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詠唱破棄?いいえ、即興(フリースタイル)です。  〜定型文しか唱えられない魔術師たちを、現代最強ラッパーがリリックでボコボコにする〜  作者: てん
第一章 重低音の衝撃(ベース・ドロップ)    ―静寂の学院に響く反逆のリリック―

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18/20

第18話 『路上(ストリート)の再会』



 ハルモニア自由都市は、音で出来ていた。


 馬車が城門を抜けた瞬間から、音が違った。


 街全体から音楽が聞こえる。宿の窓から流れる弦楽器。広場の噴水の周りで歌う大道芸人。路地の奥から届く打楽器の連打。それぞれが勝手に鳴っているのに、なぜか不思議と不協和にならない。街の空気そのものが、音楽を受け入れる構造になっていた。


 レンは馬車の窓を全開にした。


(ここは本物だ)


 音を聴いた瞬間に分かった。


 帝国の「規格化された魔法音楽」とは根本から違う。誰かに指定された音楽ではなく、それぞれの人間が好きな音を出している。その混沌が、街全体の豊かさになっていた。


「……すごい」


 ミアが窓から頭を出した。


「こんな街があるの?」


「自由都市だから。帝国の管轄外で、音楽に関する規制がない」


「魔法音楽も自由に使えるの?」


「たぶんそういうことだ」


 アリアは窓の外を静かに見ていた。


 何かを分析している顔だった。


 エレナはフードを少し下げて、目だけで街を見ていた。その目に、初めてレンが見る表情があった。


 懐かしむような、何かだった。


──────────────────────────────


 宿に荷物を置いた後、レンは一人で街に出た。


 フェスの開幕は翌日だ。今日は下見のつもりだった。


 ハルモニアの路地は入り組んでいた。大通りから一本入ると、急に人が減り、古い石造りの建物が続く。洗濯物が頭上を横切り、どこかで猫が鳴いていた。


 その感触が、懐かしかった。


 横浜の外れ。再開発から取り残された路地。あの匂いに似た何かが、ここの空気にある。


 レンは足を止めた。


 路地の奥、木箱の上に座った男がいた。


 年齢は二十代前半くらい。茶色い短髪。派手ではないが、この世界の服にしては妙にカジュアルな格好だ。足元に何かが置いてある。小さな黒い箱。


 男は何かを手帳に書いていた。


 レンは近づいた。


 男が顔を上げた。


 目が合った。


 男が固まった。


 レンも、一拍止まった。


(日本人の顔だ)


 確信ではない。でも骨格が、この世界の人間とは少し違う。


「……もしかして」


 レンが日本語で言った。


 男の目が、大きくなった。


「……え」


 日本語が返ってきた。


──────────────────────────────


 男の名前は中村隼なかむら・はやぶさといった。


 二十二歳。大学でDTMをやっていた。気づいたらこの世界にいた。レンと同じ転移者だった。


 木箱の前に二人で座り、話した。


「いつ来たんだ?」とレンは聞いた。


「一年くらい前。レンさんは?」


「半年くらい。ここには最近来たのか?」


「フェスの前から来てた。この街、音楽に関する魔道具の規制がないから。機材の代わりになるものを揃えてる」


 足元の黒い箱を見た。魔力結晶を加工した音響魔道具だった。この世界版のスピーカーだ。


「DTMをやってたのか」


「大学でサークルで。レンさんは?」


「ラッパーだった」


「マジで。じゃあリリックは自分で」


「全部自分で書く」


 男は少し目を細めた。


「……それ、こっちでも使えるんですか。ラップが魔法に」


「使える。お前のDTMは?」


「使えます。ビートが魔法になる。エフェクトも全部魔力に変換できる。ただ……」


 男は少し間を置いた。


「使い方によっては、かなりヤバいことになる」


「ヤバいというのは」


「強すぎる、という意味と、悪用できる、という意味の両方です」


 レンは男を見た。


 正直な目をしていた。隠していない。


「お前は、どっちで使ってる」


「……今のところは、強すぎる方だけです」


「今のところは、というのは」


 男が少し視線を逸らした。


「帝国から、接触がありました。三ヶ月前に」


「どんな接触だ」


「お前の技術を帝国のために使え、報酬は払う、という話。断ったんですが……断ったはずなんですが」


 男の顔が、少し暗くなった。


「断った後に、街の音楽に変な術式が混じってるのに気づいた。俺のビートのパターンに似てる。でも俺は作っていない」


 レンは立ち上がった。


「誰かがお前の技術をコピーした?」


「たぶん。接触してきた帝国の奴が、会話の中で俺のビートを分析してたのかもしれない」


「その術式が混じった音楽が今、街で流れてるのか?」


「フェスの前から、少しずつ」


 レンは路地の外、大通りの方向を見た。


 音楽が聞こえる。陽気で楽しそうな音楽。


 その中に、僅かに、何かが混じっている気がした。


「明日のフェスに、それが本格稼働する可能性があるか?」


「あると思います」


 レンは手帳を取り出した。


「名前、フルネームで書いてくれ。ここで待ってろ」


「え、何するんですか」


「仲間に話してくる。お前も一緒に動いてもらう」


「俺が? でも俺は帝国に目をつけられてて」


「だから仲間が必要だろ」


 男は少し呆気に取られた顔をした。


 それから、ゆっくり笑った。


「……了解です。中村隼です。ハヤって呼んでください」


「レンだ」


「知ってます。大陸中に名前が広まってるんで」


「本当に?」


「艦隊を踊らせた話、ハルモニアでも有名ですよ」


 レンは少し間を置いた。


「……俺、そんなに目立つことしたか」


「してますよ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

                       つづく

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【あとがき】


 18話まで読んでくださり、ありがとうございます。


 もう一人の転移者、中村隼ハヤを登場させました。

 ラッパーではなくDTM出身にしたのは意図的です。

 ビートメーカーとラッパーは、同じ音楽の世界でも役割が違う。

 レンが「言葉」の人間なら、ハヤは「構造」の人間です。

 この二人が組んだ時に何が起きるか、19話以降で描きます。


 「断ったはずなんですが」というハヤの言葉。

 彼は完全に白ではありません。でも黒でもない。

 グレーの転移者と、レンがどう向き合うか。

 それが第二部の核になっていきます。


 街の音楽に混じる「変な術式」。

 19話でそれが牙を剥きます。


                       作者より


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