをしてやっているせいか、つけ上がってきた気がする。蝶の癖に。
この俺に生きる喜びを説こうなんて、一万年早い。一万年生きて出直してこい。
両耳を指で塞いで、布団の中に入った。
「久しぶりに美味しい水飲んで、美味しい食事をすれば、始祖さんも何かわかるかもしれないじゃない!」
水、食事? この蝶は何もわかっていない。
「おい、蝶。俺がとっておきの昔話をしてやろう」
俺の本格的陰鬱ライフの幕開けになった、あの日のことを……




