-6話- 四天王土属性のインスパイアされたものはどうやら裸の王様 その3
辰人と羽春の前にテーブルをはさんで朝太と真洋がいた。みな一言も言葉を発さず押し黙っている。
「それで、話と言うのは何ですか」
辰人が沈黙を破る。
「あのね、えとね……」
朝太がなかなか言い出せないでいる。
「俺から言おうか?」
真洋が助け舟を出そうとするが朝太は首を横に振って断る。
「猫をね、拾ったの。飼いたい、です」
意を決したように朝太が口を開く。
「……やはりそういうことでしたか」
辰人がため息を吐く。
「気がついていたのか?」
「なんとなく推測はできましたからね。でも、飼うかどうかは別の話ですよ。生き物を飼うってことは大変なことです」
「ちゃんとお世話します。僕のご飯を半分あげます」
「猫に人間のご飯をあげちゃいけませんよ」
「そういう話じゃないだろ。とにかく、俺からも頼むよ」
真洋は朝太の援護に回る。
「可愛いからとか、可哀そうだからという理由だけで安易に生き物を飼うのは猫にとっても不幸なことです。思っていたのと違っていたからと言って途中でやめるわけにはいかないんですよ。家猫の寿命は十五年とも二十年とも言われています。その間、ずっと猫を中心にした生活をすることになります。それでもいいんですか?」
「はい」
はっきりとした声で朝太は返事をする。
「猫を飼うなら猫のことをよく知る必要があります。先ほども言いましたが人間と食べるものが違います。牛乳を与えるのこともよくないです。そういうことをきちんと勉強できますか」
「はい」
「猫を飼う環境も整えないといけません。猫に危険がないように部屋のお片づけをきちんとできますか」
「はい」
「朝太は飼い主として猫のお手本にならなくてはなりません。猫が病気にかからないように注射を打つ必要があります。朝太も同じように注射を怖がらずに打てますか」
「……はい」
ちょっと躊躇しながらも返事をする。
「……分かりました。今の決意を忘れてはいけませんよ。でも、動物を飼うなら家族みんなの意見も聞かないといけませんね」
「あたしは構わないわよ」
「もちろん俺も反対はしない」
「それでは猫を飼うことにしましょう。きちんとお世話をするんですよ」
「はい!」
「さ、そうと決まれば猫ちゃんに必要なものを買わなきゃね。餌やトイレね。朝太ちゃん、準備しましょう」
「うん!」
「その前に物置の猫を家の中に連れてこなくちゃな」
「わかった!」
朝太は元気よく返事をすると物置へ向かった。
「……よかったのか? 猫なんて飼って」
朝太が部屋を離れた隙に真洋が辰人に尋ねる。
「魔王様のやりたいことに我々が反対できるわけがないでしょう」
「それなら、どうしてすんなり飼うって言わなかったんだ?」
「一応、親としてのポーズも示しておきませんとね」
「どさくさに紛れて朝太に予防接種を受けさせようと仕向けたよな」
「魔王様が人間だと分かった以上、必要なことですからね。利用できるものは利用しましょう」
「うーん、悪い奴。だけど、猫一匹とはいえ負担が増えるのは家計が心配だぜ」
君守家の収入源は辰人の正体であるドラゴンの角を一本売って賄ったものである。真洋はそれを心配しているようである。
「まあ、それくらいの増加分ならなんとかなるでしょう」
「いざとなれば、角はもう一本あるからな」
「ちょっ、やめてくださいよ」
「冗談だよ」
「羽春さんはよかったのですか」
「もちろんよ」
「なんだか、機嫌がよさそうだな」
「だって、朝太が我が侭というか、自分の主張をしてくれたのよ。うれしいじゃない」
「拾った猫を飼いたいっていうのが我が侭だっていうのが、朝太らしいといえばらしいけどさ」
そんな会話をしているところに朝太がバスタオルの入った箱を抱えて戻ってきた。
朝太はそっと箱を置くと、バスタオルに包まれたものを取り出す。
「かわいいでしょ」
「三毛猫の一種でしょうか」
「全体的に茶色だけど、背中から頭にかけでは黒いんだよな」
「あら、本当。上の方が黒いのね」
口々に猫を見た感想を言う。
「そうだ。この子に名前を付けないといけませんね」
「それなら、この見た目から思い浮かんだ名前があるわ」
「俺も」
「私も思いつきました」
「それじゃ、みんなで発表しよう。どんな名前にするかは朝太に決めてもらえばいいわ」
「エクレア」
「プリン」
「信玄餅」
そろいもそろってお菓子の名前を挙げる四天王たち。
「やーね。エクレアって、どうしてそんな名前にしたのよ」
「背中が黒いところがチョコレートに見えたもんだからさ」
エクレアは真洋の案である。
「あたしも黒いところがカラメルっぽいと思ったのよ」
プリンは羽春の案である。
「私も同じです。私の場合、黒い部分は黒蜜ですが」
信玄餅は辰人の案である。
「朝太はどれがいい?」
「なんか、食べたいお菓子を聞いてるみたいだよな」
「うんとね。カステラ」
朝太は上が黒っぽいお菓子の名前を言うゲームだと思ったのか、そんなことを言い出す。背中の黒い部分をカステラの焼き目に見立てたようである。
この結果、君守家の新しい家族の名前はカステラとなった。
朝太と羽春は猫を飼うために必要なものを調べることにした。その間、辰人と真洋が猫を見ているという形になっている。
「朝太は水族館や動物園にも興味津々だったし、動物が好きなんだな」
「魔王様は昔から動物が好きでしたからね」
「そういえば魔王城にも犬がいたよな。三つ子のワンコのケルベロス。あいつら犬にしか見えないし、人間界でも違和感なく飼えそうだ」
一般的にケルベロスとは一つの体に三つの首を持つ犬型の魔物であるが、魔王城にいる個体は三匹の犬にしか見えない。
「あのケルベロスは魔王様のお気に入りでしたよ。魔王様自らよく散歩をさせていました。それに、犬だったら番犬として使えたかもしれませんね」
「まあ、猫じゃ頼りにならないよな」
「いやいや、猫だって頼りになるのニャ」
「……真洋。今、何か言いましたか?」
「俺じゃねーよ。お前じゃないのかよ」
「いえ」
「カステラなのニャ。吾輩は猫なのニャ」
朝太が拾って来た猫である。名前はもうある。
「……この世界の猫ってしゃべるのか?」
「そんな情報はないです。翻訳魔法の誤作動でしょうか」
「違うのニャ。吾輩、見た目は猫だけど、正体はシュウクレムなのニャ」
「シュウクレムって、ゴーレムのシュウクレムなのか?」
「その通りニャ。魔法石を核にして猫の体を作ったものなのニャ」
「確かにこの猫からあの魔法石の魔力を感じますね」
「本当かよ。そういえば、飾ってあった魔法石がなくなっているな。どうしてこんなんことになってるんだ」
「吾輩、ずっと意識のようなものはあったけれど、核だけでは動けなかったのニャ。でも、うっすらと積もった埃を集めることで動くようになったのニャ。それで、転がることで雪だるまのように徐々に大きくなって、ついには庭に降りて土で肉体を作ったのニャ」
「その猫の毛に見えるのもゴーレムの体なのか」
「そうなのニャ。吾輩、昔と同じように土や鉱物でできておりますのニャ」
「毛のような鉱物って、まさか、アスベストじゃないだろうな」
「いや、その辺は健康に気を使った素材でできておりますのニャ」
「お前もずいぶん苦労したようだな」
真洋は同情するようにため息をつく。
「まったくだニャ。それにしても、どうしてお皿やバスタオルがなくなっていることに気づいて吾輩の魔法石がなくなっていることに気づかないのニャ」
「面目ないことです」
「そもそもさ、シュウクレムってしゃべれないゴーレムのはずが、どうしておしゃべりな猫になってるんだよ」
「そんなこと吾輩に言われても返答に困るのニャ」
「推測ですが、シュウクレムは魔王様から魔力を受けて動いている魔物ですから、その影響ではないでしょうか」
「ああ、朝太が猫を飼いたいと思った影響でこうなったってのは、ありそうな話だな」
「あるいはニャ、タリュートゥが猫の手が借りたいなんで言うからこうなったのかもニャ」
「本当に猫の手を借りたところで役に立たないだろ」
「そもそもそんなに忙しいのか疑問だけどニャ」
「いや、相当なものだぞ」
「マカマフィン、おめーは素直なやつだニャ。タリュートゥは口では忙しいと言っているけど、実はそこまで大変じゃない可能性があるのニャ」
「ちょっと、変なこと言わないでくださいよ」
辰人が心外と言わんばかりに抗議してくる。
「仕事が忙しいことにして家庭のことをやらないで済むようにしたいんじゃないのかニャ。まったく、仕事と家庭どっちが大切なのニャ」
「嫁の愚痴みたいなこと言わないでくださいよ」
「おめーの一番の仕事は朝太を育てることニャろ」
「ちゃんとやっているじゃないですか」
「さっきも吾輩を飼うことを出汁にしてしつけていたけどニャ、そんなことは猫を飼う飼わない関係なしにやらなきゃいけないことなのニャ。子供はそういうの結構見透かすものニャよ」
「もう、その辺にしておいてやれよ。朝太にとっちゃ親が猫に説教されていることの方がショックがでかそうだ」
真洋は見ていられなくなったのか、止めに入った。
「まあ、あの子は順調に育っているようだニャ。きっと立派な人間になるニャろ」
「ああ。立派な人間に……してどうするんだろうな。立派な魔王にしなくちゃならないんだった」
「ところで、シュウクレム。どうしてそんな一人称なんだ?」
「この国の猫はこういう一人称だというのが吾輩の調査結果なのニャ」
調査対象は猫が主人公の有名な小説である。
「それ、特定の猫だけだぞ。あと、その猫の語尾はそんなんじゃなかったはずだ」
「これも調査結果なのニャ。いろいろな猫を調べたのニャ」
「猫というより猫キャラだな」
「吾輩はタヌキじゃないのニャ!」
「適当な猫キャラからセリフをパクってるんじゃねーよ。それに、そのキャラはそんな語尾じゃない」
「未来のドラちゃんはこんな感じかもしれないのニャ」
ドラちゃんとは国民的人気アニメの猫型ロボットのことである。
「あれって元々未来のもんだろ。そもそもお前が参考にすべきなのは猫キャラじゃなくて猫そのものだろうに」
「おお、それはうっかりしておりましたのニャ」
「シュウクレムさ。お前、動けなかった割にこの世界のことに詳しいよな」
「それはニャ、あれよ。核のままでも意識はあったから話は聞いていたのニャ」
「もしかして、俺が誰かの視線を感じていたのって、お前だったのか?」
「そうかもしれないのニャ。もしかしたら、視線は感じても馬鹿には見えないのかもしれないニャ。まるで裸の王様だニャ」
「その一点のみで裸の王様を言い張るのかよ」
「まあ、猫なんて基本的に裸ですからね。ぴったりでしょう」
「裸どころか吾輩、むき出しの核のまま放置されておりましたのニャ」
「ちょっと待て」
そんな会話をしていたら真洋が話を止めた。
「どうしました?」
「……おかしい。まだ視線を感じる」
そう言って真洋が窓を見ると、外から夕貴がのぞき込んでいた。
「なんだ、勇者か。忘れ物か?」
窓を開けて夕貴に声をかける。
「猫は、猫はどうなった」
「ああ、そういえば朝太が見せたって言っていたな。猫ならうちで飼うことになったよ」
「そうか、よかった。また猫の頭をなでられる」
夕貴は安堵したような顔を見せる。
「なんだ、猫の心配をして様子を見に来たのか。お前、優しいところあるな」
そう言って、真洋は夕貴の頭をなでる。
「ふん。褒められたってうれしくないんだからな」
夕貴は顔を赤らめて否定するのだった。
6話 終
インターバルをはさんで7話へ続きます




