3〖始祖さんと彼女〗
「始祖さん、起きて、水」
俺の華麗なる陰鬱引き籠りライフに邪魔者が生まれて、一週間。
何故だ。千年なんてあっという間だったのに、塵に等しいほどの脆弱なこの存在が現れてからの一日が長い。長すぎる。
「蝶。頼むから早く死んでくれ」
蝶という種族はこの世界の中でも一、二位を争う短命な種族だった。
結んだ花は、本来よりも長く咲き続けるが、それでも二倍か三倍で、大体一年から長くても三年ほどで死ぬ。
その花は、美しい光を放ち、美しく育つことから昔は蝶の乱獲が行われ、こいつらは絶滅の危機にあった。
何よりも、花と寿命を共有していて、最後は花の一部となって、その花の時間は凍結される。それがまた高価で取引されたのだ。
「生まれたばかりなのよ!? それなのに蝶生を謳歌する前に死ねですって!? この人でなし! 冷血漢! 鬼!」
「俺は人でも鬼でもない。生まれて一週間なのに、どこでそんな言葉覚えてきたんだ……」
この城には俺ともう一人の吸血鬼、ジザクしかいない。誰もこの城に寄せ付けないように、悪い噂を流すように命令しておいたというのに。
ジザク……? あいつと最後に顔を合わせたのは……
「どうでもいいか。俺は自分が死ぬことに忙しい。そのために早くお前も死んでくれ」
死ぬために水も食事も絶ったのに、始祖の血が俺を死なせてくれない。
普通の吸血鬼なら、休眠に入って五百年も経てば、死ぬまで行かないにしても、干からびているのに……
手も頬もつるつるぴかぴかだ。忌々しい。
その上俺は、不眠症だ。休眠にすら入れない。
「ああああああああ、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」
「え、なに。こわ。あなた大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか。短命種にはこの苦しみが理解できないだろう。いいから、早く死んで、いや、俺を殺してくれ」
「じゃあ、あなたを殺す方法考えてみるから、とりあえず水あげてくれない?」
「言ったからな? 約束だぞ」
気が付けば、謎の取引が交わされていた。




