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詠唱破棄?いいえ、即興(フリースタイル)です。  〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜  作者: てん
第一章 重低音の衝撃(ベース・ドロップ)    ―静寂の学院に響く反逆のリリック―

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第9話:残響のメルトダウン(アフター・ライブ)

空を埋め尽くしていた空中艦隊が、千鳥足の酔っ払いのようにふらつきながら、地平線の彼方へと撤退していく。

 レンが放った「逆位相のドロップ」によって、艦隊の魔導炉が一時的にオーバーヒートを起こしたのだ。


静寂が戻った。

 だが、それは以前の静けさとは違う。耳の奥に、まだレンの刻んだ重低音がこびりついているような、熱を帯びた沈黙だった。


「……はぁ、疲れた」


レンは地面にどさりと座り込んだ。

 流石に二十四隻もの魔力を一人でサンプリングし、再構築リミックスするのは骨が折れたらしい。肩で息をし、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。


「レン! 大丈夫なの!?」


ミアが駆け寄ってきた。心配そうに顔を覗き込み、ハンカチでレンの額を拭おうとする。


「あぁ、平気だ。ちょっと喉が渇いたな」


「すぐにお水持ってくるね! 待ってて!」


ミアが慌てて校舎へ走っていく。

 中庭に残されたのは、座り込むレンと、少し離れた場所で立ち尽くすアリアの二人だけだった。


──────────────────────────────


アリアは、動けなかった。

 レンの背中を見つめたまま、言葉が出てこない。


助けられた。二度も。

 しかも、自分たちが「神聖不可侵」と信じてきた魔法のことわりを、彼は「遊び」の延長で塗り替えてしまった。


「……なによ、それ」


アリアの声は、自分でも驚くほど震えていた。


レンが、面倒そうに首を回しながら振り返る。

「あ? まだ何か文句あんのか、お嬢様」


「文句しかないわよ! あなた、自分が何をしたか分かってるの!? 帝国の艦隊を『躍らせて』追い返すなんて……そんなの、歴史上のどの魔導書にも載っていない! 魔法は、もっと厳かで、秩序あるもののはずなのに……!」


アリアが詰め寄る。

 だが、その足元は覚束ない。怒っているはずなのに、なぜか視界が熱い。


「型通りの教科書が、あいつらを止めてくれたか?」


レンの問いに、アリアは言葉を詰まらせた。


「魔法ってのは、誰かを黙らせるための道具じゃねぇだろ。……お前の魔力は綺麗だったぜ。ただ、行儀が良すぎただけだ。もっと自分を解放リリースしてやればいいんだよ」


「……っ、勝手なことを言わないで! 私は、ヴェルセット家の人間として……!」


「家柄とか、伝統とか、そんなの知らねぇよ」


レンが立ち上がり、アリアの目の前に立った。

 スッと手を伸ばし、彼女の銀髪を一房、指先で弄る。


「お前の『バイブス』は、ちゃんと俺の音に乗ってた。……嘘だと思うなら、自分の胸の音を聴いてみな」


アリアの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

 レンの指先が触れた場所から、熱が全身に回っていく。


「……っ、最低。……やっぱり、あなたは最低よ」


アリアはレンの手を振り払い、逃げるように背を向けた。

 顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。

 否定したかった。彼のデタラメな魔法も、その横暴な態度も、すべて。

 それなのに、頭の中ではまだ、レンの刻んだあの「裏打ちのリズム」が心地よく鳴り続けている。


──────────────────────────────


その頃。

 撤退する帝国の旗艦『アイアン・シンフォニー』の艦橋。


「……全艦、被害状況を報告せよ」


ガストンが、歪んだ共鳴板を握りしめながら呻くように言った。

 かつてない屈辱。帝国の誇る「斉唱」が、たった一人のラッパーに「ダンスの伴奏」に変えられた。


「ガストン様。魔導炉の修復には三日を要します。……これ以上の単独行動は危険かと」


「分かっている。……だが、収穫はあった」


ガストンは、レンが放った魔力波形のデータをモニターに表示させた。

 そこには、既存の魔法体系ではありえない「不規則な波」が刻まれている。


「あの男は、魔法を『記号』ではなく『波動』として捉えている。……ならば、こちらも『数』で押すのはやめだ」


ガストンが、冷酷な笑みを浮かべた。


「帝国の『歌姫ディーヴァ』を呼べ。……本物の『うた』で、奴の喉を焼き切ってやる」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                        つづく

【あとがき】


第9話、執筆いたしました!


アリアの「嫌いだけど身体が覚えてる」という、まさにヒロインとしての葛藤を詰め込んだ回です。レンの「お前の魂は俺の音に乗ってた」という、ラッパーならではの殺し文句。エリートお嬢様には刺激が強すぎたかもしれません(笑)


そして、帝国の反撃。

 「数で勝てないなら、質の高い歌い手をぶつける」という展開です。

 帝国の『歌姫』。どんな歌声で、どんな魔法を繰り出すのか?

 

 「ラップ vs 歌姫」

 

 異世界を舞台にした究極の「歌合戦」が始まろうとしています。

 

 アリアの耳が赤くなっている描写に「ニヤニヤした」という方は、ぜひ応援コメントをいただけると嬉しいです!

 

 第10話、いよいよ新ヒロイン(?)にして強敵、歌姫の登場です。

 バイブス全開でいきます!


作者より


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