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-6話- 四天王土属性のインスパイアされたものはどうやら裸の王様 その2

 君守家に夕貴とその母が遊びに来ていた。


「本当に子育てっていろいろあるのね。こんなに大変だと思わなかったわ」

 朝太の母親役の羽春はそんな愚痴をこぼす。子供たちを庭で遊ばせながら外へ出るためのサッシから外を覗くように親同士が話をしている構図である。

「まあ、まあ。なかなか慣れないものだわよね。慣れたと思ったら新しいことを始めるから退屈しないわ」

 夕貴の母が答える。夕貴の母と羽春はママ友のようになっていてこんな会話も繰り広げる仲である。

「そんなことを言っているうちに庭で遊んでいた子供たちがいなくなったわ。道路に出てないでしょうね」

「ああ、二人して物置に入ったみたいだわよ」

「ちっとも目が離せないんだから」

 君守家の庭には物置が設置してあり、生活感を演出してある。

「ええ、子供って乳児のころは何もできなくて大変だったけど、動けるようになったらなったで大変なのよね。親の役目はまだまだ続くわ」

「動物だったらもっと大人に近い形で生まれて来るのに。子供ってもっと完成品に近いものだと思っていたわ」

 羽春は朝太を乳児から育てたわけではないが、それでもそんなことを思うほど子育てとは大変なものなのだろう。

「そうね、手間をかけて育てていかなきゃいけないものだわね。でも、未完成だからこそ育て方によってどんな大人になるのか変わってくるんだわ」

「子供がどんな大人になるかは親次第ってことね」

「そうそう。でも、親が子供を完成させようとしちゃ駄目なのよ。子供が未完成の自分を完成させることができるようにすること。親にできるのはそれだけなのよ。これは育児書からの受け入れだけどね」

「人間は未完成だからこそ自分を完成させようと努力や工夫をしていくものなのね。人間の強さの秘密を知った気がするわ」

 羽春は夕貴の母の言葉にひどく感銘を受けたようである。

「あら、あら。大げさだわよ。でも、人間が未完成だってのはこの歳になっても感じるものよね。子供に自分でやらせなくちゃいけないって分かっていることでも、あれこれ口や手が出ちゃうんだから」

「それ、分かるわ」

「そう、そうよ。子供が自分でやりたいって言い出してもさせないことはあるんだわよ。親がやった方が早いからね。本当は自立させるチャンスなのに。忙しいときにそんなこと言われたら我が儘に思えるんだわ」

「ええ」

「でも、でもね。我が儘を言うのもいいことなのよ。子供の我が儘ってものは親を信頼しているからそこ言うものなんだから」


 羽春と夕貴の母が話に花を咲かせている一方で、辰人と真洋は別の部屋に追いやられていた。

「学校での生活はどうですか? 真洋」

「なんだその、久しぶりに子供と会話して何を言っていいか分からない親父みたいなセリフは」

 こちらの話に花は咲いていないようだった。

「あなたには魔王様の護衛のほか、我々が人間世界で生活するうえで知っておくべきことを学んでもらう任務をしてもらっています。何も報告がないから問題はないだろうと思っていますが、確認しておくことも必要でしょう」

「ああ、仕事の一環として聞いているわけだな。だけど、少し仕事から離れた方がいいんじゃないのか」

「仕事を休んでいる間に仕事のほうも休んでくれるなら休みますけどね。現実は休めば仕事が溜まっていく一方です」

「おおう、愚痴を言い始めた」

「こんなことが言えているうちはまだ平気ですよ。言いたいことを言えない方がストレスになりますからね。それはあなたも同じですよ。特にあなたは任務の性質上、人間と接触する機会が多くなりますから。不慣れな環境や人間にストレスを感じていませんか?」

「……いや、正直馴染みすぎなくらい適応していると思う」

 ストレスどころか人間としての暮らしを楽しんでいるのではなかろうか。

「それならいいのですが。気をつけなさい、我々と人間とでは感性が違います。何気ない一言に怒りを感じることがあるかもしれません」

「今のところないかな。ああ、でも逆のパターンならあったぜ」

 真洋はふと思い出したようにそんなことを言い出す。

「どういうことですか?」

「普通なら怒るなり憤るなりすることを言われたんだけど、そんなことは感じなかったってことがあった」

「興味深い話ですね」

「学校でさ、俺が朝太の遊び相手になっているって話をしていたんだけど、弟とレベルが同じなんだって言われたことがある」

「おやおや、嫌味のつもりで言ったのでしょうか」

「だけど、俺が魔王様と同じレベルだなんて恐れ多いよな」

「まあ、そうなりますよね」

 嫌味を言った相手もそんな受け取られ方をするとは思っていなかったであろう。


「それとは別にもう一つ同じようなことがあったけど、あれはまた別の話なんだよな」

 真洋は苦笑いを浮かべる。

「どんなことがあったのですか?」

「下校のときに寄り道して行こうと誘われたんだけど、朝太の面倒を見なきゃいけないから帰るって答えたときだ。『子供が泣くから帰るなんて、山上憶良やまのうえのおくらかよ。本当はママの方が恋しいんじゃないのか?』って」

「そんなことを言うなんて、虫の居所でも悪かったんですかね」

「いや、そのあと続けて、『ふん、お前みたいなやつは家に帰ってママ特性のミルクでも飲んでな。あと、その際はぜひご自宅に招待してください』って続けたから、それが言いたいだけだったんだと思う」

 ちなみにそんなことを言った友達とは伊勢という男子である。

「なかなか面白いお友達ですね。私としては山上憶良を引用する部分の方に痺れるものを感じましたけれど」

「ちょうど授業でやったところだからな」

「なるほど。そういうことでしたか」


「それにしてもさ、ハハルアピってハーピーだろ。鳥女なわけだろ。あの胸だってただの鳩胸なんじゃないのか?」

「鳩は平和の象徴ですからね。あれが鳩胸ならば大きな胸は平和の象徴と言うことでいいんじゃないでしょうか」

「……お前、そんなこと言うキャラだっけ?」

「いいじゃないですか。たまには」

 こんなことを言い出すなんて、やはり仕事のし過ぎでストレスが溜まっているのかもしれない。

「ドラゴンってもっとプライドが高いものだと思っていたぜ」

「私の場合は種族よりも仕事に対してプライドを持っていますよ」

「社畜ぎみの言葉だな」

「正直、猫の手を借りたいほど忙しいですからね」

「やっぱり俺も少しは仕事を手伝った方がいいのかね」

「魔王様の護衛も人間としての生活も立派な仕事ですよ」

「でもさ、俺はマーマンとして魔界の海じゃ敵なしだったわけよ。それが今じゃ人間として学校の勉強を頑張るのが仕事だなんて、夢のない話だよな」

「夢なんて寝ている時だけで十分ですよ。私なんて寝ている時も仕事の夢を見るようになりましたけどね」

「おおう」


「そういえばさ、最近誰かに見られているような妙な気配を感じることがあるんだ」

 真洋は話題を変えようと思ったのか、そんなことを切り出した。

 社畜という現実から目をそらすことにしたようだ。

「おや、気になる話ですね」

「確証があるわけじゃないし、気のせいだと言われればそれまでのことなんだけどな」

「しかし、警戒は必要かもしれません。魔王様を狙うものが覗いているのかもしれませんからね」

「警戒と言ってもどうするんだ?」

「たとえばゴースト系の魔物に見回りをさせるというのはどうでしょう。昨日は転移魔法に紛れ込んで連れてきてしまいましたが今度は正式に連れて来るのです」

「駄目だろ。あいつ薄っすらと見えるもん」

「基本的に彼らは魔力を持つ者にしか見えないですよ」

「魔王の座を狙う魔物だったら魔力はあるだろ」

「ゴーストのほうが魔力が高ければ、自身より魔力の低い者には姿が見えなくなるものです」

「都合よくそんなゴーストが見つかるとも思えないぜ。シュウクレム軍のメンツまで把握してないからな」

「それなら石像のモンスターであるガーゴイルに監視させるというのはどうですか」

「ガーゴイルってお前の部下にいたな。魔王城の掃除していた働き者の子。あれも仕事中毒っぽいから監視させたら一晩中見てそうだ」

「彼女ならばそうするかもしれませんね。石像なので睡眠の必要もないでしょうし」

「あんな石像を家の外に置いておいたら目立って仕方ないだろう。人間に化けさせて女の子として外に突っ立っていたら通報されるだろうし」

「何にせよ彼女はあれでもうちの副官なので、そんな仕事をさせるわけにはいきませんけどね」

「え、あいつそんなに偉かったんだ。てっきり雑用係かと思っていた。あいつがやっているのって副官の仕事じゃないし」

「掃除やお茶くみは本人がやりたいと言うのでやらせていますが、彼女の実力は高いですよ」

「戦闘能力さえ高ければ上に行けるのが魔物の世界だからな。そんなこともあるだろう」

 魔物は基本的に自分より力の強いものの言うことしか聞かないものである。魔王軍でも強ければ上に行くので役職に性格などはあまり考慮されない。

「あの手のモンスターの性格は製作者や魔力を込めたものの影響を受けますからね」

「ふーん。もしかして、あれを作って魔力を込めたのってお前なのか?」

「そんなことないですよ。どうしてそう思ったのですか?」

「いや、メイド服なんて着せて随分お気に入りのようだったからさ」

「あれは私の趣味じゃないですよ。服装も自由にさせているだけです。私の趣味だと思われているようですが、どうしてそんなことになってしまったのでしょうね」

「メイド服はお前の趣味かと思って、俺が軍の中でそんな話をしたかもしれない」

「……あなたの仕業でしたか。ちなみに、あのガーゴイルの作成者は魔王様なんですよ」

「うお、まじか」

「今も朝太は折り紙遊びなんかをやっていますけど、魔王様は昔から工作も得意でしたからね。モンスターの作成もやっていました。ガーゴイルのほかにも人工知能を組み込んだロボットを作って今ではシュウクレム軍の副官をしています」

「そんなことになっていたのか」

「知りませんでしたか。魔王軍の副官ってみんなそんな感じなんですよ」

「どこかで聞いた気もする話だな」

「話を戻しますが、誰かの視線を感じたのなら一応の警戒はしておいてくださいね」

「ああ、そんな話だったな」

「現実問題として、四天王以外の魔王軍のメンバーに魔王様のことを知られたくありませんから、我々でお守りするしかありませんよ」

「そうだな」

 意外と話に花が咲かせていると、部屋の外から朝太のバイバイという声が聞こえた。

「どうやらお客さんたちは帰るようですね」

「当初の勇者から魔王様を守るって話はどこいったんだろうな」


 夕貴とその母が帰った後。

「羽春はどうしてあんなに落ち込んでいるんだ?」

 真洋が辰人に聞く。

「朝太が我が儘を言わないことが原因らしいです」

「なんでそんなことで落ち込んでいるんだよ」

「朝太が我が儘を言わないのは自分が信用されていないんじゃないかって落ち込んでいるようです」

「なんだか面倒くさい話だな……ん?」

「どうかしましたか?」

「いやさ、今誰かの視線を感じたような……」

「おやおや、早速お出ましですか」

「誰だ、そこにいるのは! 何をしている!」

 真洋が視線を向けた先には朝太がいた。

「何もしてないよ……」

 そう言うと朝太は逃げるように走っていった。

「いやあぁ! 違うんだ朝太! お兄ちゃんが悪かったあぁ!」

 真洋は朝太を追いかけて走っていく。

「素っ頓狂な声を出さないでください。しかし今の朝太、どこか変でしたね」

「真洋が怖かっただけじゃないの?」

 羽春が答える。

「どうもそれだけではない気がします。最近何か変わったことはありましたか? 朝太の様子でもそれ以外のことでも構いません」

「そうねえ、ものがなくなることがあるのよね。お皿とか、バスタオルとかちょっとしたものなんだけど。真洋が使って戻し忘れただけだと思っていたけど」

「おそらくそうではないでしょう。なんとなく事情は分かりました。さて、どうしたものですかね」


「大きな声を出してお兄ちゃんが悪かった。許してくれ」

「ぼく、怒ってないよ」

「さすが朝太は優しい子だ」

 真洋は感涙を流しそうになる。

「……お兄ちゃんも優しいよね?」

「どうした。お兄ちゃんに怒られるようなことして言いだせないのか?」

「見てほしいものがあるんだ」

 そう言うと朝太は真洋を物置の中へ連れて行った。

 物置の中にはお皿とバスタオルが置いてあった。

「……これは」

「夕貴ちゃんにも見せたんだけど、ちゃんと話した方がいいって」

「俺は勇者より後だったのか」

 ちょっと肩を落とす真洋。

「お兄ちゃん、どうしたらいいかな」

「そうだな。俺もちゃんとお父さんとお母さんに話した方がいいと思う。俺たちだけじゃどうしようもない」

 真洋の目には、段ボール箱に入ったバスタオルに包まれ、皿に注がれたミルクをなめる猫の姿が映っていた。

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