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詠唱破棄?いいえ、即興(フリースタイル)です。  〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜  作者: てん
第一章 重低音の衝撃(ベース・ドロップ)    ―静寂の学院に響く反逆のリリック―

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第6話:バースの真髄と、冷たい銀髪の旋律


正門が消えた。

 あとに残ったのは、物理的な瓦礫と、それ以上に重くのしかかる「帝国の脅威」という静寂だった。


「……信じられない」

 ミアが震える声で呟いた。

「帝国の第七軍楽隊って、たしか『一回の演奏で一つの都市を沈黙させる』って言われてる精鋭部隊だよ。なんでそんな人たちが、わざわざこんな辺境の学院に……」


「俺のラップが、あいつらの『秩序』とやらを逆なでしたんだろうな」

 レンは地面に落ちたミアのパンを拾い上げ、砂を払って渡した。

「悪い、ミア。パン、台無しにしちまった」


「あ、ありがとう……。でもパンなんていいよ、それよりレン、本当に大丈夫なの? あんなに睨まれて……」


「睨まれるのは慣れてる。ステージじゃ日常茶飯事だ」

 レンは平然と言い放ち、視線をアリアへ向けた。

「で、アリア様。監視役としては、今の襲撃はどう評価するんだ?」


アリアは銀髪を指で払い、冷徹な瞳でレンを見据えた。

「最低よ。敵を追い返したのは認めましょう。でも、あなたの放った『音』は、この学院の魔導結界を内側から激しく共鳴させていた。……自覚はあるの? あなたの魔法は、既存の術式を『上書き』して壊してしまうのよ」


「壊すんじゃねぇ。アップデートだ」

「言葉遊びはいいわ。……学院長から伝言よ。明日から、特別講義室をあなたに開放するわ。そこで自分の『音』がどれだけの破壊力を持っているのか、正確に測定しなさい。……私も立ち会う」


「監視付きの練習リハーサルってわけか。悪くない」


──────────────────────────────


翌日。学院の地下にある「反響魔導実験室」。

 四方を特殊な魔導銀で覆われたその部屋に、レン、ミア、そしてアリアの三人がいた。


「いい、レン。従来の魔法は、この水晶に魔力を込めて『安定した波形』を維持する時間を競うの」

 ミアが教えるが、レンは目の前の水晶を一瞥しただけだった。


「安定、ね。それじゃソウルは乗らねぇよ」

 レンはマイク……の代わりになる、魔力を通しやすい黒鉄の杖を握った。


「見せて。あなたの言う『アップデート』が、ただの暴走ではないという証拠を」

 アリアが腕を組み、冷ややかに告げる。


レンは目を閉じ、足でリズムを刻み始めた。

 ドン、カッ、ドッドッ、カッ。

 無音の室内に、レンの心音と魔力がリンクした鼓動が響き渡る。


「Yo、チェック。ワンツー、ワンツー」

 ボソリと漏らした声が、壁の魔導銀に反射し、増幅されて戻ってくる。

「この部屋、サンプリングには最高だな。……いくぜ」


──────────────────────────────


「静寂の中 研ぎ澄ますリリシズム

銀の壁に反射する 俺のプリズム

安定? 固定? そんなの死んでる

言葉は生モノ 今も進化(進化)してる

【熱伝導・分子加速ヒート・フロウ

氷の壁を溶かす この熱量バイブス

ライムの連鎖で 出力を倍増

予定調和の その先へエスコート」


──────────────────────────────


実験室の温度が急上昇した。

 レンが踏む「リズム」に合わせて、部屋の中央にある巨大な測定用水晶が、これまでに見たこともない虹色の光を放ち始める。


「な……出力が、測定不能オーバーフロー!? まだたったの数行バースしか歌っていないのに!」

 ミアが計測機を見て叫ぶ。


しかし、アリアの目は別の場所に釘付けになっていた。

 レンが発する魔力の波形が、単なる「破壊」ではなく、緻密に計算された「幾何学模様」を描いていることに気づいたからだ。


(……デタラメに叫んでいるわけじゃない。彼は、韻を踏むことで魔力の『位相』を整え、爆発的な増幅を……自己完結させている?)


アリアの手が、無意識に自分の胸元に置かれた。

 彼女が一生をかけて学んできた「魔導学」の教科書が、目の前で音を立てて崩れていくような感覚。


レンが歌い終えると、室内には心地よい余熱だけが残った。


「どうだ。これが俺の『安定』だ」

 レンが杖を肩に担ぎ、アリアを見た。


アリアは数秒の間、言葉を失っていたが、やがていつもの無表情を取り繕って言った。


「……五十分点ね。まだ騒がしすぎるわ」


「厳しいな、お嬢様。……で、その五十分点をつけた手、震えてるぜ?」


アリアはハッとして自分の手元を見た。

 隠そうとしたが、遅かった。彼女の指先は、レンの奏でたリズムの残響に、まだ小さく震えていた。


「……これは、寒さのせいよ」

「そっか。じゃあ次は、もっと熱いバースを蹴ってやるよ。凍えないようにな」


レンの不敵な笑みに、アリアは初めて、視線を逸らした。


──────────────────────────────


その頃、学院の屋上。

 一羽の使いカラスが、実験室から漏れ出た魔力をサンプリングし、闇へと消えていった。


行き先は、帝国のキャンプ。

 あの巨漢の騎士――『重低音のガストン』が、報告を待っていた。


「……面白い。学院の連中も、ようやく『音』の重要性に気づいたか」

 ガストンは首の共鳴板を愛おしそうに撫でる。

「だが、所詮は独りよがりのラップ。帝国の『軍楽』という完成されたシステムの前で、どこまで耐えられるか見ものだな」


ガストンが指を鳴らすと、背後の闇から、楽器を持った兵士たちが一斉に膝をついた。

 それは、来るべき「演奏会せんそう」の幕開けを告げる、不吉な不協和音だった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                        つづく

6話、執筆いたしました。

 レンの力が「ただのラッキー」ではなく、音楽的・魔術的な裏付けがあることをアリアに見せつけ、彼女のプライドを少しずつ揺さぶっていく回です。

 

 「位相を整える」とか「自己完結」とか、ちょっと小難しい設定をアリアに語らせることで、レンの凄さがより際立つようにしています。

 

 次回、いよいよ帝国軍の「合唱」とレンの「ソロ」がぶつかる前哨戦……あるいは、アリアとの合同練習!?

 7話もノリノリでいきましょう!

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