5〖貴族の誇り、彼の野望〗
理想郷にも、闇は存在する。
北方の地の奥には、恐ろしい吸血鬼が住んでいる。
近づくことなかれ。踏み入ったら最後、二度と生きては戻れない。
……という、噂を流して、早数百年。
近くの街に住む人間や亜人たちの時の流れは、こちらが思うよりも早いようで。
噂は変な方向へ歪みに歪んで、今や、この島国でも三本の指に入る伝説と化しているらしい。勿論、悪い方向で。
まぁ、僕はあの方の命令通りに噂を流しただけだし。何も悪くない。
むしろ思惑通り、この城には誰も近づかないようになった。
そして……あの自己中愚劣始祖が、部屋から出てこなくなって、すでに八百年近く。
何故、僕がいまもまだこの城にいるのか。
え? 帰る場所がない。いや、そんなことない。
僕は貴族だぞ。全ては偉大なる野望のために。
「ふっふっふっふっ」
前には目に入れても痛くない、金銀財宝の山。
千年以上前から、地下にたんまりため込まれていた。この、お宝の山!
あの始祖が死ねば、この存在を知る者は他にいない。つまり、この城もろとも僕のもの。
順当にいけば、僕もあと数千年は生きられる。この財宝を売り払って、贅沢三昧の余生を送るんだ。
そろそろ死ぬかなぁ。まだ死なないかなぁ。そろそろ干からびるだろう。
そう思って、数百年ぶりに部屋を覗いてみると……
干からびるどころか、ベランダに出て、花に水を上げているあの人がいた。
え? なんで? なんで、花に水なんてあげてるの?
あんた、自分は水も食事も摂ってないんだろ? なんで?
あんなに死にたがってたのに、花愛でてるの? というか、隣にいるのは……
「蝶!?」
ハッと口を塞ぐ。
は? なんで蝶がこんなところに? ひっさしぶりに見た。ちっちゃ、かわいっ。
――いや、そうじゃない!
どういう状況? あのプランターって、数百年前に僕が放置したやつじゃ?
まさか……枯れた土に奇跡的に花が咲いて、こんなところにいるはずのない蝶が、、奇跡的に花結びしたとでも……?
ああ、偉大なる先祖御方よ。奇跡が、僕の野望を打ち砕こうとしております。
どうか、どうか、僕にお力を。
このジザク。先祖御方々の威光のため、何を賭してもあの財宝を手に入れなければならないのです。
よし、とりあえずあの二人を引き離して、始祖にはもう一度引き籠ってもらうことにしよう。




