-9話- 魔王軍が今後どうするかを占うのはどうやら兄弟関係 その1
「魔王城も久しぶりな気がするぜ」
「吾輩も新鮮な気分なのニャ」
猫を連れた少年である真洋ことマカマフィンは再び魔界に来ていた。目的とするのは魔王城である。
今日、真洋は四天王のマカマフィンとして勇者召喚騒動の今後の対応についての説明に来たのである。普段の真洋は中学校に通っているが今は夏休みなので時間があるのだ。
「ずっと人間界にいたせいか、兄弟の月が不自然に思えてきたぜ」
魔界の夜空には二つの輝く物体が見える。
「そうは言うけどニャ。人間界にも似たようなことはあるのニャ」
「本当かよ」
「月とは地球の衛星のことなのニャ。火星には二つの衛星があるから二つの月があるとも言えるのニャ」
「そうなんだ。あ、もしかして魔界って火星にあるとか?」
「いや、それはないのニャ」
「それはそうだろうな」
真洋は別に気にする様子もなく城の中に入る。
「おう、早速お出迎えだぜ」
魔王城の敷地に入るなり三匹の魔物が真洋の方へと駆け寄ってくる。
「ニャ。あれは魔王城の番犬のケルベロスだニャ」
「あいつらは魔王様のペットか。やっぱり人間界に犬として連れて行っても違和感のない姿だよな」
三つ子の子犬にしか見えないケルベロスたちは真洋の足もとへじゃれつき始めた。
「よしよし。ちゃんと俺の顔を覚えていたようだな」
「それがニャー。こいつら誰にでもしっぽを振るのニャよ」
「番犬じゃなかったのかよ。魔王城が千客万来状態なのはどういうことなんだ」
そう言いつつ、真洋は犬たちをなでまわしている。
「そんじゃ、吾輩はケルベロスたちと城の中を散歩しているニャ」
「ちょっとシュールな光景だな」
「このごろは飼い猫の室内外が推奨されているからニャ。吾輩が外を自由に歩くにはこんなところしかないのニャ」
「お前、たまにこっそり家から抜け出しているじゃないかよ」
「ちゃんとドアは閉めていってるのニャ」
「それも普通の猫としてはまずいんだけどな。とにかく、今日は猫のカステラじゃなくて四天王であるゴーレムのシュウクレムとして来ていることを忘れるなよ」
「わかっているのニャ。吾輩は調査のためにここへ来たのニャ」
「そうだよ。古代文字が読めるなら調べてほしいものがあるってタリュートゥに言われているんだろ」
「そうなのニャ。ちゃんとやっておくのニャ。それじゃ、またあとでニャ」
「ああ」
真洋は魔王城の奥へと進んで行った。
魔王城の会議室には四天王の副官が勢ぞろいしていた。
マカマフィン軍副官、イエティのサーベルティ。
タリュートゥ軍副官、ガーゴイルのガトーラ。
ハハルアピ軍副官、アルラウネのラスクーネ。
シュウクレム軍副官、マナ・イーターのパンドナ。
四天王不在の現在、実質的に彼らが各軍を率いているのである。
「マカマフィン様の入城を確認したであります」
サーベルティが事務的な口調で告げる。
「わざわざ向こうから出向いてくるなんて、何事なんだってことなんだけど」
ラスクーネはニヤニヤしている。
「事前にお話し致しましたように、マカマフィン様はパンドナの発見した勇者についての報告にお越しになったのでございます」
ガトーラはラスクーネの言葉を文字通りに受け取り丁寧に説明をし出す。
「そんなことは知ってるんだけど。パンドナの奴が何かやらかしたんでしょ」
「ウウ、反省中デス」
パンドナが顔を下に向ける。
「大仕事をやってのけるって張り切っていたようだけど、失敗したって話だけど」
ラスクーネは自身の根っこでパンドナの頬をぺちぺちと叩く。
その根っこがスパッと切断される。
「確かにこのパンドナ咎められても仕方ありません。しかし、あなたに言われたくはないデス」
パンドナが体に仕込んだ刃で根っこを切り裂いたのだ。
「ちょっと! 痛みはないけど気分は悪いんだけど」
「ラスクーネ。あなたとサーベルティが喧嘩をして叱咤されたことは知っているのデス」
「関係ないんだけど」
「自分をまきこまないで欲しいであります」
サーベルティも抗議の声を上げる。
「喧嘩はやめるのでございます」
ガトーラの制止を無視してにらみ合う三体の副官たち。場の空気が張り詰めていった。
「待たせたな」
そう言って真洋こと四天王のマカマフィンが会議室のドアを開ける。
「お待ちしていたのでございます」
ガトーラが出迎えたその部屋には根っこが山積みになっていた。
「え? ここ製麺工場?」
パンドナによって適度な長さに切られたラスクーネの根っこが、サーベルティの氷によって締められて、麺類を想像させるものになっていた。
喧嘩を止められないガトーラは真洋の到着を首を長くして待っていたようだ。
「……ということで、パンドナが調査していた勇者については当面の危険性はないと判断した」
マカマフィンは勇者召喚騒動の後始末について報告した。三体の副官たちを軽く小突いた後にである。
「何か質問はあるか?」
「対応が甘すぎると思うんですけど」
ラスクーネが不満げである。
「一応、動きがないか観察はするくらいは検討してもいいけどさ。どのみち人間に対しての侵攻は禁止だからそれ以上のことはできないぞ」
「そうじゃなくって、パンドナへの処分が甘いと思うんですけど。変なあだ名をつけるだけなんて」
ちなみに真洋がつけたのはあだ名というより種族名である。
まな板から連想してのマナ・イーターである。
「甘いか? 俺としてはもう別の種属名をつけ直しても構わないんだけど」
「このパンドナにはその権限がありません」
四天王の決定を覆すとなると同格の四天王かそれこそ魔王くらいにしかできないのだ。
「じゃあ、いい名前が思いつくまではそのままだな」
「マカマフィン様、よろしいでありますか」
そう声をかけてきたのはマカマフィン軍副官のサーベルティである。
「何か用か?」
「明後日に我らマカマフィン軍全体の演習を予定してるであります。ぜひに参加して欲しいであります」
「大規模な訓練になると怪我が心配だけど、俺がいれば回復役には困らないからな。だがよ、怪我なんてしないにこしたことはないぜ。いくら治るといってもいったんは痛い思いをするわけだからな」
一軍の将とは思えない、意気地がないともとれるようなことを言うマカマフィン。
「それじゃ訓練にならないであります」
「とにかく明後日はピクニックに誘われているから駄目だ」
「は? ピクニックでありますか」
「あ、違った。人間界での野外調査だった」
言い方を変えているだけで、やろうとしていることはピクニックなのだ。
真洋は魔王軍の仕事よりも夏休みを満喫することを選んだようである。




