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-9話- 魔王軍が今後どうするかを占うのはどうやら兄弟関係 その3

「ハンカチにレジャーシートとウェットティッシュ、ごみ袋もあったほうがいいかな」

「お兄ちゃん、お菓子も持って行くの?」

「ああ、お弁当と水筒の入るスペースは残しておくんだぞ」

 朝太と真洋がリュックサックに荷物をまとめている。

「おや、お出かけの準備ですか」

 辰人が真洋たちに声をかける。

「今朝も言ったけど、夕貴と理緒にピクニックに誘われていて、その準備だよ」

「お出かけするのー」

 このピクニックは、全然なびかない真洋を理緒が夕貴と朝太を出汁にして誘ったものである。

「楽しそうですね。四人でお出かけというと桃太郎一行のようですね」

 桃太郎が犬と猿と雉を連れて鬼退治する話である。

「誰が桃太郎役なんだよ、それ。まあ、俺も西遊記を連想したんだけど」

 西遊記は三蔵法師が孫悟空と猪八戒と沙悟浄を連れて天竺を目指す話である。

 そこへ羽春が顔を見せる。

「朝太。明日のお弁当は何がいいのかしら」

「おにぎりがいい」

「ちなみに四人の旅なら、あたしはオズの魔法使いを思い浮かべたわよ」

 ドロシーという少女がカカシとブリキとライオンを連れて願いをかなえるために旅をする話である。

 羽春はそう言い残して、おにぎりの中身の相談をするために朝太を連れて部屋を離れた。


「ちなみに吾輩もあるものを連想したのニャ」

「朝太がいなくなったことを見計らってしゃべりだしたな。だが、もう四人で旅する話なんてないだろ」

「ブレーメンの音楽隊なのニャ」

 ロバと犬と猫と雄鶏が音楽隊になるべくブレーメンを目指す話である。

「ああ、そんなのもあったな。それにしたって、ブレーメンの音楽隊ってのはな。普通さ、昔話って目的を達成するものだろ。桃太郎なら鬼退治、西遊記なら天竺に行く、オズの魔法使いなら家に帰りたいだっけ? とにかく、当初の目的を達成しているだろ」

「そうニャ」

「だけど、ブレーメンの音楽隊は、途中で旅をやめて終わるじゃないか」

 ブレーメンの音楽隊は旅の途中で賊のアジトを乗っ取って終わるのである。

「まあ、年老いた動物たちの話だしニャ。人間から労働することを強いられて働けなくなったことで虐げられて、それでも生きて行くためには仕事が必要だと思って音楽家になることにしてたけど、彼らに本当に必要だったのは安住の地だったのニャ。そう考えれば感慨深い話だと思えるのニャ」

「おう、そう聞くと子供向けの話じゃない気がしてきたな」

「自分の使命と、やりたいことと、必要なことは違うもんニャ」

「遠い目をして言うなよ」

「おめーも今後どうするか、何が大切なのかよく考えることなのニャ」

「ああ。肝に銘じておくよ」

「それにしてもだニャ。四人でお出かけなんてダブルデートのようだニャー。若いもんはいいですニャー」

「妙に年寄りくさいと言うよな」


 ピクニック当日。

「危ない場所には近づいちゃ駄目よ」

 君守家の玄関先で羽春が朝太と真洋をお見送りをしている。

「うん」

 朝太が元気に返事をする。

「分かってるよ。俺もついているから」

「熊が出たらお兄ちゃんに任せるのよ。死んだふりなんかしても駄目らしいわ」

「世間一般のお兄ちゃんは熊を撃退するなんてことはしないぞ。それに、熊が出るような場所に行くわけじゃないしな」

 真洋の実力ならば熊の方が死んだふりをしてやり過ごすかもしれないのだが。

「とにかく気をつけてね。童謡みたいに熊さんがお逃げなさいとは言って来ないわよ」

「僕が男の子だから?」

 童謡の中で熊が逃げるように言うのはお嬢さんであることからの発言であろう。

「この子、天才かもしれない」

 その機転に感心する真洋。親馬鹿ならぬ兄馬鹿とでもいうところか。

「それと、暑いからちゃんと帽子もかぶってね」

「大丈夫だよ」

 朝太と真洋は二人とも帽子をかぶり準備万端であった。

「帽子がなかったら海賊王を目指す少年も日射病になっちゃうわよ」

 海賊もの漫画をネタにした発言である。

「ならねーよ。妙なキャラクター設定を作り出すんじゃねえ」

 そう言うと真洋と朝太は家を出た。


「ねえ、お兄ちゃん」

 家を出て歩き始めたところで朝太が真洋に話しかけてきた。

「なんだ?」

「海賊王って日射病になるの?」

「……気にするな。親ってのは子供の気を引こうと、ときに変なことを言うもんなんだ」

「ふーん」

 朝太は納得したのかは分からないがそれ以上追及しようとはしなかった。


 真洋と朝太が待ち合わせ場所である駅に到着すると、理緒と夕貴は先に来ていた。

「遅いぞ、朝太。朝太の兄!」

 夕貴がいちゃもんをつけてくる。

「いや、時間通りだろ」

「私たちがちょっと早く着いちゃったんだよ」

 理緒が夕貴をたしなめる。

「遅刻だったら罰を与えるところだったぞ」

 夕貴は物騒なことを言う。

「罰って何をするつもりなんだよ。朝太だったらどんな攻撃をする?」

「うーん、ほっぺたすりすり攻撃?」

「何そのかわいい攻撃」

「カステラがよくやってくるんだよ。ママがほっぺたすりすり攻撃だって言ってた」

 もちろん、このカステラはお菓子ではなく猫の振りをしたゴーレムである。

「あいつ、そんなことやってるのかよ」

「すりすりって……」

 夕貴が口をはさんでくる。

「ま、まさか。おろし金でか?」

 恐ろしいことを言う少女である。

「そんなわけあるかよ。お前、勇者のくせに魔王より恐ろしい発想をするんじゃねーよ」

「魔王?」

 真洋が朝太のことを魔王と呼んだことに対して、夕貴は敏感に反応した。

「いや、なんでもない」

 真洋の発言に対して夕貴は追及しようとしたが、電車の時間があるために話はそこで終わった。


 電車に乗り、目的地の駅する。そこから子供にも無理なく歩けるように整備された山道を登る。これが今日のピクニックコースである。

 しばらく散策をして、見晴らし台のような場所にある広場でレジャーシートを広げた。

 お弁当の時間である。

「今日はね、サンドイッチを持ってきたんだよ。料理はあんまり得意じゃないんだけどね」

 そう言って理緒が背負っていたリュックサックからからサンドイッチを取り出す。得意じゃないと言っているが、出てきたのはちゃんとしたサンドイッチであった。

 これは理緒が謙遜しているだけなのであろうから、ここで真洋は、「そんなことないよ上手だよ」とでも言っておけばいい場面であろう。

「ふーん。それじゃ誰がつくったんだ?」

 だが、真洋にそんなことは理解できないようである。

「誰がサンドイッチをつくったかだね。うーん、サンドウィッチ伯爵かな」

 そして、なぜか発案者の名前を出す理緒。

「お、今のはポイントが高いぞ」

 さらに、その回答を気にいる真洋。

 こんな二人に男女のやり取りについて外からあれこれ心配するのは無粋と言うものであるし、サンドイッチの起源は諸説あってサンドウィッチ伯爵ではないなどと言い出すのもおそらく無粋なのだ。


 昼食も終わろうかというその時、突然の強風が吹きつけてきた。

「おおっと。大丈夫か」

 真洋は風で煽られないように朝太と夕貴の肩を支える。

「お兄ちゃん、帽子が……」

 その風で朝太の帽子が見晴らし台の柵の外へと飛ばされてしまった。

 帽子は崖状になっている見晴らし台の途中に引っかかりその場に留まっていた。

「手を伸ばせば届きそうだぞ」

 眼下を覗きこむ夕貴がそんなことを言い出す。確かに見晴らし台から身を乗り出し手を伸ばせば何とか届きそうな位置に帽子はあった。

「いや、取らない。取るのは簡単だけど、取らない」

「いじわるするんじゃない! 朝太の兄!」

「朝太が俺の真似をするといけないからやらない。いじわるかもしれないけど、危険なことをしちゃいけないって教えるためにも取るわけにはいかない」

「そっか。ちゃんと考えているんだね」

 理緒は真洋の言葉にしきりに感心する。

「さ、帽子はあきらめてそろそろ行こうか」

 そう言って真洋はお弁当の片づけを始める。

「あれ? 夕貴ちゃんは?」

 朝太の言葉で辺りを見回すと、夕貴が帽子を取ろうと手を伸ばしていた。

「もう少しで届く……あっ」

 夕貴は柵を超えて手を伸ばすも、案の定足を滑らせた。


 落下しかけたそのとき、夕貴の腕を誰かがつかみ引っ張り上げた。

「お前はさ、俺の話を聞いておけよ」

 真洋である。

「だ、大丈夫? 夕貴! 痛いところない?」

 理緒は涙目で引き上げられた夕貴に駆け寄る。

「ちゃんと俺も見ていなきゃいけなかったな。大事になる前でよかった」

「夕貴ちゃんは平気なの?」

 朝太も不安そうな声で見つめる。

「腕をつかんだところが痛いかもしれないけど、問題ないだろう」

 真洋は魔法によって夕貴の体に異常がないことは確認していた。

「よかった」

 朝太は胸をなでおろす。

「まったく、姉妹そろって助けることになるとはな」

 真洋は夕貴の姉の理緒が水に落ちたところを救い上げたことがあるのだ。

「うう、ありがとう。真洋君」

「大したことじゃない。危険なことはしないって言ったけど、さすがに放っておくわけにはいかなかったからな。そういえば、夕貴はさっきからしゃべってないけど、どうした?」

 真洋はずっと黙っている夕貴に声をかける。

「帽子、取れなかった……」

「そんなことを気にしていたのかよ」

「勇者に失敗は許されないのだ」

「ここは怒っていいところだよな。もう少しきつめに説教したほうが本人のためだ。いいか、お前に必要なのは自分にできることとできないことを理解することだ」

「だけど……」

「できないことを理解することでできるように成長することができる」

 真洋は夕貴の目を見て諭すような口調で語りかける。

「だって……」

「自分の使命と、やりたいことと、必要なことは違うもんだ」

 真洋はどこかで聞いたようなことを言って説教を続ける。その言葉に夕貴は再び黙り込んでしまった。

「真洋君、それくらいにしてあげて」

 理緒が真洋を止めに入る。

「ああ、ちょっと言い過ぎたかな」

「そうだよ。それに、夕貴が真洋君に惚れたらどうしよう」

「考えるだけで胃の痛くなるようなシチュエーションを思い浮かべるんじゃねーよ」

 真洋が声を荒げて理緒のセリフに抗議する。

「う、うわああぁん!」

 その声に反応するように夕貴が声を上げて泣き出した。

「大きな声を出してすまなかったな。崖から落ちかけたんだ。怖かったよな」

 真洋はよしよしと夕貴の頭をなでる。

「そうやって好感度を上げるところが心配なんだよ」

 理緒は少々嫉妬したような目で真洋を見る。

「大丈夫だ。俺は今のこの関係性が気に入っているんだ。そうとも、今のままがいいんだ」

「私はもっと今の関係から深めてもいってもいいと思うんだ」

「それは追々考えていこうな」


「僕は帽子より、夕貴ちゃんの方が大切だよ」

 朝太の言葉に夕貴は鳴き声を止める。

「やれやれ。俺の説得より朝太の一声の方が効果ありそうだな。さあ、そろそろ行こうか」

「うん」

「でも、朝太の帽子がないな。帽子をかぶるように言われたから、お兄ちゃんの帽子をかぶっていろ」

 そう言って真洋は自分の帽子を朝太にかぶせる。

「お兄ちゃんはどうするの?」

「平気さ。お兄ちゃんは帽子なんてなくてもな」

「でも……」

「そうだ。あれが使えるかもしないよ」

 理緒はそう言うと、サンドイッチを包んでいたハンカチをバンダナ代わりに真洋の頭へ巻いた。

「うん、ばっちりだよ」

「海賊の下っ端みたいだぞ」

 などと夕貴は茶化すようなことを言う。

「それはどうも。お前ももう元気になったようだな。うん、これ、ちょっと匂うな」

「うう、サンドイッチを包んでいたからね」


「ただいまー」

 帰宅する朝太と真洋。

「おかえりなさい」

 そう言って羽春が出迎える。

「あら、帽子はどうしたの? それに何よそのバンダナは。海賊のコスプレ? もしかして海賊王を目指すのかしら」

「違うわい。朝太の帽子が風で飛ばされてな。代わりに俺のをかぶせたんだよ」

「ママ、ごめんなさい」

「俺が拾うのを止めたんだよ」

 謝る朝太に真洋が割って入る。

「そう、ママの言いつけを守って危ないことはしなかったのね。偉かったわね朝太」

 羽春は朝太の頭を優しくなでる。

「真洋もありがとうね」

「だけどさ、朝太は止めたんだけど、その帽子を拾おうとして夕貴が崖から落ちかけてな。もちろんそっちはちゃんと拾い上げたけど、保護者としての義務が果たせたかは疑問だぜ」

「そう、大変だったわね」

「まあな。俺だったらあの程度の崖だったら落ちても平気だけどさ」

「そりゃそうよね。あんた頑丈だもの」

「ねえ……」

 朝太が会話に割って入るようにつぶやく。

「どうした?」

「僕もお兄ちゃんみたいに強くなりたい」

「なんだ、突然に」

 朝太の言葉に困惑気味の真洋。

「夕貴ちゃんを助けられるくらい強くなりたい。夕貴ちゃんだけじゃなく、お兄ちゃんもお母さんもお父さんもカステラも助けられるくらい強くなりたい」

 朝太の言葉に真洋と羽春は顔を見合わせる。

「そっか。朝太は強くなりたいのか。そうだよな、男の子はみんな強くなりたいって思うもんだ」

「やーね。今時そんな性差で分けるようなこと言ったらだめよ」

 羽春は軽くたしなめる。

「強くなれるかな」

 朝太は真洋の顔を見上げてそう尋ねる。

「朝太はえらいな。自分のなりたい将来を見据えたんだから。ああ、きっと強くなれるさ」

「本当?」

「ああ、それに朝太はお兄ちゃんの弟なんだから」

 そう言った真洋の顔はとても晴れやかなものであった。

 


   9話 終

インターバルをはさんで10話に続きます。

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