8〖死にぞこないの説得〗
「始祖さん、厨房の棚に使われてない毒薬みたいなのがあったよ。切れ味のよさそうな包丁とか……」
他にも色々あった。
生まれて間もないのに、私はどうしてこんな駄目な吸血鬼を、こんな駄目な方法で慰めてるんだろう。
「ねぇ、そろそろ元気になってよ。いつもみたいに死にたがってくれないと、私が死んじゃうよ」
二日、花に水やりしてくれていない。花びらがしょんぼりしてしまっている。
懲りずに何度も呼び続けていると、さっと布団から顔を覗かせた。
「今のは、聞き捨てならないな。死にたがっているだけで死ぬ気がないみたいじゃないか」
「え、じゃあ。死にぞこない?」
「ふん、まぁそれならいい」
ちょっとよくわからないけど、答えてくれたしこの調子だ。
「死にぞこないさん! お水あげて! お願い!」
すると始祖さんは、今まで見たことのないほどの軽やかな動作でベッドから出てきた。
どこか一点を見つめたまま、無駄のない動きでプランターへ向かっていく。
あれ、水やりは?
彼はプランターの近くにあった小さなスコップを手に持つと、何故か土を掘りだした。
「ちょ、何してるの! 掘らないで!」
「取り出して、小さくまとめて、お前が背負えるようにしてやる。保護区にいったら仲間もいるだろう、俺も快適な陰鬱ライフに戻れる」
「そんな適当にしたら根っこが傷ついちゃう!」
背負えたとしても、どこにあるかわからない保護区まで飛んでいけるわけないでしょ!
「仲間とかより、私は生まれたところで生きたいの! 始祖さんもいるから寂しくないし!」
ぴたり、と彼の手が止まった。
「私、始祖さんとの暮らし、楽しいよ! だからここがいいな!」
嘘じゃない。たしかに保護区とやらに行けば、仲間はいるかもしれないけど、私がここで生まれたということは、顔も知らないお母さんやお父さんも、この辺りで生きたかもしれない。
それに、どうしようもない吸血鬼が、お水をあげている様子を見るのは楽しかった。
「正気か?」
「うん」
「……おかしなやつだな」
どうやら説得は成功したらしい。ついでに始祖さんはお水もあげてくれた。私はそんな始祖さんをいつも以上に褒めておいた。




