-最終話- 若返りの過ぎた魔王様が友達として連れてきたのはやっぱり勇者 その2
吾輩は観念してすべてを話すことにした。
四天王たちが集まっているこの魔王城の一室で、すべてを明らかにしてしまうのだ。
「そうだニャ。初めに言っておくけど吾輩のことは魔王として接してくれなくてもいいのニャ。吾輩もこの口調を続けるのニャ。気軽にやろうニャ」
「俺としても今までお前を同僚だと思って接してきたから急には切り替えられないぜ。それに猫の姿じゃ敬う気も失せるしな」
それでいい。吾輩も気軽に話し合える関係はありがたいのだ。
「実を言えば、吾輩は時間を戻す術を使った際にはゴーレムの体に入っていたものの、その後はそこから抜け出して、精神体のような状態でずっと漂っていたのニャ。その状態で、おめーたちの生活を見守っていたのニャ」
「見守っていた?」
「そうニャ。肉体を持たない吾輩は幽霊みたいなものだからニャ。肉体のない精神体として、おめーたちの周りをずっと漂っていたのニャ。おめーらが人間界で生活しているところも見ていたのニャ」
吾輩が失敗した事後処理をどうするかと思ったが、人間界で、しかも家族として暮らすとは予想外のことであった。
「幽霊ってゴーストってことだろ。ゴーストってうっすら見えるんじゃなかったっけ?」
「前にも説明したと思いますが、高い魔力を持つものならば姿を隠すことは可能です。魔王様のゴーストならば見えなくても当然ですね。魔力を遮断したとすれば、なんとなく気配を察知するくらいはできるかもしれませんが気づくのは難しいでしょう」
吾輩に代わりタリュートゥがマカマフィンに解説してくれる。頼りになる部下である。
「積極的に魔力を感知しようとしなければ、分からないだろうニャ。人間界で魔力を感知するような機会は普通ないから問題ないはずだったのニャ。だけど、その機会が訪れたのニャ」
「部下のゴーストが私の転移魔法に巻き込まれて人間界に来たときですね」
「あたしの魔力感知で家の辺り一帯を探ったんだったわね」
タリュートゥの言葉でハハルアピも思い出したのか小さくうなずく。吾輩ですら警戒しなくてはならない能力を持っているのだ。優秀な部下である。
「そういうことだニャ。吾輩は、シュウクレムの核である魔法石に入りこみ、そこからはシュウクレム、つまりカステラとして生活することにしたのニャ」
予定外の出来事ではあったが、吾輩まで家族として過ごすことになるとは思ってもみなかった。災い転じて福ということもあるものだ。
「確かに猫が現れたのはゴースト騒ぎのすぐあとでしたね」
吾輩は成り行きで自分のことを裸の王様とたとえたが、王様であることは間違いないのだ。魔王様ではあるけれど。
「あの時は俺たちのことを千里眼で見て知っていたなんて説明したけど実際に俺たちの生活を見ていたんだな」
カステラとして活動し出してからは千里眼を使って皆の生活を見ていたのであるが。
「あれよ、実況動画みたいに感想や突っ込みを入れつつ生暖かく見守っていたニャ」
「そんなことしてたのかよ。まさか配信してないだろうな」
「してないニャ。まあ、おめーたちの生活を見ては、勝手にナレーションを入れていたけどニャ」
「そんなことまでしてやがったのか」
「吾輩、日曜夕方の少女漫画原作アニメよろしくナレーションをやってみたけど、あの味は出せないニャー」
「やーね。魔王がほのぼの日常系アニメの味を出そうとしないで欲しいわ」
「実況はカステラとして活動するようになってからも続けていたのニャ。ただ、猫として暮らすようになってからは、なかなか気の利いたコメントが残せなくてニャ。それがなんとも心残りだニャ」
「いや、他にもっと後悔することあるだろ」
「それはそうだニャー。吾輩の実況を引き継ぐとしたらマカマフィンにやってもらいたいものだニャ」
「俺は嫌だけど」
「そう言うニャ。おめーはボケ倒す奴に突っ込みを入れ続けている時が一番輝いていたのニャ」
「待て待て待て待て。さすがに、もっと輝いていた時があっただろ。あったよな。あったよな?」
戦っている時よりは突っ込みの時の方が輝いていたであろう。将来有望な部下である。
「ひとつ疑問があるのですが、そもそもゴーストとして活動ができるなら、時間を戻す術にゴーレムの肉体は必要なかったのではないですか?」
タリュートゥの疑問ももっともである。
「あれは別の目的もあったのニャ」
「別の目的?」
「時間を戻す術を行う際、肉体を若返らせる前に魔力を移して保存しておくためものなのニャ」
「魔力の保存ですか」
「前にも言った通り、吾輩が時間を戻す術を使って若返ったのは今回が初めてではないのニャ。これまでに何度も若返りを繰り返してきたのニャ」
「それは本当なんだな」
「吾輩、魔王になる前はこの術が使えるだけで元々の魔力はたいしたことなかったのニャ。それでも、年月とともに魔力を高めることはできたのニャ。年老いて肉体を若返らせるときに魔力を別のところへ移しておくのニャ。そうやって生涯をかけて貯めた魔力を魔法石へ移し替えることを繰り返していくことで魔力を蓄えていったのニャ」
「そして誰よりも強くなって魔王になったわけですね」
気の遠くなるような時間を思い、タリュートゥは遠い目をする。
「やーね。魔王様の力がどこかにあると思っていたけどそんなところにあったのね。魔界を探しても見つからないわけだわ。シュウクレムの核は人間界に持ってきていたわけだもの」
「ですが、シュウクレムの核となる魔法石では魔王様の膨大な魔力を納めきれるとは思えません」
「ああ、これは魔力の転送装置なのニャ。魔力は別の場所に保管してあるのニャ。データをクラウドに保存するようなもんだニャ」
「クラウドって、その保存先はどこにあるんだよ。そんなもの誰かに盗られたら一大事だぞ」
「そう簡単に盗めないのニャー。どこにあるのかヒントを出してやるニャ。魔界には月が二つあると思われているけど、実は一つしかないのニャ」
「やーね。ほとんど答えじゃないの。片方は魔王様の魔力を貯めた魔法石なのね?」
「本当ですか、あれがすべて魔王様の魔力だなんて」
「うお、まじかよ。天体一つ分の魔力を持ってるってのかよ」
みんな驚いたような顔を見せる。まあ、当然の反応であろう。
本当は吾輩の力は魔界にあったのだが、地上から遠すぎてハハルアピでも感知できなかったのであろう。
「あれよ、さすがに本物の月よりは小さいのニャ。それでも気安く手に入れることなんて不可能だけどニャー」
「シュウクレムの核が重要な役割を果たしていることは分かりました。しかし、魔王様のお力を簡単に手に入れることができないとならば、どうして我々にあなたが魔王であることを教えてくれなかったのですか? 私はてっきりその力を守るために秘密にしておきたかったのだと思っていました」
「……あー、それについては一から説明するのニャ」
やはりこの話もしなくてはいけないようだ。
「吾輩が力を蓄えている間、随分長いことを生きてきたのニャ。吾輩が魔王になるまでに、いろんな魔王が生まれては死んでいったのニャ」
話は長くなるが、年寄りの昔話に付き合ってもらおう。
「魔界の歴史を見てきたわけね」
「そうニャ。そして歴代の魔王はみんな勇者に敗れたのニャ」
「勇者が魔王を倒す。例外はなかったのですね」
「吾輩が知る限りないニャ。いろんな魔王がいていろんな勇者がいたけど、要素を抜き取ればどれも同じようなものニャ。ずっと勇者が魔王の野望を打ち砕いて行ったのニャ。だから吾輩は魔王になることを目指して魔力を高めながら勇者を倒すこと、勇者に倒されないことを考えてきたのニャ」
「何かいい方法は見つかったのか?」
「いや、見つからなかったのニャ。だけど、吾輩はひとつの結論を得たのニャ。魔王が勇者に倒される、これは世界のシステムなのニャ」
「システム、ですか」
「そうニャ。そして、それこそが魔物と人間が共存することで魔物が生き残る道なのニャ」
「どういうことなの?」
「まず、基本的に魔物の方が人間よりも強いものなのニャ。魔物は強い方が偉いから人間を見下すものだニャ」
「そんなもんか」
「おめーらみたいに強い奴らは逆に気にしないかもしれないけどニャ。弱い魔物ほど自分よりも弱い者、つまり人間を下に見るものなのニャ」
こいつらのように人間として暮らすことになじめる魔物の方が珍しいのだ。
「そうかもしれませんね」
「もし、魔王が勇者を倒したらどうなるかを考えてみたのニャ。勇者の存在は魔物が人間を襲うことへの抑止力になっているのニャ。それがなくなれば、きっと魔物は増長し人間を滅ぼすまで止まらないニャ」
「ちょっと極端な気もするけど、警戒する気持ちはわかるわ」
「人間を滅ぼした後、今度は弱い魔物が犠牲になるだろうニャ。そしてやがては魔物同士で滅ぼしあうことになるのニャ。それは魔王であっても止められないことなのニャ」
「しかし、魔王様に魔物の暴走を止められないなどと考えられません」
「魔物たち全部がおめー達みたいにみんな理性があって狂暴性がないわけじゃないのニャ。魔物がまとまるのは人間と言う明確な敵がいてこそなのニャ。敵を倒すために団結して一番強い者である魔王に従うのニャ」
魔王などと言っても絶対のものではない。抑圧するだけはどこかにゆがみが出てくるものだ。
「だから魔王様が勇者を倒すことはできないってのか」
「逆に魔物の頂点である魔王が人間である勇者に敗れれば、魔王は一番強いものではなくなるのニャ。人間である勇者が一番強い魔王を倒すことで魔物は人間を恐れるようになるニャ。一方で人間は魔物より弱いから無駄に喧嘩を売ってくることはないのニャ。お互いに恐れあえば争うことはなくなるニャ。それが魔物と人間の共存なのニャ」
「人間界にいる人間は魔界の魔物の存在なんて神話レベルの話だけどな」
知らなければ争いなど生まれない。ここで言う魔物を恐れる人間とは魔界にいる人間の話である。
「奇妙なことに今の状況こそ魔王様が望んだものであるような気がします」
「今、魔界では魔王様が勇者に敗れたってことになっているものね」
「そりゃそうだニャ。魔王が死んだって噂を流したのは吾輩なのニャ」
「夜な夜な出かけていると思ったらそんなことをしていたのか。てっきりご近所の猫集会にでも出ているのかと思ったぜ」
「魔王様が正体を明かさなかったのは、魔王が死んだことにしておきたかったということですね。すべては魔王様の計画通りということをようやく理解しました」
「それが、すべてが計画通りという訳ではなかったのニャ」
「朝太の存在でしょうか。記憶をなくした肉体が人格を持ち始めたことは予想外のことでしょう」
「それって、今後、カステラの記憶と朝太の肉体が合わさって元の魔王様に戻る可能性があるってことなのかしら」
「朝太にも記憶ができ始めているんだ。そんなことしたら、いったいどうなるんだ?」「あー、それはできない相談なのニャ」
「どうして?」
その理由こそが当初の計画とずれてしまった、重要な一点なのだ。




