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-7話- 魔界と人間界の違いはどうやら魔法 その3

「朝太はどうしたんだよ。まだ猫と遊んでいるのか?」 

 羽春は朝太と猫の世話について話をしていたはずである。

「そうそう、朝太が猫と遊ぶ姿を写真に収めようと思ったの。それでカメラを取りに来たのよ」

「なるほど、成長を記録しておくのはいいですね」

「親ばかだな。そうだ、写真を撮ってもうかつにSNSには載せるなよ。悪い奴に狙われるかもしれないからな」

 そんな話をして辰人と羽春が朝太の写真を撮りに部屋を出ると、リビングに残された真洋の耳に誰かの声が聞こえてきた。

「朝太いるかー」

 遊びに来た夕貴が玄関で呼んでいるようである。


「朝太の友達が来たようだニャ。やっと解放されたニャー」

「うおっと、カステラかよ。いつの間に部屋へ入ったんだ」

 リビングに残される形になった真洋は突然声をかけられて驚いたようだ。

「足音も立てずに歩くのが猫なのニャ」

「猫はいきなり話しかけて来やしないけどな」

「吾輩もしばらく自分の時間が作れそうだニャ」

「自分の時間って、猫が何をするんだよ」

 真洋が呆れた口調で言ってくる。

「おめー、そう言うけど猫にだっていろいろあるのニャよ」

「いろいろって何をするんだよ」

「吾輩もご近所の猫集会に顔を出したいのニャ」

「なんでお前はそう、無駄に社交性が高いんだ」

 真洋が呆れた顔を見せる。

「猫集会はともかく、吾輩せっかく言語能力を得たのニャからもっとおしゃべりしたいのニャ」

「そうは言ってもこの世界じゃ猫はしゃべらないからな。人前でしゃべるわけにはいかないだろ」

「朝太くらいの年齢なら猫とお話ししたと言ってもセーフニャろ。真洋くらいの歳だとアウトかニャ」

「知らねーよ」

「魔法使いには吾輩のようなしゃべる猫が使い魔としてつきものなのニャ」

「それは魔女のイメージだろ」

「もっとも、世の中には猫とおしゃべりできると言い張る飼い主がいるものなのニャ。動物と話をする魔法が使えるのかもニャ」

「人間の世界の魔法なんて実はみんなそんな感じなのかもな。でも、動物が何を考えているかなんて、知らない方がいいことだな。お前と話しているとそう思うよ」

「まあ、吾輩ゴーレムなんですけどニャ」

「そうだったな。以前の姿とあまりに違うから、つい忘れそうになるけど。そういえば、そもそもお前だって魔法が使えるじゃないかよ」

「シュウクレム、つまり吾輩の役目は魔法よりも肉弾戦だからニャ。それでも魔力で動くゴーレムという性質上、魔力の量は多いのニャ」

「お前って今は魔法石の中の魔力を消費して動いているんだよな。そのうち枯渇するかもしれないから補充のために時々魔界に戻った方がいいってよ」

「そのうちにニャ。当面は問題ニャろ」


「そういや、おめー。タリュートゥと魔法の話ししていたニャろ。魔法に関してはタリュートゥに任せておけば間違いないのニャ」

「魔界と人間界の違いについて話していたんだよ」

「人間の世界には魔界と違って魔法はないけどニャ、その代わり科学が発達してるのニャ」

「はっきり言って、もはや魔法と見分けがつかないレベルだよな。魔法と科学の違いって何だろうな」

「そうだなニャー。あくまでもシステム的な話だけどニャ、技術を誰にでも使えるようにすることが科学で自分だけが使えるようにしておくのが魔法ってことかニャ」

「誰にでも使える?」

「例えばおめーはスマートフォンを使っているニャろ。でも、どうして動いているかなんて理屈は知らないニャろ」

「そうだな。カメラ機能を使って写真を撮るけど、どういう仕組みかは知らない」

「ちなみに、吾輩はオスの三毛猫なので超貴重なのニャよ。SNSに乗せて狙われるのは吾輩かもニャ」

「それはどうでもいいけど、マジック・アイテムだって魔法が使えない奴でも扱えるだろ」

「あれは補助的なものだからニャー。基本的に魔法は自分のためだけに使うのニャ。魔法を使う者は魔術の原理を秘密にしておくものニャ」

「科学はそうじゃないってのか」

「科学ってのは新しい発見を論文や学会でやり方を含めて公表するものなのニャ。新しく作った技術は特許を取るものなのニャけど、そのためには技術を公開する必要があるのニャ」

「公開するか非公開なのか、それが科学と魔法の違いなんだな」

「そうとも言えないのニャ。確かに、科学は情報を公開することで発展していったのニャ。でも、軍事利用されるような核心的な技術なんかは秘密にしておくものだからニャー。すべてを公開するわけじゃないのニャ」

「魔法も戦うことに使用することがメインだから敵に知られないように情報を公開することはないってことか。それにしてもお前、よくそんなこと知ってるな」

「それはあれニャよ。吾輩、ゴーレムだからカラクリとか機械とか興味あるわけなのニャ」

「技術的なことを理解しておきたいってことか。あ。そういえば、俺って魔法もあんまり理屈分かってないまま使ってるな」

「おめーみたいなのがいるから話がややこしくなるのニャ。でも、それは魔法ってものが個々の能力に依存してるってことなのなのニャ。各々の能力や属性によってできることが違うから、魔法は伝承させにくくてますます自分向けに特化していくのニャ」


「属性と言えば、朝太って闇属性なんだよな。魔王なんだから。あんまりそのイメージないよな」

「それなんだけどニャー。闇とは安らぎの象徴でもあるのニャよ。夜は眠るものだからニャ」

「え、そうなの?」

「まあ、吾輩は猫だから昼夜問わず寝ますけどニャ」

「それはどうでもいい」

「属性のイメージなんてそんなものなのニャ」

「朝太がいい子過ぎて、実は言いたいことも言えないだけで、ストレスを抱えて闇属性にならないかと思うのは心配し過ぎかね」

「心配し過ぎだと思うニャ。おめー、子供はもっと我が侭なものだっていう先入観からそんなことを思ってるだけなのニャ。あれがあの子の素なのかもしれないから、無理に自分の想像する子供と比べないでそのまま受け止めてやれニャ」

「うーん。俺にできることはなにもないってことか」

「それなら、おめー自身がタリュートゥやハハルアピに甘えてみたらどうニャ」

「なんでそんなことをする必要があるのさ」

「朝太のお手本になってやるのニャ。兄であるおめーが親との距離感を示してやれば弟はそこから学ぶものニャ。おめーが言いたいことを言ってみるがいいニャ」

「そんなものかな」

 真洋は納得しきれていないものの、試してみる価値はありそうだと思ったようである。


「聞いたわよ、魔法の話をしているですって」

 リビングに羽春が入ってきた。

「人間の世界のことを知るつもりが、ついそういう話になってな」

「こっちに世界に魔法はないものね。そういえば、人間界のコンテンツとして魔法で戦う魔法少女っていうものがあるらしいわよ。あんたが魔法少女の逆の魔法少年になれば人気出るかもね」

「お前が魔法少女の逆の物理攻撃ババアになっても人気は出なさそうだけどな」

 真洋はアドバイス通り言いたいことを言った。

「あらあら、やーね。そんな悪いことを言う口はこれかしら」

「ひょうはんへふ、おはあはま。ふふひほうへひはおはへふははい」

 冗談です、お母様。物理攻撃はおやめください。と言っているようである。

 物理攻撃と言ってもほっぺたを引っ張っているだけであるのだが。

「おい、お前のせいで怒られちゃったじゃないかよ」

「いや、今のはおめーが悪いニャろ。吾輩の説明も悪かったかもしれニャいけど、さすがに言っちゃいけないことだってわかるニャろ」

 それでも、参考にはなるかもしれない。反面教師として。

「そうそう、あんたたち、朝太たちがカステラと遊びたがっているからここに呼ぶわよ」


「猫はどうした?」

 夕貴はリビングに入ってくるなりそう尋ねた。猫のことが気になるようである。

「真洋とお話ししていたわよ」

 羽春が夕貴にそう答えた。

「俺にメルヘンチックなキャラをつけようとするんじゃねえ」

「真洋君ってかわいいところあるんだね」

 そう言ったのは理緒だった。夕貴の姉で真洋のクラスメイトでもある。

「お前も来てたのかよ」

「かわいい猫ちゃんがいると聞いて見に来たんだよ」

「ふーん。猫好きだったのか」

「猫をかわいがる様を見せて自分のかわいさをアピールするつもりだよ」

「それ言っちゃダメだろ」

 真洋と理緒はいろいろあったものの友達くらいの関係が続いていた。だが、理緒はその関係を進めたがっているようである。

「それに、猫ちゃんの頭をなでると真洋君に頭をなでてもらえると聞いたからね」

「妙なサービスを提供しているみたいに言うんじゃねえよ。そもそも、俺だって相手が幼児だからやったことであって、お前にやるのはおかしいだろ」

「でもでも、私、幼稚なところあるし、そういうの喜べると思うんだよ」

「まあ、頭なでるくらいならいいけど」

 理緒の気迫に押されたのか、真洋は提案を受け入れた。

「それじゃ、私が猫ちゃんの頭をなでるから、真洋君は私の頭をなでてね」

「別にいいけど、なんか変じゃないか?」

「ちょっと変なことくらい平気だよ。私たち未成年だから万一法律に触れてもある程度のことは平気だよ」

「恐ろしいことを言うんじゃねえよ。そりゃ俺たちは法律の範囲外かもしれないけどさ」

 これは未成年がどうということではなく、魔物は人間の法律の範囲外という意味であろう。

「何をしているんだこいつらは」

 そう言って夕貴は呆れた様子を見せる。

 夕貴は遠慮せずに言いたいことを言うタイプのようである。


 魔物に対する法律があったらそれも魔法と呼ばれるのだろうか。

 頭をなでる手の感触を感じつつ、そんなことを思うのであった。



   7話 終

8話へ続きます 8話は少し長めになります。

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