-10話- 四天王の実力はどうやら不条理レベル その4
マカマフィンの前には魔法で作り出した数枚の水でできた鏡が浮かんでいた。
水鏡の術。遠く離れた場所の様子を映し出すことのできる偵察用の技である。
「あいつらの方は終わったみたいだな」
マカマフィンが見ている水の鏡にはハハルアピやタリュートゥの戦う様子が映っていた。
「お前が戦おうとしていたやつらは降参したわけだし、残ったお前の勝ちってことで終わりにしてもいいんじゃないか?」
マカマフィンがそう提案した相手はアルラウネのラスクーネである。
ラスクーネはハハルアピ軍の副官である。ハハルアピ軍は主に山や森に生息する魔物が所属する軍団で飛行能力を持つ魔物が多い。天を駆ける馬のペガサス、鷲の頭と翼に獅子の体を持つグリフォン、火の鳥フェニックス、毒を持つ怪鳥コカトリスなどが所属している。
ただ、その魔物たちの大半は現在マカマフィンによってほとんど壊滅状態にさせられていた。ある者は毒を食らい痛みと困憊で動けず、またある者は麻痺で動くことができず、あるいは眠りに落ちて動く意思すら奪われていた。
「あんたたち、しっかりして欲しんだけど」
ラスクーネが部隊に檄を飛ばす。
「生きているって素晴らしいな。なにしろ俺の技が通用するからな」
マカマフィンに触れば毒をくらわせられ、目を見れば麻痺にさせられ、歌声を聞けば眠らさせられる。触っても見ても聞いてもいけないとなれば、まともに戦うのは不可能に近い。
「眠らせるなんて術を使うなんて初耳なんだけど」
「人魚の歌には眠らせる効果があるのは有名な話だと思っていたんだけどな」
マカマフィンはマーマンという種族の魔物である。
海にいる歌を武器にする魔物といえばセイレーンが有名なのだが、実は下半身が魚ではなく鳥だという説もある。
「戦っている時に歌うなんて変なんだけど」
「知っているか? 人間や魔物の中には歌や踊りによって魔力を高め、魔法の威力を上げ
る者もいるそうだぞ」
魔界に来る前に聞いたばかりの知識を披露するマカマフィン。
知ったばかりの知識は誰かに言ってみたくなるものなのだ。
「命あるものが戦おうとしてはならない。あんたはそう言われているらしいけどね。でも、あたいの植物パワーであんたの状態異常攻撃なんて無効化できんるんだけどね」
「ずいぶんざっくりしたパワーだな。だが、道理でお前に俺の技が効かないわけだ」
「あたいの万能薬ですぐに部下たちも回復させるんだけどね」
ラスクーネの手には薬瓶が握られていた。
「状態異常に耐性のあるやつがその治療に回るのは理にかなってはいるな。だが、それを聞いちゃやらせるわけにはいかない。もっとも、何でも回復できる薬なんてものがあるのか疑わしいもんだ」
「毒だろうが麻痺だろうが眠りだろうがばっちりなんだけど」
「一応、毒は呼吸器・循環器や感覚神経に、麻痺は筋肉や運動神経に、眠りはホルモンや自律神経に作用するんだけど、全部に効くのか?」
「効くけど」
「万能薬すごいな、おい」
「だが、毒だけが俺の武器じゃないんだぜ」
そう言うとマカマフィンは魔法で出した水を操り、ラスクーネに水の塊を投げつけた。
「こんなものなんでもないんだけど」
ラスクーネは自分の根で水の塊を真っ二つにする。
「相手は水だぜ。切ったところで意味はない」
二つに分かれた水の玉を操る。
「無駄なんですケド」
水の塊は二つが四つ、四つが八つに分かれていった。
「さて、そろそろいいか」
八つに分かれた水の塊はそれぞれ平面状に形を変える。水の塊は八枚の姿見鏡のようになってラスクーネを八方から取り囲んでいた。
「なんなのよ、これ。うけるんだけど」
「水鏡の術っていうんだ。鏡をモチーフにした術を作る機会があって、術の名前は魔王様がつけたんだけど、日本の文学が元ネタだったんだな。魔王様は昔から日本に興味があったらしいぜ」
「さっき別の場所の様子を見ていた術でしょ。それが何だって話だけど」
「この術は遠くを見るだけじゃないんだぜ」
そう言うとマカマフィンは遠くを見るために自分の前に展開していた鏡の一つに腕を突っ込む。すると、ラスクーネの周りの鏡の一つから腕が現れた。
「ちょっと、怖いんだけど」
ラスクーネは掴みかかってくる腕をかわす。
「怖いじゃすまないぜ。命あるものが戦おうとしてはならない。俺がそう言われているのは毒が使えるからってだけじゃない。水を操る方もなんだ」
「水を操るだけでそんなこと言われるわけないんだけど」
「生き物ってのはほぼ水分でできているんだよ。直接腕で掴めばそれを抜き取るくらいできるさ。お前にも体液くらいあるだろう」
「まじで怖いんだけど……」
「水を操るってこういうことだぜ。対抗できるのは魔王様以外だと生き物じゃないシュウクレムくらいのもんだけどな」
「むかつくくらい出鱈目な強さなんだけど」
「とにかくここからが本番だ」
マカマフィンは鏡の一つに飛び込み姿を消す。
「どこへ行ったの?」
「こっちだ」
そう言ってマカマフィンは別の鏡から姿を現す。
ラスクーネが声の方に振り向くとマカマフィンは別の鏡に飛び込んで姿を隠す。
マカマフィンは鏡から姿を現しては隠れ、鏡へ隠れては現れるということを繰り返していった。
「こっちが疲労するのを待っているわけ? 何よ、こんなものこうすればいいんだけど」
ラスクーネは自分の根っこで水の鏡を吸収する。次々と鏡を吸い取り七枚の鏡を消滅させた。
「ここから出て来るしかないんだけど」
ラスクーネはあえて残しておいた一枚の鏡の前でマカマフィンが出てくるのを待ち構える。
「いや、そんなことはないぜ」
マカマフィンはラスクーネの背後に立っていた。
「な! どうして?」
「転移魔法でお前に合流した。水鏡に入れば水鏡から出て来ると思うよな。おっと、動くなよ。ドライフラワーになりたくなかったらな」
すでにマカマフィンはラスクーネの首根っこを掴んでいた。
「恐ろしいこと言わないで欲しいんだけど」
「これでも俺は優しいお兄ちゃんキャラを目指しているんだぜ。俺は今の生活を気に入っているんだから、あまり邪魔をしないでくれよな」
「うう、助けて欲しいんだけど、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんって呼べば優しくするとか、そう言うことじゃねーんだよ。大体お前の方が年上だろうよ」
「年齢で判断するのは差別だと思うけど」
「やかましい。早く降参しないと本気でしぼりとるぞ」
「……降参しますけど」
「ひとつ忠告をしてやるよ。武器や防具は持っているだけじゃだめだ。装備して初めて意味があるぞ」
ラスクーネは所持していた魔剣・女郎花を使用する機会はなかった。切りつけた相手に魅了する効果のある攻撃ができる武器である。
「こんなものが四天王相手に通用するとは思ってないけど、護身用に持っていただけ」
「アイテムを持ったことで調子に乗ったわけじゃなかったんだな。お前も下から突き上げられて仕方なく軍を動かした口か?」
マカマフィンのその言葉を聞きラスクーネは口角を少し上げる。
「もういいや、教えてあげる。あたいらが軍を動かしてまで騒ぎを起こしたのは四天王を出張らせるためだけど、それはうまくいったもの」
「お前の独断ってわけじゃなさそうだな」
「もともと、あたいもパンドナもサーベルティも、それにガトーラもグルだったんだけどさ。今頃ガトーラが魔王様を連れて逃げいてるところよ。もう、ハハルアピ様にも見つけることはできないはずだけど」
「なんでそんなことをしたんだ?」
「裏切り者の四天王から魔王様を助け出すことが目的だったけど、それは果たせたみたいね」




