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-6話- 四天王土属性のインスパイアされたものはどうやら裸の王様 その1

 少しばかり早い夏の訪れを感じさせる、ある蒸し暑い夜のこと。

 乾かない汗がまとわりつく不快感に誰もが嫌気を感じる、そんな日のことだった。

 それは、何かが起こるにはおあつらえ向きな、そんな夜だった。

 

 一つの家。その家から明かりが漏れているのは一つの窓。

 闇の中から切り取られたように四角の窓が浮かび上がっている。

 その窓から闇に包まれた外の様子をうかがう大小二つの影があった。


「お化けでも出そうだね、お兄ちゃん」

 二つの影のうち、小さい影のほうがそうつぶやいた。

「怖いのか?」

 お兄ちゃんと呼ばれたほうがそう尋ねる。

「うん、ちょっと」

 小さい影の少年は素直にそう答える。

「家には俺たちしかいないから、いつもより静かだもんな」

 父親と母親が遅くまで出かけていて兄弟二人で留守番をしている。そんなことを連想させる会話だった。


「パパもママも遅いね」

 不安を口にしたことで余計に不安になっているようだった。

「大丈夫さ、お化けが出てきてもお兄ちゃんがやっつけてやるから」

「うん……」

「さあ、もう寝よう」

 そう言うと部屋の明りを消し、バタンとドアを閉めてその場から出て行く。


 誰もいなくなった部屋に残された暗い窓には、中を覗くような二つの目。

 続いてにやりと笑う口が浮かび上がる。

 窓に浮かぶ目と口は生きている者が持つものではなかった。


「覗きはよくないぜ」

 お兄ちゃん――真洋が闇に浮かんでいた目と口を持つゴーストと呼ばれるモンスターの背後に立っていた。

「え?」

 突然後ろから声を掛けられて戸惑うゴースト。

「お前、ゴーストのくせに驚いてんじゃねーよ」

「え? いつの間に後ろへ回ったんすか?」

 回り込むといっても、このゴーストは黒い霧状の体に目と口がつただけの薄っぺらい感じのモンスターで裏表があるのかも微妙なやつなのである。

「裏口からそっと出て回り込んできただけだ。妙な気配を感じたからな」

「突然後ろから声をかけないで欲しいっす。心臓に悪いっす」

「ゴーストに心臓はないだろ」

「普通、お化けのほうが後ろから驚かすものなんすけど」

「お前やっぱり、お化けだぞーとか言って脅かす腹積もりだったんだな」

「いや、そんな律義に自己紹介するゴーストはいないっす」

「俺もそんなゴーストいるとは思ってないけどさ。まあ、挨拶でもしてきたらこっちも丁寧に対応してもよかったんだが、脅すつもりなら遠慮はしないけどな」

「あの、それじゃこの辺で失礼するっす」

 真洋にやばいものを感じたのか、ゴーストが逃げようとする。

「逃がすかよ」

 真洋が右手でゴーストの喉元――らしき箇所を押さえつける。

「く、苦しいっす」

「そんなわけないだろ。ゴーストが呼吸なんてするか?」

「いやこれメンタル的なものっす。それより、なんでゴーストに触れるんすか」

「世の中には素手で触りたくないってやつもいるけど、俺は平気だからな。カブトムシも触れるぞ」

「いや、カブトムシと一緒にしないで欲しいっす。気持ちの問題じゃなくて物理的な話っす」

「ゴーストが物理を語るのかよ。存在すること自体疑わしいのによ」

「存在している以上、それを否定されても困るっす」


「なんでもいいけど、お前、人の家を覗いて何をしようとしていたんだよ。ゴーストだから人を驚かそうかとしていたんじゃないだろうな」

「いえ、そんなんじゃ……」

「うちの朝太を脅そうとすることは命が惜しくないってことだぞ。いや、ゴーストだから命はもうないのか」

「驚かすが脅すに変わってるっす。脅しているのはあんたの方っす」

「意外と余裕あるな。なんにしても、人の家を覗き込んで笑うなんて不審者そのものだぞ」

「実は変なところに迷い込んで困っていたっす。覗いていたのはここがどこか知りたいだけだったっす。人がいたから話が聞けると思ってにやりと笑ったまでっす」

「するとやはりお前でよかったようだな」

 真洋は何かに納得したような素振りを見せると、右手のゴーストを左手に持ち替えてスマートフォンを取り出した。


「なにしているの、お兄ちゃん」

 パジャマに着換えた朝太が、外で騒いでいた真洋に話しかけて来る。

「おう、寝る準備はできたか朝太。怖いお化けがいないかお兄ちゃんが見回っていたんだ。だから、これで安心して眠れるぞ」

 ゴーストを掴んだ左手を背中に回して隠し、真洋はそう答える。朝太にゴーストが見えるのかどうか分からないが念のためである。

「ありがとうお兄ちゃん。おやすみなさい」

 兄の言葉を本気と思ったのかは分からないが、朝太は礼を言って床に就いた。

「少年よ、お化けよりもお前の兄ちゃんの方がよっぽど怖いっすよー」

 ゴーストは誰にも聞こえないような小さな声でそうつぶやいていた。


「ただ今戻りました」

 辰人と羽春が帰ってきた。

「お帰り。探していたのはこいつだろ」

 真洋が手に掴んだままのゴーストを見せる。

「そのようですね。連絡ありがとうございました」

 辰人と羽春は真洋の連絡を受けて帰ってきたようだ。

「やーね。ずっと家にいたのかしら」

「灯台元暗しだったな。それで、どうしてこんなものがいるのか説明してくれよ」

 真洋はゴーストがこの場にいる詳しい事情は聴いていないようで、辰人にそう尋ねる。

「いつものように、転移魔法で魔王城から戻ってきたとき、このゴーストを魔法に巻き込んでしまったようです」

「それで、転移してきた後逃げられちゃったのよね。あたしも探そうとしたんだけど、なかなか見つけられなかったのよ」

 羽春ことハハルアピは魔力の検知を得意としている。魔物は魔力を持っているので探せるはずであった。

「つまり、タリュートゥの近くにいたのに気付かれず転移魔法に巻き込まれてこっちに来ちまった上に、ハハルアピの魔力検知でも認識できないレベルの雑魚ってわけだな。この家のそばにいたんじゃ俺の魔力が邪魔して見つけにくいだろうけどさ」

「面目ないです。転移魔法ももう少し改善の余地がありそうですね。いつもなら誰もいないはずの場所にゴーストが紛れ込んでいたことも問題です」

「やーね。ゴーストと言えばシュウクレムの配下でしょう。上がいないから統率がとれていないのね」

「こちらも何か手を打たないといけませんね。やることが山積みです」

「根を詰めすぎるとよくないわ。少しは休んだ方がいいわよ」

「ああ、働き過ぎは体に悪いぜ。シュウクレムを見てみろよ。あいつなんて休みっぱなしだぜ。そういえば、あいつ随分放置したまんまだよな。この前見たときはうっすら埃かぶってたもん」

「やーね。小姑みたいなこと言わないの」

 シュウクレムはゴーレムで、その核である魔法石は君守家のリビングに飾られていた。

「さあ、このゴーストは悪さする前にさっさと魔界に送り返しましょう」

「あのー、あなたたちはいったい何者っすか」

 それまでおとなしく黙っていたゴーストが恐る恐る尋ねる。

「魔王軍四天王だよ。お前の上司のシュウクレムと同じな」

「な、なんでそんな方々こんなところにいるっすか?」

 ゴーストは、顔色というものがあるならば、真っ青になっていたところであろう。

「そんなことあなたは知らなくていいことですよ」

「そーよ。あたしたちがここにいることを誰にも言っちゃ駄目よ」

 にこやかにそんなことを言ってくる四天王たちに囲まれたゴーストは、生きた心地がしなかったことであろう。生きていれば。

 怯えるゴーストは四天王に逆らうわけもなく魔王城に送り返された。


「朝太はもう寝たようですね」

「ああ。俺たちも寝ようぜ」

「そうね。明日は夕貴ちゃん親子が遊びに来る予定なの」


 こうしてこの夜は、少なくとも表面上は何事もなく終わった。

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