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-8話- 勇者召喚の魔法陣によって導かれた先がどうやら地元 その4

 魔王軍四天王シュウクレム軍副官であり機械の魔物であるパンドナ。

 そのパンドナが多数のリビングアーマーを連れて城の前の広場に陣取っていた。


「さて、勇者はどこにいるのデスか?」

「ま、待ってくれ」

 国王は焦りの表情を見せる。

「今日まで待ちました。しかし、約束を守ってはいただけなかったようデスね」

 機械の女の声からは感情が読み取れなかった。

「やめなさい」

 そう言って魔術師のフェロンパンドナから王をかばうようにして立つ。

 フェロンは塔から駆け下りてきたため少し息を乱している。


 パンドナとフェロンとがにらみ合い、その場に緊張の糸が張り詰める。

 その緊張の糸を断ち切るように上空から何かが落下してきた。人影である。

「何者デスか」

 予想外の出来事に発せられたパンドナの声は、感情がこもっているようにも聞こえた。

「どうも。勇者じゃない者だ」

 緊張感のない声を出したのは猫を抱えた少年だった。真洋である。塔から直接飛び降りてきたのである。着地した土の地面が少しへこんでいた。

「おい、ここは俺が相手をしておくから、お前は国王を避難させとけ」

 真洋はフェロンにそう声をかける。

「で、でも……」

 フェロンは戸惑いの声を上げる。いまいち状況ができないでいるようだ。

「お前勇者にこいつの相手をさせようとしていたんだろ。あいにく俺は勇者じゃないけど、お前は力のある者を召喚したんだから心配ならいらないぜ。自分の術を信じな」

「ありがとう」

 真洋の言葉でフェロンはこの場を任せた方がよいと判断したようで、彼女は国王を連れてその場から避難した。

「これはあれだニャ。あとでデレそうな言葉ですニャー。召喚されたのは吾輩なんだけどニャー」


「さて、事情を説明してもらうぞ、パンドナ」

 フェロンと国王が離れたことを確認してから真洋がパンドナを問いただす。

「何者デスか? まさかあなたが勇者なのデスか?」

 パンドナが真洋の顔を覗きこむ。

「それは違うって言ったじゃないかよ。大体お前、俺の顔に見覚えはないのか? 魔王軍四天王のマカマフィンだよ」

「マカマフィン様はマーマンなのデス。貴様は人間……ではなさそうデスがマーマンではないデスね。認証一致せずデス」

 真洋は人間の姿をしているため人魚であるマーマンには見えない。

「……融通がきかない奴だな」

「コンピューターなんてそんなものなのニャ。さっさと正体を現して人魚の姿を見せるのニャ」

 真洋は人魚形態のときは空中浮遊しており、陸上だから元の姿に戻れないということはない。

「そうは言っても今は元の姿に戻ることを考えた服を着てないんだよな。元の姿になるなら服装を考えないと後が大変なんだよ」

 真洋は学生服姿である。終業式が終わった後そのまま召喚騒ぎに巻き込まれたため学校帰りのままの姿なのだ。

「そんなの魔法でどうにでもなるニャろ」

「でも、制服を改造するのは校則で禁止されてるんだ」

「おめー、妙なところで真面目だニャー」

「いつまでごちゃごちゃ言っているのデスか。四天王を騙る悪い子にはお仕置きが必要なようデスね」

 ぐだぐだやっている真洋に業を煮やしたのか、パンドナが戦闘態勢に入る。

「……もう、面倒くさいからこのポンコツをボコって終わりにするってことでよくないか?」

「スクラップにすることはないと分かっているけど一応言っておくニャ。吾輩の部下なのでなるべく穏便に頼むニャ」

「分かったよ。軽くひねる程度にしておく」

「恩に着るニャ」


「さっきからごちゃごちゃとうるさいデスね。お前たち、ヤレ」

 しびれを切らしたパンドナがリビングアーマーに攻撃の指示を出す。アーマーたちが真洋に襲いかかってくる。

 アーマーの一体が剣を振りおろしてくるが、その攻撃を何なく避ける真洋。そして、アーマーのボディに打撃を当てると鎧はその場に崩れ落ちる。

「あれニャ。さすがにこの程度の相手なら一撃で倒せるんだニャ」

「こんな相手じゃなければパンチするまでもないんだけどな」

 真洋は状態異常を駆使する戦い方を主体とするため、生き物以外の相手を苦手としている。それでも四天王を務める実力があるので物理的な攻撃のみでも十分強い。

 さほど力がこもっているように見えない真洋の掌底が当たるだけでアーマーが倒れる。

「……なんかいまいち爽快感がないニャ」

「魔王軍の備品だからな。後で再利用するために破壊しないよう手加減しているんだよ」

「貧乏くさい奴だニャー」

「コスト意識が高いって言ってくれないか。それにしても非生物の相手って毒が効かないから面倒なんだよ」

 真洋はそう言いながらアーマーの振り下ろした剣をかわし、隙だらけとなったボディに蹴りをくらわす。

「そういえば、おめー、武器は使わないのかニャ」

「武器なー。実は海に住む者としてトライデントっていう三つ又の槍というかモリを持ってはいるんだけどさ。しっくりこなくて使ってないんだよな」

「コスト意識はどうしたのニャ。通販で健康グッズを買っただけで満足してるやつみたいになってるのニャ」

「そもそも魔界じゃ魔法攻撃が主流だから、武器ってさほど重視されないんだよな」

 真洋はそう言いながら二体のアーマーに挟み撃ちの攻撃を素早くかわし同士討ちを誘う。

「おめーは魔法攻撃主体の戦い方じゃないもんニャ」

「魔法を使わないわけじゃないけど、水中で威力を発揮する技が多いんだよ」

 そう言いつつ真洋はアーマーに足払いをかけてすっころばせる。

「タリュートゥなら広範囲の攻撃魔法一撃で全滅させることもできただろうニャ。ハハルアピならアーマーどもを操っている魔力の流れを読み取って遮断することもできるから勝負にもならないだろうニャ」

「この任務って俺が一番向いてなかったわけだな」

「向き不向きと言えばニャ、おめーだって状態異常以外にも得意なことくらいあるニャろ」

「あー、あるけど、驚くようなこと言うけどいいか?」

「何ニャ?」

「実は俺、攻撃魔法より回復魔法の方が得意なんだよ」

 真洋はそんなセリフを言いながら、アーマーの腕をひねって態勢を崩す。

「別に驚くようなことじゃないニャろ」

「だってよ、四天王が攻撃より回復の方が得意なんて格好がつかないだろうよ。敵と対峙した時、『お前が痛いなんて感じる前にその傷を癒してやるぜ』なんて言っても様にならないだろ」

「むしろかっこよくニャいか、それ。しかし、相手を毒状態にして体力を奪って自分は回復魔法で長期戦を狙うわけだよニャ。おめー、勇者の敵として出てきたら嫌われるボスだっただろうニャ。よかったニャー、真洋としては勇者に好かれているようで」

「そんなによくないけどな」

 などと会話をしながら真洋は次々と素手でリビングアーマーたちをなぎ倒していった。


「部下たちでは相手にならないようデスね。このパンドナが相手になりましょう」

 そう言ってパンドナが名乗りを上げるように進み出てきた。

「うーん。アーマーどもよりは頑丈そうだな。かえって、どれくらいの力加減でやればいいのか分らんな」

「お手柔らかに頼むのニャー」

「了解。ちなみに、攻撃魔法がまったくできないわけじゃないんだぜ」

 そう言うと真洋は魔法で水の塊を作り出した。

「ニャ、それは……」

 真洋は水の塊をパンドナにぶつける。しかし、パンドナにダメージはなく、足元を濡らしだだけであった。

「残念デスね。このパンドナに魔法は効かないのデス」

「そうなのニャ。パンドナの体は魔力の元であるマナを吸収する加工がしてるのニャ」

「うわ、厄介なもの作ったな」

 真洋が顔をしかめる。

 魔界での戦いは魔法が主体であるため、パンドナの体は強力な装甲と化すのだ。


「覚悟するのデス」

 パンドナは腕を曲げ肘から刃を出して切りかかってくる。

「こんな機能まであるのかよ。もしかして空飛んだりビーム出せたりもするのか?」

 真洋はそう言いながら刃を避ける。

「飛行機能や飛び道具はオプションで今はつけていないのニャ。歌の売り上げに合わせて強化していくってのはどうニャ」

「そんなところにアイドル要素を入れるんじゃねーよ」

 パンドナにはバーチャルアイドル用の人工知能が使われている。

「今できるのはアーマーどもを動かすくらいの魔法とマナを吸い取る魔力吸収くらいだニャ。基本的には物理攻撃型なのニャ」

「さて、どうしたもんか。……あれを試してみるか」

 真洋は魔法で水の塊を作り出すと次々とパンドナに投げ続ける。

「このパンドナ、魔法は吸収すると言ったはずデス。もしや、魔力を過剰に吸収させてパンクさせようと言う作戦デスか? しかしながら、それも無駄なことデス」

 パンドナは攻撃をよけようともせず、水を浴び続ける。

「無駄ニャー。マナを吸収しても一定量上は蓄積しないで放出する安全装置がついているのニャ」

「いったんマナを吸収した上で余分なものを放出するんだな。それなら、もう十分だろう」

「何を言っているのデスか。今度はこちらからいくのデスよ」

 そう言って攻撃に移ろうとするパンドナであったが、足を踏み出そうとしてその場ですっ転んだ。

「な、何デスか?」

「土の地面に水を撒いたんだから足元は泥沼状態だぜ」

「馬鹿な、この程度の泥など問題ないはずデス」

「普通の泥ならそうかもな。でもこの泥の水は俺の魔力を含んでいるからさ。そのマナを吸収しようとお前の体に纏わりついてくるんだろう。ましてやお前は高重量の体に細い脚だ。まともに歩けるわけがない」

「グ……」

「さて、俺が素手でリビングアーマーどもをなぎ倒していたのは見ていたよな。ろくに動けないお前を捻ることなんて簡単だからさ。おとなしく降参したほうが身のためだぜ」

 真洋は地面に転がり泥にまみれるパンドナを上から見下す。

「お、あれニャ。おめーは、水を得た魚って感じなのニャ」

「その遊びまだ続いていたのかよ」

 真洋は呆れたように苦笑いを浮かべた。


「お前、いったい、何者デスか」

「四天王のマカマフィンだって言っているだろ」

「……そのお力、本当にマカマフィン様だったのデスね。ウウ、お許しを……」

「さて、どうしたもんかね。人間の世界には一度こぼした水は盆に返らないってことわざもあるんだよなー」

「覆水盆に返らずだニャ」

「ああ、それだ。さて、質問に答えてもらうぞパンドナ。魔王軍は今、人間には手を出さないことになっているはずだが、お前は何をやっていたんだ?」

「実はここに勇者がいると言う情報を入手したのデス。このパンドナはその確認に訪れていたのデス。確認のために勇者を見せるように要求し、本日連れて来るという約束になっていたのデス」

「そんなこと言っていたな。アーマーたちを使って人間を脅迫はしても攻撃はしていないから命令違反ではないって理屈か。俺のことも人間ではないと認識したから攻撃したわけだな。相手が人間じゃなければ攻撃しても命令には反してないってことだもんな」

「ハイ。そして、勇者の存在の確認が取れ次第報告を行う予定だったのデス」

「だが、これは調査の範囲を超えているんじゃないのか?」

「秘密裏に進めたこの国の調査では見つけられなかったのデス。そこで国王に勇者を出すように要求しました。強引な手を使った方が勇者をあぶりだせる可能性が高いと判断したのデス。勇者ならば危機を放置できず自ら出てくるであろうと」

「その目論見は外れて俺が出てきたわけだけどな。そもそも、魔王軍で情報を共有していれば防げただろうけど、俺は知らなかった。つまり、今回のことはお前の独断ってことだよな」

「……出し抜かれたくなかったのデス。どうしても手柄を立てたかったのデス」

「なんだ、手柄が欲しかったのかよ。思ったよりも俗っぽい理由だな」

「このパンドナ、プロトタイプのマシンであるために個人名はあっても種族名がないのデス。手柄をあげて量産化されれば種族名もつけてもらえると期待したのデス」

「それなら俺が暫定的に種族名をつけてやるよ。そうだな、マナを吸収するからマナ・イーターと言うのはどうだ?」

「思っていたよりまともな種族名をつけていただいたのデス」

「元ネタはまな板だ。人間の言葉で貧乳の隠語として使われている」

「種族名が貧乳ってことデスかぁ」

 そんなことを知らされたところでパンドナは逆らうことなどできないのだ。

「まさに、まな板の鯉だニャ」

「こいつは上官に攻撃をしたんだからな。本来ならもっと重い処分を下しても文句は言えない。軍法会議ものだろ」

「魔王軍の軍法なんて、あってないようなものだけどニャ」

「俺が甘い対応をしたらかえってお前が厳しい対処をしないと示しがつかなくなるだろ。この程度で水に流そうっていうんだから優しいもんだ」

「そういうことは自分で言わない方がかっこいいのニャ。おめー、貧乳の彼女に言いたくても言えないことをこいつに言っているんじゃないだろうニャ。それはセクハラだニャ」

 貧乳の彼女とは夕貴の姉の理緒のことである。

「あのなあ、なんか勘違いしているみたいだから言っておくぞ。俺はあいつにもこれくらいのことは言う」

「意外とデリカシーがない奴だったのニャ」

「だいたい、あいつもあの年齢で胸の大きさなんて気にしても仕方ないことだろうに」

「それはそうかもしれないけどニャ。それは、ほれ、女心と言うやつニャ」

「まったく、女は大人になればみんな胸なんて大きくなるもんだろ」

「ニャー。その考えは誰かを傷つけているかもしれないのニャ」

「あ、アノ。このパンドナはどうすればいいのデショウか」

 機械のため肉体的な成長の余地がないパンドナが口を出す。

「お前はアーマーどもを連れて魔王城に帰れ。残務処理はこっちでやる」


 パンドナはリビングアーマーたちの残骸を連れて魔王城に帰った。

 自分で転移魔法を使う分には有効なのであった。

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