-最終話- 若返りの過ぎた魔王様が友達として連れてきたのはやっぱり勇者 その3
この重要な案件を、さて、どう話したものであろうか。
「ちょっと話を戻すけどニャ、吾輩は魔界の魔物たちのために魔王として勇者に敗れることを計画していたのニャ。そこでいろんなことを考えていたのニャ」
「いろんなことですか」
「まず、吾輩は勇者に敗れた後のどうなるかを考えたニャ。魔王が敗れたら人間はみんなでお祝いするものニャ。それは魔王にとっては悲しい話なのニャ」
「やーね。魔王様、そんなことを考えていたの」
何度も魔王が勇者によって倒されるのを見てきたのだ。自分が魔王になればそんなことも想像もする。
「だからせめて吾輩が死んだとき悲しんでくれるメンバーを部下にしていったのニャ」
「俺たちはそんな理由で集められたのかよ」
「もちろんそれだけじゃないけどニャ。ただ、そんな忠誠心が高いメンバーだから、おめーらは勇者から吾輩を守ろうとするだろうからニャ」
「当然、そうするでしょうね。魔王様をお守りするのが我々の役目ですから」
「勇者が魔王を倒す吾輩の計画では、おめーらが勇者を倒してしまっては駄目なのニャ」
「つまり魔王様は具体的な勇者の存在を想定して動いていたということですか」
「そうなのニャ。結局、噂話でどうにかなったけど、当初はちゃんと勇者が必要だと思っていたのニャ。でも、勇者が魔物を倒していって魔王の元までやって来るなんてのは本望ではないのニャ」
「そりゃそうだろうな。魔物の未来のために動いているのに、魔物の犠牲を伴うわけにはいかないもんな」
「だから、吾輩の計画に協力してくれるような勇者を求めていたのニャ。魔物と戦うことを良しとしないような勇者を」
「やーね。そんな都合のいい勇者がいるとは思えないわよ」
「吾輩もそう思っていたのニャ。しかし、ついにうってつけの人材を見つけのニャ」
「どこにいたのですか、そんな勇者」
「ある日、吾輩が魔界にある人間の居住地を散策していた時の話ニャ。吾輩のことを徘徊老人だと思ったのか心配して声を変えてきた少年がいたのニャ」
「確かに時間を戻す術を使う前の魔王様は、人間の集落にいればちょっと派手目なおじいさんに見えないことはないわよね」
「吾輩、その少年に勇者の素質を見出したのニャ。話を聞けば戦うのが嫌で勇者をやめたいとまで言っていたのニャ。性根が優し過ぎて戦う魔物にまで共感してしまうらしいのニャ。もともと孤児で勇者の素質を見込まれてからは生活が一変したけど、勇者の役目を果たせずにいて悩んでいたようだったニャ」
「……どこかで聞いたような勇者だな」
マカマフィンが想像している勇者と同一人物であろう。
「吾輩はその少年を魔王を倒す勇者にすることにしたのニャ。しかし吾輩、強くなりすぎて普通なら勇者に倒されないほどの実力差があったのニャ。そこで、時間を戻す術で若返り肉体を弱体化した魔王が勇者に倒されるという筋書きを作ったのニャ」
「確かにその状態ならば魔王様が勇者に倒されることは可能でしょうね」
「肉体を弱体化させた状態ならば倒されることは簡単だからなニャ。時間を戻す術の儀式の後、勇者が魔王を倒したと名乗りを上げればいいのニャ。勇者の少年にあらかじめ魔法で手紙を送って計画を伝えて吾輩は若返りのための儀式を行ったのニャ。でも、そこでトラブルが起きたニャ」
「勇者に裏切られたのか? 魔王様の計画じゃ魔王様が若返った後、勇者が魔王を倒したと名乗りを上がるはずだったんだろ。でも、そんなのなかったぜ」
「違うニャー。でも、計画通りにいかなかったのはその通りなのニャ。吾輩は予定通り死んでしまったわけだけど、吾輩の方が勇者の気持ちというのを考えていなかったのがいけなかったニャ」
ここまで話すと、それまで油断していた四天王たちの空気が変わった。
「は? 死んだ?」
マカマフィンは焦りを隠そうともせず語気を強める。
やはり聞き逃してはくれなかったか。こうなっては全部話すしかないようだ。
「あれよ、もともと吾輩が死ぬことは計画のうちだったのニャ。魔王が勇者に倒されるからには死亡という事実こそが重要だと考えていたからニャ。吾輩、長く生き過ぎたのでそろそろ潮時だったのニャ」
「なんでそんな重要なことを教えてくれなかったのですか」
タリュートゥは言葉こそ冷静だが事態を理解しようと頭を巡らせているようである。
「だって、おめーらに言ったら止めるニャろ」
「やーね。当然じゃないの」
ハハルアピはただただ呆れているようである。
「だがニャ、吾輩が予想外だったのは勇者も吾輩の計画を止めようとしたことなのニャ」
「止めようとしたって、勇者が魔王様を救おうとしたのか?」
「そうニャ。実は時間を戻す術の儀式を行っていたとき、転移魔法で勇者が飛び込んできたのニャ。おめーら、あの部屋には魔王のほかにシュウクレムしかいなかったなんて言っていたけど、転移魔法ってものがあることを忘れていたようだニャ」
「つまり、誰かが時間を戻し過ぎるよう術に細工をした魔法陣を魔王様が止めたのではなく、魔王様がご自分で時間を戻し過ぎるようにしたのを妨害したのが勇者だったのですか」
「その通りニャ。勇者が転移魔法で飛び込んできて時間を戻す術を止めに入ったのニャ。でも術は止まらなくて、吾輩の肉体は完全に消滅したのニャ」
「消滅って、つまり……」
「吾輩の肉体はどこにもないのニャ」
「おい、それじゃ、朝太は誰なんだよ」
「決まってるニャろ、吾輩の術に巻き込まれて若返った勇者だニャ」
そう。だから、朝太と吾輩が合わさって元に戻るなんてことはできないことなのだ。
「……勇者?」
「そうだニャ。術に巻き込まれて勇者も十歳くらい歳若がえったかニャ。結局、勇者は吾輩の術を止められなかったし、ショックで記憶も失ってしまったのも本当のようだけどニャ」
「なんということでしょうか」
「吾輩、カステラとしてのセリフは適当なことを言っていたけどニャ、ナレーションごっこをしている時は朝太の説明をする際には『魔王の術が失敗して若返った』とは言っても『魔王が若返った』とは言わないようにしていたのニャ」
「なんだよ、その無駄な気遣いは。それにしたって、それじゃ俺たちは間抜けにも魔王様だと思って勇者を手塩にかけて育てていたってわけかよ」
「吾輩もあの子を育てると言い出したのには驚いたのニャ。育てるうちに光属性の魔法を使いだしたらばれるかと思ったら人間界で育てることで魔法を使うことはなかったし、人間であることが分かったらばれるかと思ったら吾輩がもともと人間だと解釈するだもんニャー。思い込みとは恐ろしいものニャ」
「朝太が勇者にあこがれていたのも当然ですよね。もともと勇者なわけなのですから」
「なんだかカッコウの托卵みたいね」
「托卵ってなんだよ」
「簡単に言いますと他の鳥に自分の卵を育てさせることですよ」
タリュートゥが解説する。
「托卵をー、企んでるー、みたいニャ?」
「魔王様うるさいわよ」
「もう少し、こちらとの温度差を感じてくださいよ。これでもショックを受けているですからね」
「魔王ってのは魔界を統べる者であってギャグが滑る者じゃないだろ」
散々な言われようである。無理もないことだが。
「吾輩、魔王だから清廉潔白ってわけにはいかないのニャ。いろいろ企んでるってわけだニャー。でも、あれよ。吾輩が生前に計画したことは勇者によって阻止されたわけだけど、死後にやったことはうまくったのニャ。これって吾輩が魔王じゃなくなったってことなのかもしれないニャー」
今は魔王が死んだ後だから平和な世界になってるのかもしれない。
「まだ疑問があるのですが、転移魔法は我々魔物の間ですら使えるものが限られています。それを勇者とはいえ人間が使えるとは想定外のことです。魔王様が教えたのですか?」
「いや、それは吾輩も想定外だったのニャ。後で分かったことだけど、勇者の故郷に召喚用の魔法陣が描かれた石碑があってそれを応用したようなのニャ」
「……あったな、そんなもの。俺の先祖が残したやつだな」
あの石碑を見たときに吾輩も理解したのだ。
「勇者召喚騒動があったけど、本当は勇者である朝太を召喚しようとしていたんだろうニャ。それが消えた勇者本人だったわけだけどニャ」
「そもそも転移魔法は一度行ったことのある場所へ移動するものよね。魔王様はいつの間に勇者を魔王城へ連れてきたのよ」
「交流を続けているうちに勇者が子犬を拾って飼えるやつを探していたのニャ。なんとそれはケルベロスだったので吾輩が飼うことにしたのニャ。それでその時に魔王城へ連れてきたのだけど、おめーたちにも紹介しなかったかニャ?」
「ああ、あのときの子でしたか。私も人間の振りをして出迎えてましたね」
「確か魔王様の友達として連れてきたのよね。ちょっと勇者っぽい子だと思ったけど、本当に勇者だったのね」
「おい、そんなことがあったのかよ。そんな重要なことがあったのなら言えよ」
「ちょうどその時マカマフィンはいなかったんだったわね」
「あれだニャ。若返りを繰り返し過ぎた魔王様が、友達できたと言って連れてきた子が勇者だったわけだニャ」
「勇者の方は魔王城を見て何とも思わなかったのかよ」
「遠くから見れば厳ついけど、近くで見ればただのでかい建物だからニャ。掃除も行き届いていて意外と明るい魔王城なのニャ」
「本当に友達を家に連れてきたって感覚なんだな」
「まあ、勇者も魔王様の術を止めようとしたくらいですから、勇者も魔王様を友達だと思っていたのでしょうね」
「友達になったからこそ、魔王様は勇者に後を任せられると思ったわけだし、勇者は魔王様を止めようとしたのよね」
向こうも吾輩を友達だと思っていたようだ。それを理解していなかったことがいけなかった。
「勇者の存在によって魔王様が決意したというのなら、そんな魔王でもその魔王を倒すのにふさわしい勇者が現れるという伝説は、今回も例外ではなかったというわけですね」
「あれ? じゃあ、夕貴は何者なんだ?」
「勇者ごっこに夢中なただの近所のお子様ニャろ」
「……マジかよ」
「五歳くらいじゃそんなもんニャろ。勇者である朝太に友達ができて魔王である吾輩もうれしかったものだニャ」
「当初の予定では勇者が魔王を倒したと言い出すはずでしたよね。そのことで、我々が復讐のために勇者を倒すということは考えなかったのですか?」
「勇者に手紙を渡していたからニャ。お前がこれを読んでいるときには私はもういないのだろう的な奴ニャ。それを勇者がおめーたちに見せればうまくやってくれると思ってニャ。まあ、勇者が若返った時に手紙も消滅してしまったようだがニャ」
「魔王の計画を狂わせるのが勇者ってわけね」
「結果的に幼い勇者が一人残されることになったのはちょっと焦ったけど、おめーらなら無碍な扱いはしないと思っていたのニャ」
「そういえば魔王様は死ぬ時には誰かに泣いて欲しかったんだよな。結局、死んだことに気づかれなかったせいで誰にも泣かれなかったんじゃねーか」
実は一人だけ泣いたのであるが、それをここで言うのは野暮というものであろう。
「今後のことを考えましょう。魔王様はゴーストなわけですが、いつまでその状態を保っていられるのですか」
「さあニャ。四十九日が過ぎれば成仏するかもニャ」
「魔王様、仏教徒だったんですか?」
「そもそも儀式から五十日以上経ってるだろ」
「吾輩くらいの魔王になるとロスタイムが五十年くらいあるのかもニャ」
「何よ、ロスタイムって」
「今はアディッショナルタイムっていうんでしたかニャ」
「いや、そこに引っかかっているわけではないです」
「そして、結構居座るつもりだな」
「死んだ本人が言っているとは思えないほど軽いですね」
「かわいいネコちゃんかと思ったら、とんだタヌキだったのね」
「ハッ! 吾輩は狸じゃないのニャ!」
「振りじゃねーよ。それで、魔王様のいない今、この家族ごっこを続けるのかが問題だ」
「巻き込んでしまってあの子には悪いことをしたのニャ。せめてきちんと育ててあげることが罪滅ぼしだと思っているのニャ」
「それが魔王様の遺志ならば、それに従うのが我々の役目でしょう」
「ええ。魔王様の野望のためにあたしたちはいるんだもの」
「その魔王はもういないんだ。いや、いるけどさ。お前たちの意思はどうなんだ。俺は続けたいと思っている」
「そうですね。魔王様のいなくなった魔界の再建が急務です。そのため勇者の監視は必要だと考えます」
「考えてみればあたしたち勇者を魔王として育てていたのよね。そこだけ聞くと結構な悪趣味よね。魔王軍としてはそれも正しい姿なんじゃないかしら」
「それにですね、人間界への侵略のためにも必要なことだと思います」
「侵略って、魔王軍で攻め込むのは戦力的に無理なんじゃなかったのか?」
「人間側は我々の存在を知らないはずですから、わざわざこちらから存在を教える必要もありません。現状では本当に人間たちが我々や魔界の存在を知らないのかどうかも分かりません」
「じゃあ、どうするんだよ」
「人間界にスパイを紛れ込ませるといった手段が最適でしょう。こっそり人間社会に紛れ込んで生活をするわけです」
「つまり、それって今あたしたちがやっていることよね」
「なんだ。素直に今の生活を続けたいって言えばいいだろ」
「何かをやるのに単にやりたいからやるってわけにはいきません」
「そーよ。大人には大義名分が必要なのよ」
「面倒なことだな」
「そうですね。でも、朝太に言うわけにはいかないので代わりにあなたたちに言わせてもらいます。もう少しあなたたちと家族でいさせてください」
「そーね。あたしも同じ気持ちだわ」
「そのセリフは卑怯だぜ」
「あの子には勇者とか魔王とか、そんな運命とは無関係な幸せな人生を歩んでほしいものです」
「何が幸せかなんて自分で決めるものよ。魔王がいない今、勇者として生きて行くことはできないとしてもね」
「あれよ。何度も記憶を抜いて若返った経験者から言わせてもらうとだニャ。不思議なもんで、記憶をなくして若返った後も、自分が何をやらなきゃならないのかうっすらと理解しているものなのニャ」
「勇者のやらなきゃならないことって魔王を倒すことじゃないかよ」
「どうなのかニャ」
「朝太の方じゃどう思ってるのかね。勇者として生きてきて、倒すべき魔王と友達になって、術に巻き込まれて若がって記憶を失うときにどんなことを考えていたのか」
人間の姿に戻り魔界の魔王城から人間界の君守家へ帰ってきた一行。
「あー、いたよ」
ちょうどそのとき、理緒が朝太と夕貴を連れて君守家を訪ねてきた。
「遅くなったから朝太君を送りに来たよ」
「うお、もうこんな時間かよ。悪かったな。朝太は今日何をして遊んでいたんだ?」
「僕ね、ゲームをやったよ」
マカマフィンこと真洋の質問に朝太が答える。
「そうなのですね。どんなゲームをしたのですか」
タリュートゥこと辰人が朝太に尋ねる。
「うんとね、モンスターを仲間にして冒険するゲームとかだよ」
「ああ、あれか。あれは四天王が強いのがいいんだよな」
「朝太君、勇者がモンスターを倒していくゲームはあんまり好みじゃなかったみたいだよ。私と夕貴は大好きなんだけどね」
理緒が口をはさんでくる。
「ああ、そうなんだ。夕貴はその影響で勇者ごっこが好きになったんだな」
「古いゲームだけど、どっちもお母さんの嫁入り道具なんだよ」
「やーね。ゲームが好きなのは血筋だったのね」
ハハルアピこと羽春が呆れたように自分の口を押える。
夕貴の勇者好きにして話をややこしくしていた元凶は姉妹の母だったのかもしれない。
「僕、そのあとは夕貴ちゃんと勇者ごっこをして遊んだんだよ」
「ああ、いつものやつだな」
「勇者はね、家族や友達を守るために戦うんだって」
「そうだ。みんなを守るために魔王と戦って世界を平和にするんだ。それが勇者だぞ」
夕貴が割って入り勇者の行動原理を説く。
「だから僕も勇者みたいに強くなってみんなを守るんだ」
「そっか、それが朝太のやりたいことだったんだな」
吾輩たちは家族のために戦っていたのだ。
家族のために戦うのが勇者なら魔王も四天王も勇者になってしまうではないか。
最終話 終
次回が最終回となります




