表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/41

-7話- 魔界と人間界の違いはどうやら魔法 その2

「朝太はどうしたんだ?」

「猫の世話の仕方について羽春さんと相談しています。もっとも、シュウクレム自身も言っていたように、猫の振りをするために餌を食べる真似をしているだけなんですけどね」

 朝太の興味は今猫に向いているため、いつも遊び相手になっている真洋は手持ち無沙汰になっていた。

「あいつは魔力で動いているんだっけ。ゴーレムってこの世界でも動けるものなんだな」

「シュウクレムは核となる魔法石に溜まった魔力を原動力にしているようですね。昔からそうだったのか、最近そう変質したのかははっきりしませんが。どちらにしろ、現状では食事の必要はないです」

「それにしたって魔界とこの世界は別の世界なわけだろ。魔力で動くにしても原理が違うなんてことはないのか」

「魔界と人間の世界とはさほど違いはありませんよ」

「そうなのか?」

「ええ。では、二つの世界の違いを検討してみましょうか。魔王軍への報告のこともありますし」

「そうだな」

 辰人による人間界と魔界の違いについての講義が始まった。


「たとえば、私たちはこの世界の食べ物を摂取して消化、吸収することができますよね。つまり、我々の世界とこちらとで、食材となる生物の組成が同じようなものだと考えられます。生き物が炭水化物、タンパク質、脂質を栄養源にしていることも共通です。また、我々はこの世界で呼吸することができますよね。つまり、大気の成分も同じようなものということです。このことから、魔界と人間界で世界を構成する元素にも大きな違いはないものだと思われます」

「そんな簡単に言いきっていいのか?」

「きちんと調べたわけではないので厳密には異なるのかもしれませんが、日常レベルで違いを感じることはありませんよ。でも、何が違うかわかりませんから違和感を覚えたら言ってくださいね」

「毒になるものがあるとしても、俺はもともと何を食べても平気だからな」

 真洋は体内に毒を持ち、様々な毒物に対して耐性を持っている。毒物鑑定をできるため、毒見役も務めている。

「こちらの世界の食べ物で毒と判定されたものはないのですよね。それはつまり、我々と人間とで毒になるものが共通しているということでしょう」

「そういうことになるのか」


「話を戻しますが、大気圧や気温も両世界で同程度と言っていいでしょう」

「それに関して言えば、俺は低温高圧化の深海でも活動できる体だから実感はないぜ」

 真洋はマーマンと呼ばれる人魚であり、深海でも陸上でも生活ができるほど適応力が高い。

「時間の流れも同じようなもののようです。一日は二十四時間です」

「ああ、昼と夜の長さも同じようなもんだな」

 魔界と言っても闇に閉ざされているわけではなく、昼夜はあるのだ。

「そういえば天体は異なりますね。魔界には月が二つありますし」

「こっちの月は一つだもんな」

「時間と言えば、数日間こっちにいる間に向こうでは数百年経っていたなんてことはありませんね」

「もし違っていたら浦島太郎みたいなことになるわけか」

「まったくの異なる世界だったら時間の流れが同方向とは限りませんよ。逆方向ならこちらの世界から魔界へ戻ると過去になっているなんてことだってあるかもしれません」

「そんなことになっていなくてよかったな」


「別の世界と言っても魔界とこちらの世界とのはほとんど変わらないということですよ」

「ほとんど変わらないってことは、ちょっとは違いがあるってことだよな」

 真洋が細かい指摘をする。

「一番の違いは魔法があるかどうかですね」

「ああ、確かにこっちの世界じゃ魔法を使うやつはいないもんな」

「もしかしたらいるのかもしれませんが、一般的でないことは確かでしょう」

「何が原因なんだ?」

「魔界にはマナと呼ばれる魔法の元となるエネルギーのようなものが大気中に溢れかえっているのです。我々はこのマナを利用することで魔法を使うことができます」

「あれ、だけど俺たちはこっちの世界でも魔法が使えるよな」

「我々は体内にマナを溜めこんでいるのでこの世界でも魔法を使えるわけです」

「それならこっちの世界で体内のマナを使い切ったら俺も魔法が使えなくなるのか」

「ええ。ですから、たまには魔界に帰ってマナの補充した方がいいかもしれませんよ」


「それにしても、魔力の元が溢れかえっていることで違いは出ないものなのか。マナは魔物には無害だけど人間にとって有害だとかさ」

「人間である朝太が平気だったわけですからね。吸った瞬間どうにかなる毒ってことはないでしょう」

「そういえばそうだったな」

「マナは毒だけど魔界にいる人間が全員耐性を持っていたということも考えられますが、それを言い出したらきりがないですからね」

「ちょっと待て。魔界に人間なんているのか」

「いますよ。あなたは知らないのかもしれませんが人間は普通にいます。もちろん、人間界ほどその数は多くありませんが」

「そうだったのか。ずっと海で暮らしていたからか、陸地の常識に疎くていけないな」


「そういうことなら魔法についても基本的なことから確認しておきましょうか」

「ああ、そうしてもらえると助かる」

「念のために断っておきますが、これは我々の魔界での理論であって、人間界で考えられている魔法とは異なっている可能性があります」

「まあ、人間界で考えられている魔法については横に置いておこう」

 人間界の魔法と言っても、科学の元になったものや宗教的なものから漫画やゲームの中の魔法まで幅が広いため取り上げると収拾がつかなくなるのだ。

「魔界の大気中にある物質がマナであり、マナの持つエネルギーのようなものを魔力と呼んでいます。魔力を使って起こす何らかの現象を起こすことを魔術、これら全般のことをまとめて魔法と言います」

「一応、定義はあるんだな」

「曖昧なところもありますけどね。我々も一連の流れを魔法を使うとしか言いませんし」

「当たり前のように魔法が使えるから、あんまり意識したことないよな」

「ただし人間は、これは魔界にいる人間の話ですが、魔法を使うには訓練が必要なようです」

「そうなんだ」

「我々魔物は大気中のマナを体内に取り込んで使用しますが、人間は体内のマナの利用には長けていないようです。そのため、魔法を使うのに集中するための呪文の詠唱が必要だったりアイテムを利用して補助したりと工夫しているようです」

「そういうことろが人間らしいって感じするよな」


「魔物の場合、より多くのマナを体内に溜めることができたりマナを扱うのがうまかったりする種族が有利になりますからね。その頂点が魔王と呼ばれる存在になるのでしょう」

「なるほどな。魔王っていうのは魔物の王というだけじゃなく魔法の王でもあるんだな」

「マナを溜めることができるのは魔物だけではなく、そういう性質の鉱物もあります」

「それが魔法石だな」

「ええ。質のいい魔法石に魔法陣などを刻んでおくことで、魔法石に溜めこんだマナを利用して魔法を発動できます。そういった魔法石を武器などに加工することで魔法の使えない者でも魔法を発動することができます」

「ああ、そういうアイテムあるよな」

 マジック・アイテムと呼ばれるものである。

「ついでに魔法陣についての話もしておきましょうか。魔法陣とは魔術の術式が描かれた記号のようなものです。複雑な魔法を使用するときの補助であったり、術者がその場にいなくても一定の条件で魔術が発動するトラップのような使い方もできます」

「魔王様が時間を戻すために使っていたのは補助目的だろうな」

「あの手の地面に描くタイプの魔法陣は魔法石を砕いて作ったインクのようなもので作るのが一般的です」


「シュウクレムの核となる魔法石にも何らかの魔法陣が描かれているのでしょう。魔法石にため込んだマナを利用してゴーレムとして活動するためものだと考えられますが、どんなものかは私も知りません」

「土や岩や埃なんかで体を作る魔法なんだろうな。魔法石に溜まったマナを利用して動いているなら、そのうち魔力を使い切って動かなくなるのかね」

「いつかはそうなるかもしれません。猫として活動するのにさほどエネルギーは使わないと思いますが、定期的に魔界へ戻った方がいいかもしれませんね」


「魔法って属性で分類されるよな。水、火、風、土って」

「分類と言ってもイメージ先行です。たとえば、かつては転移魔法を水属性に分類していました。川や海などは境界ですから、それを越えると言うことは別世界に行くことを意味していましたからね。人間の世界でもあの世とこの世の境を三途の川と言いますし、そもそもあの世意味する黄泉は黄色い泉と書きますよね。魔界でも水は違う世界と密接に関係していると考えられました」

「なるほど」

「ただ、今なら異なる分類になるのでしょうか。火属性である私も転移魔法を使っていますからね」

「やっぱり対になる属性とは相性が悪いものなのか? 火と水、風と土、光と闇。これが対になっているんだよな」

「一応そう言うことになっています。水は火を消し、火は水を乾かします。風は土を風化させ、土は風の流れを止めます。光は闇をかき消し、闇は光を飲み込みます」

「そうそう、そういうイメージだ」

「魔法の属性分類と言うのはイメージによるものが大きいです。水が氷や水蒸気に姿を変えても元に戻るように水の魔法は循環をイメージした相互通行な変化をイメージしたものが多いです。それに対し、火のイメージの魔法は一方通行の変化をイメージしたものが多いですね。燃えたものが元に戻らないように」

 水は可逆的、火は不可逆的な反応を象徴している。

「ああ、そういうところあるよな」

「風のイメージが自由に動き回ることならば土のイメージは固定すること。アクセルとブレーキのようなものですから相性は悪いですね」

 運動エネルギーを増やすのに風の魔法なら速度を上げ、土の魔法なら質量を上げるイメージである。


「特にイメージとしての要素が強いのは光と闇でしょうね。光の魔法は生や秩序を、闇は死や混沌を象徴しています」

「まあ、ありがちだよな」

「それはつまり光属性はルールを守ること、闇属性はルールを破ることと言えるわけです。時間を逆行させる魔法など、道理から外れた闇属性魔法と言えるでしょうね。ただ、問題もあります」

「問題って?」

「たとえばですね、光属性の最高峰に死者を蘇らせる魔法があるらしいですが、これをどう思いますか?」

「どうって、死は闇で生は光のイメージだから不自然なところはないだろ」

「でも、死者をよみがえらせるなんて、もっともこの世のルールから外れた行為だと思いませんか?」

「あれ? 言われてみれば、そうだな」

「勇者は光の象徴、魔王は闇の象徴とされますが、たとえば闇属性である魔王様が死者を蘇らせる魔法を使っても違和感がなくなります」

「確かにそうだな」

「そのうえ、闇属性はルールを破ることの象徴ですから、闇属性の魔王様が光属性の魔法を使って死者の蘇生を行っても問題ないことになります」

「え、あれ?」

「ルールを破ることをルールに組み込むことで整合性が取れなくなってしまいます。闇属性というのは自己矛盾をはらんでしまうのです」

「よく分からないな」


「もともと闇と言うのは未知なものに対しても使う言葉ですからね」

「そうなんだ」

「未確認物質を暗黒物質――ダークマターと言いますからね。そういえば、魔力の元となるマナもダークマターの一種なのかもしれません」

「ダークマター? なんだよ、そのかっこよさげなものは」

 真洋は自分の琴線に触れたフレーズについて興味ありげに尋ねる。

「宇宙の質量を測ったときに、測定方法によって大きな差があるのですが、その差を埋めるために考え出された仮説の物質です。片方の測定方法では測ることができない未知の物質ということですね。簡単に言うと、そんなところでしょうか」

「思ったよりもガチなものだった」

 この説明に真洋は早くも興味をなくしかけているようである。

「ダークマターの正体としてニュートリノなんかがその一種とされていますね」

「ニュートリノ?」

「知りませんか」

「やーね。二人して母さんの噂話をしているの?」

 唐突に羽春が真洋と辰人の会話に割り込んできた。

「俺たち別にお前の話しなんてしてねーよ」

「ええ。話題にしていたのはニュートリノであって巨乳鳥女ではないです」

「急にくだらないこと言いだしたな」

「なによ、そうやって仲間外れにするのね。あたし髪を噛んで悔しがっちゃうんだから」

 羽春はそう言うと自分の髪の毛を噛むようなしぐさを見せる。

「悔しいときに噛むのは『ほぞ』だよ。ほぞってヘソのことらしいぞ」

「真洋。このボケの肝はそこじゃないんですよ。母さんナイスボケ」

 辰人と羽春はお互いに親指を突き立ててたたえあった。

「何だこの夫婦」

 これはニュートリノの観測施設がカミオカンデということから『髪を噛んで』とかけた、ただそれだけの話である。

 この、あらかじめネタ合わせをしていたとしか思えないわりに誰向けのネタなのか分からないやり取りを見せてきた両名を、真洋はあきれた様子で見るしかなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ