-9話- 魔王軍が今後どうするかを占うのはどうやら兄弟関係 その2
真洋が魔王城で魔王軍四天王の副官たち相手に説明会を行った翌朝のこと、魔王軍四天王たちは定例の幹部会議を開いていた。会議は朝太の寝ている朝の時間帯に行われているのだ。見た目には一家団欒の様相である。
「副官同士って仲悪いのか?」
真洋は一通りの報告を終えた後で副官たちの関係性についての疑問を口にした。
「そんなことはないでしょう。彼らは魔王様が作ったり育てたりしたものたちばかりです。全員が魔王様の子供というか、弟子というか、そのようなものですからね。みんな兄弟のようなものですよ」
真洋の問いかけに辰人が答える。
「でも、兄弟がみんな仲がいいとは限らないのよね」
羽春がそんな皮肉を言う。
「その点うちは仲いいけどな」
「おやおや、随分と自信があるようですニャ」
「しかしさー、魔王軍って魔界から精鋭を集めてきた大企業のようなイメージだけど、上層部に魔王様の身内が固まっているとなると、一気に中小企業っぽくなるよな」
真洋はなんとも中学生らしくない例え方をする。
「やーね。あたしたちは魔王様の身内とは違うじゃないの。そりゃ、今は家族として暮らしているけど」
「あれニャ。会社なら生え抜きの社員と社長の身内なのニャ。社長が退任したときに揉めるのが定番な関係なのニャ」
「生え抜きですか。確かに我々はみんなそれぞれ異なる出自ですからね。みんないろいろ事情があって魔王様にお仕えして四天王になったわけです」
「四天王で一番の新入りである俺は、どんな事情でそうなったのか知らないんだよな。お前らはどんなきっかけで魔王軍に入ったんだよ」
「いい機会かもしれません。初心に帰る意味でも情報を共有しておきましょうか」
そんなわけで、四天王たちは魔王軍に入ったきっかけを打ち明けあうことにした。
「魔王軍四天王で一番の古株はシュウクレムですね。私が魔王軍に入ったときには魔王様にお仕えしていましたから」
辰人が司会を務めるような形で進行していく。
「吾輩は手が足りなくて作ったゴーレムだからニャ。自分の都合で魔王軍に入ったわけじゃないのニャ。そもそも当時は魔王軍すらなかったのニャ」
「魔王様が作ったって意味じゃお前は副官どもと同じなわけだな」
「そうなのニャ。長男みたいなものだニャ。まあ、吾輩ゴーレムだから性別はないんですけどニャ」
「私の場合は単純ですよ。二百年ほど前、魔王様が魔界統一の途中で部下にしてもらいました。どうせ下に付くのなら強い者に従うのは当然ですよ」
続いて辰人ことタリュートゥが自分の過去を話し始める。
「ドラゴンってプライドが高いもんだろ。そのドラゴンが誰かの部下になろうっていう発想があったことが驚きだな」
「さらに昔の話をしますとね、私は故郷であるドラゴンの里のやり方に納得がいかず故郷から出て行ったのですよ。まあ、私にも若い時があったと言うことです」
辰人は遠い目をする。
「何が不満だったの?」
羽春はタリュートゥの過去に興味がありそうに尋ねる。
「魔物は強いものが偉いと言う不文律がありますよね。しかし、ドラゴンの里では強いものではなく体の大きなものが里長になるというルールがありました」
「それが不満で里を出たのか」
「体の大きな仲間よりも高魔力の私の方が明らかに強いわけですからね。従う気にはなれませんでした」
「強い者には従うから、自分よりも強い魔王様には従ったのね」
「当時はまだ魔王の座を狙う者たちによる戦いが激しい時代でした。魔王様も強い部下を欲していましたからね」
「そうだったニャー」
「里のルールのおかげで魔王様の元にいるわけですから、恨みはありません。むしろ、感謝するべきでしょうね。それに、今なら里にあんなルールがある意味が分かりますよ」
「どんな意味があったんだよ」
「ドラゴン同士で争いを避けるためのルールだったのでしょう。プライドの高いドラゴン同士が戦って雌雄を決していたら死ぬまで戦いをやめないかもしれません。それでは種族ごと滅びかねませんからね」
「だから戦いを避けるために、見ただけでわかる体の大きさって基準を設けたわけか」
「もっとも、魔王様の圧倒的な力の前ではドラゴンのプライドも無意味です。それでも里を捨てた私の配下にすることは忍びないのでハハルアピ軍に所属させていますけどね」
そう言って辰人は笑みを浮かべる。恨みはあったのではなかろうか。
「あたしの場合は自分の意思で魔王様の元に来たわけじゃないのよね」
羽春は昔を懐かしむように語りだす。
「そうでしたね」
「どういうことだ?」
「あたしの住んでいたハーピーの谷が魔王様の配下に入ったのがきっかけなのよ」
「そこで魔王様にスカウトされたのか?」
「スカウトといえばそうなんだけど、あたし、もともとは魔王軍への貢物だったのよ」
「なんだよそれ?」
「あれニャ。ハーピーの谷からの上納品というのかニャ。こっちの世界で言う税金みたいなものニャ」
「魔王様はそのような徴兵や身売りまがいのことを行っていなかったのですが、ハーピーの谷の方々が誤解したようです」
「でも、結局魔王軍に入ったわけだろ」
「はじめは帰ってもらおうと思ったのですが、魔王軍も労働力が足りない時期でしたからね。魔王様が彼女の才能を見込んで手元に置いておきたくなったのです」
「ふーん。昔から強かったんだな」
「当時は魔王様の魔界統一がほぼ完了していました。ただ、まだゲリラ的に戦いを仕掛けてくる相手はいまして、そんな相手を探すのに彼女の探知能力が重宝しました」
「そのころ、百年くらい前だけど、あたしは『反則勝ち』の異名を持っていたのよ」
「なんでそんな呼ばれ方をしていたんだよ。卑怯なことばかりしていたのか?」
「卑怯と言えば卑怯だけどね。その頃のあたしは幼さの残る顔をしている割に体の方は立派なものだったもの。それはもう反則ものよ」
「あれニャ。これは反則ではあるが敗北ではない。むしろ勝利である。という意味から反則勝ちということになったのニャ」
「それ本当に百年前のセンスなのか? 誰がつけたんだよそんな二つ名」
「私です」
「お前かよ」
挙手をして名乗りを上げた辰人に真洋は呆れたように言い放つ。
「私にも若い頃があったということです」
「しかしさ。前から疑問だったんだけど、ドラゴンであるお前がどうしてそんなセンスを持っているんだ」
「私のセンスと言いますか、一緒に盛り上がる相手がいたからこそ、そんなことを言うのが癖になっているだけです」
「誰だよ、その相手ってのは」
「魔王様です」
「何やってるんだよ、魔王様」
「俺の場合は、自分から魔王軍入りを志願した」
「あんたの住んでいた海中にも魔王様の噂が届いていたのね」
「届いていたどころじゃねーよ。今の俺があるのも魔王様のおかげだ」
「おや、それは初耳ですね」
「どこから話したものか。俺の母親は人魚の女王をやっているんだ」
「あら、あんたって王子様だったのね」
「立場的にはそうなるのかもしれないけど、人魚って女系の系譜だから男の俺にはあんま関係ないんだよな。男は女を守るだけの存在と言うか」
「そうなのね」
「姉たちの中、俺だけ男だったから疑問に思っていたもんだ。だから、ある日、母親に聞いた」
「お母さんお母さん、どうして僕だけみんなと違って男なの?」
「それはお前がみんなを守る存在だからだよ」
「お母さんお母さん、どうして僕にだけ毒があるの?」
「それは仲間を守るための武器だからだよ」
「お母さんお母さん、どうして僕だけ体が小さいままなの?」
「それはお前が食べられるためだよ。体の小さなお前は人魚を狙う敵に食べられて毒で倒すんだ。そうすれば人魚には毒があると思われて他の仲間は食べられずに済むからね」
「なんですか、その重い話は」
「しょうがないだろ、もともとそういう種族なんだからさ」
「それで、親や仲間に復讐するために力をつけたのですか。それとも仲間たちが運命に逆らってあなたを助けたことが原因で全滅してしまったとか」
「俺にそんな設定の過去はねーよ」
「やーね。そんなことがあったら、もっとひねくれた性格になってたわよね」
「でもニャあ。家族に恵まれなかったやつが偽りの家族と過ごすうちに家族愛に目覚めていくのが王道なんだけどニャ」
「俺の親はその話の後、こう言ったんだよ。今は魔王様が無用な争いをしないように取り仕切っているからそんな心配しなくていいのよ。でも、昔だったらあなたは食べられちゃったんだから、魔王様に感謝しなさいよ、あははは。って」
「人魚の女王様ってそんな感じなんですか」
「親って無駄に子供を怖がらせることあるわよね。親との関係は良好なの?」
「ああ。親とも姉たちとも良好だよ。さっきも言ったようにうちの姉と弟の仲はいいんだ」
「やーね。仲がいいって、朝太との仲じゃなくてリアルの姉との仲だったのね」
「そもそも俺、魔王の城にいるとき以外は海の中の実家に住んでいるからな」
「あなた、実家から魔王城に通っていたんですか」
「悪いかよ」
「それにしても、あんた、昔は自分のこと僕って言っていたのね」
「自分の呼び方なんて変わるだろ。とにかくそんなことがあったから俺は魔王様に感謝して魔王軍に入ることを目指したわけだ」
「実際、魔王様の支配は海の中に及んでいたとはいえ、管理者がいない状態でしたからね。マカマフィンはうってつけでした」
「魔王軍にとっても渡りに船だったのニャ」
「まだ続いていたのかよ。その、ことわざブーム」
「それでは話を戻してカステラに調べてもらったことを確認しましょうか」
会議はここからが本番とばかりに話を切り替える。
「こいつには何を調べさせたんだ」
「魔王様の使用した時間を戻すための魔法陣です。残されていた資料の一部に古代文字が使われていまして、調査にてこずっていました」
辰人が説明する。
「やーね。あなたが分からないことをカステラに分かるのかしらね」
羽春が疑問を呈する。
「吾輩あれニャよ。魔法に関しても結構いけるのニャよ」
「それで、調べた結果何か分かったのかよ」
「資料と残された魔法陣がちょっとだけ違っていたのニャ。おそらくブレーキ痕のようなものなのニャ」
「ブレーキ痕?」
「あれニャ。発動した魔法を途中で止めようとした痕跡なのニャ」
「なるほどな。魔王様は時間を戻す術の勢いが強すぎて止めようとしたわけだな」
「簡単な術じゃないですからね。失敗したときのために対策をしていてもおかしくはありません」
「やーね。対策をしていても五歳くらいまで戻っちゃったのね。もう少し術を止めるのが遅かったらどうなっていたのかしら」
「おそらく、魔王様は完全に消滅していたでしょうね。さすがにそうなっていたら元に戻すのは不可能でしょう」
「そうならなくて本当によかったぜ」
「今回に限って失敗したわけだけどニャ」
その言葉に、場の空気が変わった。
「……どういう意味ですか? それでは何度も時間を戻す術を行ったように聞こえますが」
「そうニャよ。何度もやってることなのニャ。歳を取っては頃合いを見て若返っていたのニャ」
「うお、まじか。魔王様ってどれくらい生きているんだ」
「さあニャ。吾輩も忘れましたのニャ」
「しかし、それで分かりました。何度もやった術であるからこそ、魔王様にも油断があったのかもしれませんね」
「どういうこと?」
「初めて使う術であれば、失敗したときのためにもっと対策をしておくものだろうと思っていました。術をコントロールするための安全装置のようなものを何重にも施しておくなり、リカバリーの方法を用意しておくなりですね。その手のものがなかったのでおかしいと思っていました」
「なるほどな。何度もやっている術だからそこまでする必要はないと思って用意していなかったわけか」
「古代文字の中に何か術を解除する手掛かりがないかと思いましたが空振りでしたね。解除する方法があったとしても、何度も時間を戻しているとなると下手に解除はできませんね」
「今まで何度も戻した時間が一気に帰ってきたら今度は寿命が来ちゃうものね」
「魔王様を元に戻す方法がないとなると、いよいよ我々も覚悟を決めなければならないかもしれませんね」
「覚悟ってなんのだよ」
「魔王軍の運営を魔王様抜きでやっていくことをです。これまでは魔王様が戻るまでの処置のつもりでしたが、今後は永続的な運営を見据えてどうするべきなのか考える時が来たのかもしれません」
「あたしたちって基本的には魔王様の手足となって動くから自分で考えることはしないのよね」
「今すぐ決めろという訳ではありませんが、どうしたいかくらいは各々考えておきましょう。どうなるか分かりませんから、心の準備くらいはしておいてください」
そう言ったときに朝太が起きてきたため会議は終了した。
「お兄ちゃん、準備してる?」
「え?」
心の準備をしておけと言われた矢先に朝太の口から出た『準備』という言葉に、真洋は少々しどろもどろになった。
「忘れたの? ピクニックの準備だよ。明日、夕貴ちゃんたちと行くんだよね」
「ああ、そうだったな」
朝太の言葉に真洋は合点がいった感じで笑顔を見せるのだった。




