痛む足を引きずって
「う゛っ……」
意識が浮上しかけた夢うつつのなか、耳に入ったのは呻き声だった。
「に゛が……」
ひどく苦しげな声。
「魔力過吸体質のくせに、魔力過剰で死にかけの魔族を看病したりするからですよ。自業自得です」
「だっで、んん゛、わたくしがそばにいた方が、早く良くなるじゃない゛、うぐぅ、ま゛ず……」
「お嬢さまが魔力を取り込むからですね。こんな土地に住むなんて自殺行為の体質だって言うのに、さらに他人の過剰魔力まで請け負うなど、死に急ぐのが趣味としか思えません」
苦しげな声の主を、淡々と喋る声が責める。
「体質は、予想外だったのよ゛、でも、こうしてちゃんと、魔力除去薬を見付けたじゃない゛。死ぬつもりはないのよ゛。ふぇえ、にがぁい゛……この味なんとかならないの゛……」
「なんとかしたじゃないですか。乾燥粉末化の上錠剤に加工して、糖衣で覆うことで」
「そうね゛、糖衣錠剤にしても効果が保たれたのは僥倖だったわ。即効性はなくなるにしろ、それでも速効性はあるし、こんな味の薬、子供や妊婦には飲ませられない゛もの゛、ぐっ、うぇ゛、うう゛……飲み゛終えだっ、水、水ぅ゛」
聞くとはなしに会話を聞き流しながら、だんだんと意識が覚醒に近付いて行く。
わたくしは、なにを、していたかしら。
「そんなに苦悶の顔で飲むなら、薬湯でなく糖衣錠剤を飲んではいかがですか」
「ん、ん、ん……ぷは、生き返ったわ。まだ、費用削減と量産の目処が立っていなくて数が少ないのに、健常なわたくしが浪費しては駄目でしょう。まずは必要なところに、行き渡らせないと」
そう、魔力過剰を起こして、誰かに治療をして貰ったのだ。
「そこで、開発者だから自分を優先にと言わないところが、お嬢さまの美点であり欠点ですね。食事だって汚染のないものは子供に妊婦にほかの人間にと。あなたにこそ、必要なもののはずなのに」
「わたくしは別の対策を取っているもの、大丈夫よ」
「せめて、婚約者殿には知らせては?」
「まさか」
声の主は笑ったようだ。
治療をして貰って、そのまま眠ってしまったのだ。眠る前はあんなに酷かった体調は、すっかり良くなっている。
「伝えたら国に送り返されるわ。それでは駄目なの、意味がないのよ。わたくしの目標は、この地を誰でも暮らせる土地にすることだもの。魔力汚染に敏感なわたくしこそ、安全の指標にふさわしいの」
「自分を、"炭鉱のカナリア"にすると?相変わらず、狂っていますね、あなたは」
「そんなわたくしに喜んで仕えるあなたも、良い勝負じゃないかしら?」
この声は、治療をしてくれたひとの声。それだけじゃない。この声は、もしや、
「っ!」
飛び起きたわたくしを、寝台横に座っていた少女が驚いた顔で見る。少女の片手はわたくしの手を握っていて、その顔は、
「アリーニナ嬢」
驚いた顔は、即座に笑みへと変えられた。
「フィッツ侯爵令嬢さま、良かった、顔色が良くなられましたね。体調は、いかがでしょうか?どこか、不調はおありですか?」
訊きながら、握っていた手を離し、わたくしの脈や体温を確認する。
「……」
目の前の少女、ルーフィ・アリーニナは、わたくしから見れば憎き恋敵。だと言うのに、この娘はわたくしなど敵ではないとばかりに、ただわたくしの体調を案じて見せる。
「体調は、問題ありませんわ。良くなりました」
「そうですか」
なんの悪意もない、安堵の表情。
それから、表情を曇らせて言う。
「ここは、土中と空気中の魔力をほとんど除去した場所なので、身体の中の汚染魔力さえ取り除けば不具合はなくなります。ただ、あくまで不調の原因物質を取り除いただけで、体質が変わったわけではありません。魔力耐性があまり高くはないご様子なので、エーデルシュヴァルツ辺境公領を出ない限り、いつまた魔力過剰が発症するか……」
脅しではなく、本当にわたくしを案じての言葉なのだろう。
わたくしの様子をうかがっていたアリーニナ嬢が息を吐いて、横にいた女性に声を掛ける。
「ヤナ、防護布を」
「本気ですか?この方はエーデルシュヴァルツ辺境公領の民では、」
「それでも」
女性の言葉を遮って、アリーニナ嬢は言う。
「この地にいなければならないすべての方の味方でなければ、わたくしに価値はないわ」
「狂っていますよ、あなたは」
女性は冷え切った声で言ってから、壁際の戸棚へ向かった。引き出しを開けてなにか取り出し、持って来る。
「ありがとう」
礼を言って受け取ったアリーニナ嬢は、そのままわたくしにソレを差し出す。なにやら紐の付いた、布切れだった。
「これは?」
「空気中の魔力を吸い込まないようにするための防護布です。ヤナ、そこの彼女のように、顔の下半分をこれで覆っておくと、呼吸による魔力吸収を抑えられます」
そんなものが。
言われて部屋のなかを見渡せば、アリーニナ嬢が手で示した女性だけでなく、部屋のなかのほとんど全員が同じ布を着けていた。おそらく全員、魔族ではなく人間なのだろう。
けれど、そんなものがあるのならば。
「そんなものがあるのなら、もっと民に広く行き渡らせれば、」
苛立ち混じりのため息が聞こえて、言葉を途切れさせた。
「ヤナ」
「これが現実ですよ、お嬢さま」
「ヤナ、失礼よ」
「治療を施し、貴重な防護布さえ差し出した相手に、感謝ではなく糾弾の言葉を投げる方が、よほど礼儀にもとると思いますが?」
「ヤナ」
たしなめるように名を呼んで、アリーニナ嬢が首を振る。
「誰もが十全の知識を持つとは限らないわ。どんなひとでも、まばたきの外側の世界はあるのだから」
彼女らにとって、わたくしの発言は失言だったのだ。そして、そのことに不快を見せた女性を、アリーニナ嬢がなだめている。
かあ、と顔に血が昇るのを感じた。羞恥か怒りか、判別はつかない。
「貴重な、ものなのですか」
「まだ、開発途中のものなので。いろいろと試行錯誤を重ねて、量産に向けた準備を行っているところなのです」
言ってから、ああ、と続ける。
「効果があることは実証済みですから、ご安心くださいませ。短期間であれば身体に害がないことも、わかっています。長期利用は試験途中ですので、安全の確約は出来なくて申し訳ありませんが」
「あなたは」
その言葉を、信じるのならば。
「まだ安全の保証されていないものを、自分の使用人に使わせているの?」
主人から命じられれば、否とは言えないだろうに。
「逆ですよ」
答えたのは、アリーニナ嬢ではなく先ほどからわたくしを冷たく見据えている女性だった。
「十分な試験も量産化も済んでいないものを、使わせて頂いているのです、私たちは。そうでなければ、今のこの土地で人間が生きることなど出来ませんから」
「それならアリーニナ嬢本人は、なぜ使っていないの?」
そう、部屋内のほとんど全員が着けている布を、アリーニナ嬢は着けていない。ここが、魔力のない安全な空間だからではないだろう。だって彼女は、わたくしたちに挨拶したときですら、そんな布を着けてはいなかったのだから。
ここからほとんど出ないわけではないはずだ。だって、竜騎士を率いてどこへやら出掛けていたと言う話だ。アリーニナ嬢だけの言葉なら外出が嘘である可能性も考えるが、忠義に厚い竜騎士が、辺境公閣下を偽るとは、
「それとも外出には影武者を立てて、あなたはこの安全な場所から、一歩も出ないで過ごしているのかしら。そうよね、あなたは自分に仕える人間だけ半年間先行させて、安全な場所を調えさせたのですものね」
「ヤナ」
アリーニナ嬢が呼んだのは、わたくしではなく控える女性の名だった。
「黙っていられないのなら、下がらせるわ」
「ですが、お嬢さま」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのよ。色眼鏡を掛けてしまうものなの。それに」
アリーニナ嬢のその言葉の意味は、よくわからなかった。よくわかったのは、そのあと。
「どう考えても、彼女の考えや態度の方が常識的だと思うわ。だって、突然よその国から来た子供が、領地を好き勝手荒らしているのよ?不審で不安で疑わしいと思うのが自然でしょう。エーデルシュヴァルツ辺境公領の方が、わたくしを受け入れ過ぎなのよ」
「それは、お嬢さまがすでにそれだけの貢献をしたからで、」
アリーニナ嬢が首を振る。
「わたくしではないわ。実際にこの地に来て、信頼を築いたのは使用人たちよ。わたくしは遠く安全な母国から、報告を聞いていただけだもの」
「ご謙遜を」
女性が鼻で嗤う。
「あなたがたった半年で、この地で人間が生き残る方法を確立してくれていなければ、一日だって生き延びられたかどうか。彼らが信頼を築けたのは、人間がこの地でまともに生きられるよう、お嬢さまがお膳立てしたからですよ」
「それすら、わたくしの手柄などではないわ。誰かが見付けてくれた植物を、ひとに命じて研究させて、活用方法を見出して貰っただけだもの。わたくしは、ただ座っていただけだわ」
化けの皮が剥がれたと、思う前に反論は投げられた。
「いや、実験には参加していましたよね?思いっきり。なんなら、自分を実験台にして」
「シッ、それは言わない約束でしょ!」
「そんな約束をした覚えはありません。お嬢さま、あなたは謙遜を美徳とでも思っているようですが、過ぎた謙遜はかえって傲慢ですよ。我々凡人に、あなたのような発想力はありません。幾万の植物を集めようと、幾千の実験を重ねようと、あなたの指示なしには、なにごともなし得ませんでした。それに」
ぐいとアリーニナ嬢の肩を引いて、女性はその瞳を覗き込む。
「あなたはこの広大な領地を治める辺境公爵閣下の、奥方になるのでしょう。なればヒトを使うことも、その責任を負うことも、覚悟すべきですよ。あなたの行動が、多くの方の命を左右するのです」
「わかっているわ。わかっているから、いま、こうやって、」
「責任は、過ちだけに生じるわけではありません」
アリーニナ嬢の言葉を喰って、淡々と女性は続けた。
「成功にも、そしてそれにより生じた功績にもまた、責任は生じます。あなたが命じて成功して、あなたが命じてやり遂げさせたのです。責任を取って、功績に対する賞賛を受け入れて下さい」
「それは、」
アリーニナ嬢が困ったように眉尻を下げる。それに勝ち誇ったような顔を返して、女性は言った。
「さすがに、たかが数十人だろうと、命を軽んじられはしないのですね。良いことです」
「人数の話じゃないもの」
「そうですよね。たとえひとりでも死者は死者。かけがえのない、失ってはいけない存在です」
さて、と女性はアリーニナ嬢に問い掛ける。
「あなたの命令で、いったい何人が救われましたか?」
「……数えていないもの」
視線を逸らして答えるアリーニナ嬢に、女性はしたり顔で頷いた。
「その通り。数え切れないほどの大人数です。背負って下さい。責任を持って」
「詭弁だわ」
「あなたが余りにも、責任逃れしたがるものですから」
アリーニナ嬢に告げてから、女性がわたくしへと視線を移した。冷え切った視線に、肩が揺れる。
「この場の人間は、お嬢さまに従います。あなたの無礼に怒りもせず、寛容に許して救いの手さえ差し伸べる、反吐が出るほど甘いお嬢さまに。ですが、エーデルシュバルツ辺境公領のほかの場所では、お嬢さまの言葉が絶対ではありません」
脅しかと思いかけたが、どうやら方向性が異なる。
「言動にはお気を付けを。お嬢さまはすでにエーデルシュバルツ辺境公領で功績を認められ、立場を確立しておいでです。この地の住民にとって、お嬢さまは大恩ある救世主であり、敬愛する領主の最愛の婚約者です。不当に貶める発言をすれば、苛烈な反応が返ってもおかしくはありませんよ」
わたくしに反論の時間を与えず、それから、と女性は続ける。
「あなたの狭窄な常識で、お嬢さまを推し量れると思わないことです。この方は自身の立場など鑑みず、躊躇いなく死地に突っ込んで行く狂人ですから」
「不当に貶められたわ」
「事実を口にしただけですが?良いですか、お嬢さま。普通のご令嬢は、気になる作物があるからと言って、魔力溜まりのある土地に喜んで近付いたりしません。平民の治療を自ら進んでやることは、慈悲深ければあり得ますが、そうだとしても汚れ仕事まではやりません。農業の手伝いもしませんし、土質を確認したいからと、土を食べるなどあり得ません。毒性もわからないその辺の草やキノコを、口に入れることもありません」
わたくしを、騙すためではなく、本当にアリーニナ嬢がやった行動なのだろうか。この、吹けば飛ぶように儚げな、お人形みたいなご令嬢が?
「どこのご令嬢が、暴れる竜に駆け寄って飛び乗って取っ組み合いの喧嘩をした上で、和解して気に入られるのですか。竜騎士団の団長すら、あり得ないものを見る目をしていたではありませんか」
だがどう見ても、女性は心から非難する眼差しをアリーニナ嬢に向けているし、アリーニナ嬢は気まずげに目を逸らしている。
「だって、自分で確かめるのが、確実でしょう?」
「念願の現地調査で、ご両親の目もないからと言って、いささか羽目を外し過ぎですよ」
「自重はしているわ」
「自重してそれですか?」
「ちゃんと護衛を連れて出かけているもの」
「それで自重したおつもりですか?」
もはやわたくしそっちのけで、アリーニナ嬢に苦言を呈し始めた女性は、演技でなく本気でアリーニナ嬢に呆れているようだ。
「十分でしょう?」
「では、こちらに来てからのお嬢さまの行動を、ご両親と婚約者殿へすべからく報告しても?」
「そ、れは話が違って来るわね!?駄目よ?やめてね?計画に障るわ?ヤナだって困るでしょう??」
「狂った行動にご自覚がおありのようで、結構なことです」
満足げに頷いて、女性がわたくしへ目を戻す。
「と、言うわけです」
冷たい目だった。まるで、刃を首に押し付けるような。
「お嬢さまが自分から動かないのは、周囲がそれを止めるからです。お嬢さまを守りたいと考える者が、お嬢さまを危険から遠ざけたがるから。ですが、過保護な者たちの監視が外れれば、なんだって自分で飛び込んで行く方なのです。くれぐれも、見誤らないで下さい」
見誤るな。それは、見誤っているか、見誤りかけている相手に向けた言葉だろう。
わたくしは、なにかを、間違っているのだろうか。
「穿った目、凝り固まった目で見ていては、一匙の希望を見逃しますよ。お嬢さまのそばにいると、それを常に実感させられます」
わたくしが受け取らなかったために、アリーニナ嬢が持ったままになっていた布を取り上げ、女性がわたくしへと突き出す。
「受け取るのですか、受け取らないのですか。あなたが使わないのであれば、他の方に回せるのです。個人的な意見を言わせて頂けば、あなたは今すぐ帰路につくべきと思いますよ」
「ヤナ」
わたくしが答える前に、アリーニナ嬢が声を上げる。
「誰にだって事情はあるわ。事情も知らずに責めるなんて、それこそ狭量ではないかしら」
立ち上がったアリーニナ嬢が女性から布を取り戻し、わたくしの手に握らせる。
「こちらは差し上げます。使うも使わないも、あなたの判断にお任せしますわ。消耗品ですので、そう気負わずお受け取り下さいね」
「でも、貴重、なのでしょう?」
「現状あまり、長持ちしないのですわ」
困ったように苦笑して、アリーニナ嬢は言った。
「肌に触れるものである以上、洗濯しないわけには行かないのですが、洗濯すると少しずつ効果が落ちて行ってしまって。安全性を鑑みると洗濯は多くても二十回ほどが限度で、新しいものと取り替える必要がありますの」
アリーニナ嬢の目が、使用人たちを向く。
「この土地の魔力汚染、大気に限れば魔族なら、子供でもすぐ命に関わるものではありませんわ。けれど、人間はそうではないですもの。わたくしには、わたくしのためにこの土地に来てくれた彼らを、守る義務があります。消耗品である以上、彼らのための備蓄を切らすわけには行かず、お恥ずかしながら流通まで漕ぎ着けていないのが実情ですわ」
無意識か、右手で左腕の袖を握り締めている。深く皺が寄るほどに、きつく。
「いずれ領主の妻となる身として、平等を意識しなければなりません。であれば、被験者と言う理由なしに特定の個人だけを特別扱い出来ません。だからこそ、すでに効能のわかっている防護布は、必要数が用意出来ない限り逼迫した方以外に渡せませんの」
「それならば、なぜ、わたくしには?」
「魔力過剰は一度起こすと、再発しやすくなります。魔力過剰を起こした身体は、症状が落ち着いたあとでも、魔力過剰による損傷が残っているためです。魔力汚染のない土地で十分な療養をすれば再発の危険性は下がりますが、損傷を残したまま魔力汚染の高い土地にい続けた場合、より低い魔力汚染でも魔力過剰を引き起こし、より重症化しやすい傾向にあることが、わかっているのですわ」
そんな話、
「聞いたことがないわ、そんな話」
「最新の、研究結果ですので」
わたくしは、専門家ではない。最新の研究など、知るよしもない。
反論に窮したわたくしに、アリーニナ嬢は穏やかな笑みを向けた。
「そう言った理由があるので、魔力過剰を起こした方に関しては、医療品として防護布を渡しています。フィッツ侯爵令嬢さまも魔力過剰を起こされましたので、これは特別待遇ではなく、医療行為ですわ」
この地にいなければならないすべての者の味方でなければ、自分に価値はないと、この少女は言っていたか。
家の、母の意向を無視して、ただ己のわがままで、この地に来て、留まり続けるわたくしは、そんな風に守られる、理由など。
「防護布はあくまで予防手段ですので、よろしければここで療養なさっては?部屋に空きはございますし、お連れの方々も含めて、こちらに滞在して構いません。ここであれば主人はわたくしですから、わたくしの指示で療養食も用意出来ますわ」
「それは」
「ヴォルフさま、少し意地悪ですよね。申し訳ありません」
「殿下を悪く言わないで!」
反射的に、上擦った声が出た。
「あなたに、あなたになにがわかるの!なんにも、知らないくせに!!」
目を見開いたアリーニナ嬢に、はた、と冷静になる。
「失礼しました、突然大声を。ですが、でん、いえ、辺境公閣下は、エーデルシュヴァルツ王国の盾を務められる立派なお方。国王陛下の弟君でもある方です。伯爵令嬢如きに、貶められて良い方ではありません」
確かに、魔力汚染された食事を出したことは、悪意にも見えるかもしれない。けれど。
「危険な、この土地に、戦う力のない者を残さないために。あえて厳しい態度を取り、危険な食事を出したのです。意地悪などではありません」
「……痘痕も靨ね」
思わずと言ったように呟かれた謎の言葉が、聞き取れず眉を寄せる。
「今なんと?」
「ああいえ、なんでもありませんわ。ええと、迂闊な発言でご不快にさせたようで、申し訳ありません。ヴォルフさまを貶める意図はなく、ただ」
よく晴れた空のような瞳が、わたくしを映した。どこまでも、どこまでも、澄んだ瞳。
「この地で失われるひとの命を、ひとつでも多く減らしたいのです」
ぞくりとするほど、覚悟の決まった言葉に、息を呑んだときだった。
「お嬢さま、よろしいでしょうか、火急の報せがございます」
不意に外から、声が掛かったのは。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
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