第7話:宣戦布告のサンプリング
魔導帝国軍、第七軍楽隊の旗艦『アイアン・シンフォニー』。
その作戦室では、巨大な魔導ホログラムが学院の立体図を映し出していた。
「……ガストン、報告は事実か」
通信越しに響くのは、帝国の最高幹部の一人、魔導技術局長の声だ。
「はっ。対象――桐島レンが放った『音』は、既存の術式を一瞬で書き換え、最適化しました。彼が口ずさむ『リズム』には、魔力の共鳴係数を数千倍に跳ね上げる未知の法則が含まれています」
ガストンの報告に、局長の顔が歪んだ。
「数千年前から不変だった我が帝国の『管理詠唱』を、たった一人のガキが塗り替えただと? ……それは帝国の秩序に対する冒涜であり、同時に、喉から手が出るほど欲しい『新技術』だ」
帝国の強さは、魔法を「規格化」し、誰でも同じ出力で使えるようにしたことにある。
だがレンのラップは、その規格そのものを根底から破壊し、再構築してしまう。
「接収せよ。拒むならば、その『未知の術式』ごと学院を灰にしろ。帝国の管理下にない魔法など、この世に存在してはならない」
「御意。……これより、強制的な『調律』を開始します」
ガストンが首の共鳴板を叩くと、要塞のような艦隊が、一斉に駆動音を上げた。
学院の全方位から、腹に響くような「ド、ド、ド、ド」という単調な地鳴りが響き渡った。
帝国軍が打ち込んだ『共鳴杭』。それは周囲の魔力波形を強制的に帝国の規格へと上書きする、精神的な監獄だった。
「……っ、詠唱が……繋がらない……!」
中庭で、アリア=ヴェルセットは唇を噛み切りそうなほど強く結んでいた。
彼女が放とうとする高潔な銀の防御壁は、帝国の刻む無機質なリズムに弾かれ、霧散していく。
「レン! あなた、何をしているの! 早く逃げなさい!」
アリアは、階段で呑気に耳をほじっているレンを睨みつけた。
「逃げる? なんでだよ」
「あなたのその、ふざけた『言葉遊び』が帝国を刺激したのよ! 伝統を汚し、秩序を壊し……挙句にこの窮地を招いた。あなたのせいで、私の、私たちの学院が……!」
アリアの瞳には怒りと、それ以上に「自分の魔法が通用しない」ことへの絶望が滲んでいた。
彼女はレンの手助けなど求めていない。むしろ、自分の愛する魔法の世界を土足で荒らすレンを、心底から疎んでいた。
「悪いな、お嬢様。俺は逃げるより、アンサーを返す方が得意なんだ」
「アンサー? 何を――きゃっ!?」
レンがアリアの腕を強引に掴み、自分の方へ引き寄せた。
アリアは反射的にレンを突き飛ばそうとしたが、その瞬間、レンから溢れ出した圧倒的な「熱量」に息を呑んだ。
「放しなさい! 汚らわしい――」
「黙って聴いてろ。お前のその綺麗な魔力、宝の持ち腐れだ。俺が『生きた音』に変えてやる」
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レンが指を鳴らす。
帝国の刻むド、ド、ド、ドという単調なビートを、レンは「背景音」として利用し始めた。
「いくぜ、帝国へのディス・ソングだ」
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「Yo、聞こえるぜ 安っぽいメトロノーム
型にハメなきゃ 魔法も使えねぇのか? ドーム(Dome)
一、二、三、四 数えてろ一生
俺はその裏 跳ねる三連符で一掃
【反逆のライム・セッション】
お前の『管理』を 俺が『サンプリング』
不快なノイズも 最高のリング(Ring)
銀の旋律 俺のフロウで 加速するパルス
吹き飛ばせ帝国 これが本物のバース!!」
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レンの叫びが、アリアの銀の魔力を「弾丸」へと変えた。
帝国の共鳴杭が、レンの放つ予想外のリズム(変拍子)に耐えきれず、次々と火を吹いて粉砕される。
アリアは、目の前の光景が信じられなかった。
自分がどれほど努力しても動かせなかった「帝国の壁」を、この男は歌いながら、笑いながら、いとも簡単にブチ抜いてみせた。
「……な、なによ、これ……」
レンが手を放すと、アリアはその場にヘタリと座り込んだ。
助けられた。守られた。その事実が、彼女のエリートとしてのプライドを激しく傷つける。
けれど。
レンの後ろ姿を見た時、その背中がほんの一瞬だけ、誰よりも高く、頼もしく見えてしまった。
「……っ、ふん、余計なことを。まだ、許したわけじゃないんだから」
アリアは顔を背けた。その耳の付け根が、ほんのりと赤くなっていることに、彼女自身も、レンも気づいていなかった。
雲を割り、巨大な空中艦隊が姿を現した。
旗艦の甲板から、ガストンの宣告が響く。
『――桐島レン。貴様の「雑音」が、帝国の平和を乱した。これより本艦隊は、全火力を「斉唱」へと切り替える。……学院ごと、沈黙せよ』
レンは空を見上げ、不敵に笑って中指を立てた。
「上等だ。……デカい箱じゃねぇか。これ全部、俺の独壇場にしてやるよ」
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つづく
第7話、書き上げました。アリアの「高潔ゆえの拒絶」と、それを実力でねじ伏せてしまうレンの「圧倒的強者感」の対比が、物語に深みを与えてくれた気がします。
執筆後の「あとがき」も、読者の期待感を煽り、さらに次の話を読みたくなるような熱量を込めて作成しました。
【あとがき】
第7話までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
ついに帝国軍の本隊が姿を現しました。
これまでは「学院の中での揉め事」でしたが、ここからは「国家規模の戦争」……もとい、**レンによる「世界最大級の野外フェス」**が始まります!
今回、アリアには思いっきりレンを嫌ってもらいました。
彼女にとって魔法は「祈り」や「規律」そのもの。それを「サンプリングの素材」として扱い、挙句の果てに「貸せよ」の一言で自分の魔力を勝手にリミックスされる。エリートの彼女からすれば、これ以上の屈辱はないはずです。
……でも、そんな彼女が最後に少しだけ顔を赤らめてしまった理由。それは、理屈では否定できても、「魂」がレンの音に共鳴してしまったからに他なりません。
そして次回の第8話。
空を埋め尽くす空中艦隊の「一斉合唱(斉唱魔法)」に対し、レンはたった一人でどう立ち向かうのか?
帝国のガチガチの重低音 vs レンが解き放つ、この異世界で誰も聞いたことのない「究極のドロップ」。
「魔法は、耳で聴くもんじゃねぇ。肌で、魂で感じるもんだ」
レンが空中艦隊を文字通り「踊らせる」シーン、めちゃくちゃ気合を入れて準備しています。
アリアのツンデレが「デレ」に転じるのか、それともさらに拗れるのか(笑)そちらもぜひお楽しみに!
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第8話も、最高にアガるバースを用意して待っています。
作者より




