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-8話- 勇者召喚の魔法陣によって導かれた先がどうやら地元 その1

 魔王軍四天王のマカマフィンは君守真洋という名前で中学生として生活している。その中学校も明日から夏休みである。

 終業式を終えて、真洋はクラスメイトである理緒と連れ立って下校していた。

「真洋君は何か夏休みの予定はあるの?」

 夏休みの話をしているなか、理緒がそう尋ねる。

「いや、特に予定はないな」

「私もお盆にお母さんの実家に行くくらいしか予定ないんだよね、今のところ」

 真洋に対して暗に休み中にどこかへ行こうと誘って欲しいといった言い草である。

「そっか。お互い暇な夏休みになりそうだな。じゃ、また夏休み明けにな」

 しかし、真洋にそんな機微を期待するのは無駄だったようだ。


「ただいまー」

「おかえりなさい。いつもより帰りが早いのね」

 帰宅した真洋を羽春が出迎える。羽春は魔王軍四天王のハハルアピの人間界での名前である。

「今日は終業式だからな」

「そうそう、夕貴ちゃんが来ているわよ」

 夕貴とは理緒の妹で、真洋の弟ということになっている朝太の友達である。

「なんだあの勇者、また遊びに来ているのか」

「それから、その勇者を召喚しようと魔法陣も現れたわよ」

「なんじゃそりゃ」

「びっくりしたわよ、家の中にあんなものが突然現れるんだもの。それで今、調べてもらっているの」

「タリュートゥも帰っているのか」

 真洋の言うタリュートゥはやはり魔王軍四天王で辰人と名乗っている。

 羽春に促されて真洋がリビングに入ると、その床には羽春が言うように魔法陣が浮かびあがっていた。

「緊急事態ですからね。さすがに家の中にこんなものが出現したとの知らせを受けたら帰って来ますよ」

 話が聞こえていたのか、その場にいた辰人が真洋の独り言に答えるようなことを言う。辰人はいつもこの時間は魔界にいるのだが、こんなものが現われては仕事どころではない。

「それで、どこかの誰かが勇者を召喚しようとしてるってのか?」

「おそらくそういうことです。この魔法陣に足を踏み入れて条件に合った者を転移させる魔法のようです。蜘蛛の巣のようにこの場所に留まって罠を張り、強大な力を持った者を選んで呼び出すための陣でしょうね」

「定置網漁かよ。強力な力を持った者って、それじゃ何が引っ掛かるか分からないじゃないか。なんて、傍迷惑な魔法陣だ」

「ですから、正確に言うと召喚しようとしているのは勇者ではなく魔王様の方かもしれません。現在、ここには勇者のほかに魔王様もいますからね。どちらを目標にしたのか分かりませんよ」

「なるほどな」

「ただ、召喚したものを縛ったり従わせたりする術は付随していませんから、勇者を呼び出そうとしている可能性が高いと考えられます」

「どういうことだ?」

「力の強い者を無理やり呼び寄せるわけですからね。呼ばれた者が大人しく言うことを聞くとは限りません。そのため召喚された者が召喚した者に逆らわないよう、術者に従わせる洗脳のようなことや反撃できないよう呪いをかけるといったことをすることがあるのですが、この魔法陣にはそれが見られません。そのような対策をしないで魔王を呼ぼうとする者はいないでしょう」

「勇者だって大人しく従うかは疑問だけどな」

 真洋は夕貴の顔を思い浮かべたのか遠い目をした。

「どちらにしてもこの魔法陣は術としては未熟ですね。私から言わせれば作りが雑です」

「やーね。まさか召喚術者もこんなことろで魔法陣の駄目出しをされているとは思わないでしょうね」

「もっとも、召喚術自体は人間が使うには高等な術なのですけれどね。我々の使う転移魔法と同じようなものですが、私たちが気軽に使いすぎなんですよ」


「……それで、どうするんだよ、これ。消滅させることはできないのか?」

「やろうと思えばできると思いますが、それでは根本的な解決にはならないでしょう。消してもまた新たな魔法陣ができる可能性があります。そのとき対応できなければ朝太や夕貴ちゃんがどこかに転移されてしまうかもしれません。子供が一人いなくなったとなれば大事件ですからね。大騒ぎになりますよ」

「じゃあ、どうするんだよ」

「あなたがちょっと召喚されて様子を探ってきてもらえませんか。我々四天王クラスでも十分魔法陣に反応するはずですから」

「なんで俺が。お前たちでもいいだろ」

「あなたは明日から夏休みでしょう。しばらくいなくなっても平気ですよね。ちょうどいい機会です」

「よくねーよ。そうだ、俺は夏休み中に水や魚と関連することわざを実践してみると言う自由研究をやろうと思っていたんだ。忙しいんだよ」

「なんですか、そのいかにも動画投稿サイトにありそうな実験は」

「中学一年生なんてこんなもんだぞ。大それた研究なんかしないって」

「あんた、召喚されて勇者として振る舞ってみたらいいじゃないの。偽勇者やってみたっていう壮大な実験ができるわよ」

 羽春が茶化すようなことを言う。

「そんな自由研究ねーよ」

「とにかく、このままにしてはおけません。もし向こうで何かあっても転移魔法でこちらに戻ってくることもできますしね」

「だからって、俺なのかよ。カステラでもいいだろ」

 カステラというのは魔王軍四天王のシュウクレムが人間界で猫として飼われるにあたり付けられた名前である。

「勇者を召喚しようとして猫が出てきたら、それはそれで面白そうですが、先方が対応に困るでしょう」

「それはそうだけどさ」

「あなたはこんな時のための余剰戦力です。その力を今使わないでいつ使うんですか」

「いや、絶対こんなこと予測してなかっただろ」

「やーね。グダグダ言っていないで行ってきなさいよ。清水の舞台から飛び降りるつもりでね」

「それって、ことわざの中でも一二を争うレベルでやっちゃいけない奴だろ」

「火中の栗を拾うつもりで飛び込んでください」

「それもやっちゃいけないやつだろ。しかも、水や魚のことわざでもないし」

「まあ、そんなに苦労することはないと思いますよ。夏休みの旅行だと思って気楽に行ってきてください。のんびりしてきていいですよ」

「のんびりする気はねーよ。やっぱり俺が行くしかないようだが、すぐに戻ってくるからな。今日の夕方には戻ってくるから夕飯作って待ってろよ」

 そう言って真洋は覚悟を決めたように魔法陣の前に立った。


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