-10話- 四天王の実力はどうやら不条理レベル その2
「お待ちしていたのでございます」
魔王城へと転移してきた四天王たちをタリュートゥ軍副官のガトーラが出迎える。
「状況は?」
タリュートゥが、人間の姿のままなので辰人の姿なのだが、ガトーラに尋ねる。
「私以外の三名の副官がそれぞれの軍を率い、ほかの軍を倒すと息巻いております。今にも激突しそうなのでございます」
「小競り合いがあったことは聞いていましたが、思った以上に深刻だったようですね」
「あたしも軍のことはラスクーネに任せきりだったのよね。そのせいで求心力が落ちちゃったのかしら」
羽春が頭を抱えてため息をつく。
「それは俺も同じだ。やっぱりあれかな、サーベルティが誘ってくれたのに俺が軍事演習をさぼってピクニックに行ったのがまずかったのかな」
友達を怒らせたような感覚であるが、真洋は部下に対して後ろめたさを感じているようである。
「いえ、私がいけなかったのでございます。私が偶然にも三種の邪神器を見つけてしまったのでございます」
「三種の邪神器?」
「魔王様の玉座の下から行ける隠し部屋の中にあった宝箱に入っていたものでございます」
「ああ、以前私たちも見つけた魔王様の隠し持っていたマジック・アイテムのことですか」
「三名がそれぞれの邪神器を持ち、それぞれがパワーアップをしているのでございます」
「やーね。それで強気になっているのかしら。でも、反乱は抑えないといけないわ。あたしだったらそれぞれの軍がどこにいるか探せるからこちらから打って出られるわよ」
「そうしましょうか。さて、我々が対応しますからガトーラはこちらを預かっていてください」
辰人はずっとタオルケットに包まれたものを両腕に抱えていた。
「こちらは?」
「魔王様ですよ。詳しい説明はしませんが今はこんな姿になっています。今は眠っているので起こさないようにお願いしますね」
そう言って辰人は抱えていた『魔王』をガトーラに託した。
「なんと、かわいらしいお姿になったものでございますね」
「……まあ、起きる前に終わらせるからさ」
「場所が特定できたわ。シュウクレム軍は西の荒野、マカマフィン軍は南の湖、あたしのハハルアピ軍は東の草原にそれぞれ軍を構えているわね」
「自分の軍を押さえつけるのは簡単ですが、それじゃ面白くないですね。我々四天王の力を指揮下とは異なる軍に知らしめるちょうどいい機会です」
「魔物ってのは強い者には逆らわないもんだからな。今後のためにもここで力を見せておけばしばらくは大人しくなるだろう」
「お待ちください。皆様、それぞれ単独で軍と戦うおつもりでございますか?」
ガトーラが四天王のやろうとしていることに驚き戸惑っている。
「特に問題はないですよ」
「ああ」
「そーね。それじゃ、行きましょうか」
ハハルアピは正体であるハーピーの姿に戻り空を舞っていた。
彼女はパンドナ率いるシュウクレム軍に高速で近づいていった。
シュウクレム軍は主にアンデッドや動く人形のような非生物の魔物が所属する軍である。荒野には副官のパンドナが率いる一団が展開していた
魔力で動く鎧の兵隊リビングアーマー、コシュタ・バワーという首無し馬に乗る首のない騎士であるデュラハン、スケルトンと呼ばれる骸骨の兵隊、そのほかにゴーストやミイラといったモンスターで構成された大軍勢である。
「あら、やーね。そんなにたくさん引き連れちゃって」
ハハルアピはシュウクレム軍の構える魔王城西の荒野にたどり着いた。
「邪魔をしないで欲しいのデス、ハハルアピ様」
機械仕掛けの魔物であるマナ・イーターのパンドナがハハルアピの前に進み出る。
「やーね。魔王軍同士のぶつかり合いを止めないわけにはいかないじゃないの」
「我々には譲れないものがあるのデス」
「あんた、ちょっと前にもマカマフィンに怒られたでしょ。それほどお咎めもなかったけど、あんまり余計なことばかりしているともっときついお仕置きをしないわけにはいかなくなるわよ」
「それは覚悟の上です。それにこのパンドナ、あのときは魔王様の敵となる勇者を探していたのデス。すべては魔王様のためデス」
「それが余計なことなのよね。やっぱりお仕置きしちゃおうかしら」
「しかしながら、あなただけでこの軍と戦うつもりデスか?」
「厄介よね。やられても起き上がる不死の軍団だもん」
そう言いながらもハハルアピには余裕が見て取れた。
なぜならこの軍団はハハルアピにとことん相性が悪かったのである。
「まずは、どうやってあたしへ攻撃するのかが問題よね」
この集団は空中を自在に舞うハハルアピに対して有効な攻撃手段がないのである。
魔法で石を飛ばすもハハルアピの作り出す風の壁で防がれて届くことはない。
浮遊するゴーストが近づこうにも速さで優るハハルアピには逃げられてしまう。
「それから、魔力で操る集団であたしと戦うには悪手なのよね」
ハハルアピがそう呟くと、魔力で動くリビングアーマーたちが同士討ちを始めだした。
魔力の感知及び操作に長けたハハルアピにとって、乗っ取るのはたやすいことなのだ。
彼女の前に魔力で操る兵隊を並べることなど、手駒を増やすも同然の行為なのである。
もっとも、やられているのはアンデッドの魔物なので軍への被害はないと言っていい。
「あたし魔王軍にはそれなりの期間いるから、いろんな相手と戦ったことがあるのよ。自分の魂と肉体を分離してゴーストとゾンビの二体で攻撃する戦法を取る相手がいたわ。ゴーストの方がゾンビを操っていたから、あたしがゾンビを奪い取って同士討ちにさせたこともあるのよね」
「このパンドナが直接出るしかないようデスね」
「やーね。あんただって攻撃方法がないじゃないの」
「以前とは違います。これを手に入れたのデスから」
パンドナはそう言って宝石のようなものを取り出す。魔法石である。
「あら、魔王様のコレクションじゃないの」
「これは朧勾玉。魔力を増幅させ様々な攻撃に応用できるのデス」
その魔法石からレーザーのようなものが射出された。
「危ないわね。それって朧げにイメージした魔法でも使えるようになるアイテムじゃないの」
パンドナの射出した攻撃を難なく避けるハハルアピ。
「一発で終わりじゃないデスよ」
そう言ってパンドナは続けてレーザーのような魔法を繰り出すが、一撃ずつ繰り出される攻撃をハハルアピは華麗にかわし続ける。
「攻撃手段があっても当たらなければ意味がないわねー」
「それならば、当たるよう撃つまでデス。出力を落として数を増やせばいい」
数うちゃ当たるとばかりに乱射してきた。
「あら、それはちょっと厄介ね。それじゃ手を打たせてもらうわね」
ハハルアピの周りに羽がちらちらと舞い踊る。
「羽でどうしようというのデスか」
「あたしの羽は目標を補足しにくくなる上に攻撃の威力も削るすぐれものよ。さらに、こうすると――」
ハハルアピが羽に魔法をかけると宙を舞う羽の数が一気に増える。
「何をしたのデスか」
「増鏡の術。鏡に映されたように羽の影を作り出すのよ」
この術は対象物の幻影を作り出すかく乱用の魔法である。この術により数十本の羽が数千本レベルにまで膨れ上がっていた。
「……鬱陶しいのはその肉体だけではなさそうデスね」
「その点、あんたの体はずいぶんすっきりしているわよね」
「これが先進的なデザインなのデス」
「そりゃテレビだって信号機だって昔に比べれば薄型になっているけどね」
人間界で暮らしているハハルアピはその辺の事情にも詳しい。
「つまり薄い体こそ先進的なボディなのデス」
「やーね。誰も後について来ないのを先に進んでいるとは言わないのよ。それはあんたが道に迷っているだけなのよ」
「うるさいのデス。薄いボディにするためにはさまざまな技術が使われているのデス」
パンドナはレーザー状の魔法を乱射するものの、羽に阻まれハハルアピには届かない。
「いくら技術力が高くても、求められていない機能はユーザーを無視したサプライヤー側の自己満足なのよねー。ユーザーはもっと大きなものを求めているものなのよ」
「新しい技術があれば使ってみたくなるものなのデス」
「やーね。あんたの常識に付き合ってあげる必要はないのよ」
「それにしても鬱陶しい羽根デスね」
「この羽をどうにかするんだったら広範囲高出力の攻撃で一気に片づけるしかないわよ。もっとも、そんなことができるのは魔王様を除けば四天王でも家の人……タリュートゥくらいのものだけどね」
「対策法を教えるなんて、ずいぶん余裕デスね。でも、今ならこのパンドナにもできるかもしれませんよ?」
パンドナは出力を上げるために魔力を朧勾玉に集中させる。機械であるパンドナの全身がフル稼働したため、熱が上がっていく。
「あら、そんなにカッカしちゃ駄目よ。そんなに熱くなると……」
パンドナは突然動きを止めた。
「な、何が起こったのデスか」
「よく自分の体を確認してみなさい」
パンドナの冷却ファンに羽が絡まっていた。
「こ、こいつのせいで、ファンに羽が詰まって止まったために熱がこもって、熱暴走により機能を停止させたと言うのデスか。空冷式ではなく水冷式だったならばこんなことにはならなかったのに……」
「羽は目くらましに使うこと自体が目くらましだったの。本命はそっちなのよ」
「し、しかし、羽の動きには注意を払っていました。ファンに絡まるはずはないのデス」
「あんたが注意していたのは戦闘が始まってからでしょ。羽だけを先に飛ばしていて戦いが始まる前に仕込んでおいたのよ」
羽の目くらましは熱を上げさせるための布石だったわけである。
「エンカウント前に攻撃していたなんて、非常識過ぎじゃないデスか」
「やーね。あんたの常識に付き合ってあげる必要はないのよ」
「……私の負けデス。最期に教えてくれないデスか。ユーザーは、ユーザーは本当に大きなものを求めているのデスか?」
「本当に求めているかどうかは知らないわよ。直接ユーザーに聞くわけにはいかないもの。だけど、赤ちゃんにとっては大きな方がクッションになっていいんじゃないかしら」
「あ、ユーザーってそっちデスか……」
そう言うとパンドナの意識はシャットダウンされた。




