-5話- 四天王火属性のパロディ元はどうやらマッチ売りの少女 その1
魔王軍四天王のタリュートゥは昼の間、魔王城で過ごしている。魔王および大幹部の四天王がそろって魔王城からいなくなっては軍の統率がとれなくなるので、そのための処置である。
もっとも、現在魔王軍は人間界への侵攻作戦は中止しているため、基本的に報告を受ける以外の仕事はない。そんなこともあり、タリュートゥは魔王城にある資料を調べることを日課としていた。この日もタリュートゥは転移魔法によって魔王城へ「通勤」し、書庫で調査をていた。
「タリュートゥ様ー。お茶が入りましたでございます」
そう言ってお茶を持ってきたのはガーゴイル娘のガトーラである。タリュートゥの指揮する軍の副官で、タリュートゥが魔界にいない間は彼女が軍の指揮を取っている。そして、彼女はなぜかメイド服を着ていた。
「ありがとう。そこへ置いていただけますか」
タリュートゥは微笑みながら応じる。
「分かりましたでございます。ところで、タリュートゥ様……」
「なんですか?」
「どうしてタリュートゥ様は人間の姿でいるのでございますか?」
魔王城にいるときもタリュートゥは人間である君守辰人の姿で過ごしている。
「書類や資料を調べるのにはこちらの方が都合のいいことが多いですからね。ドラゴンの姿では細かい作業には向きませんから」
「そうでございましたか。私といたしましてはそちらのお姿の方が好きなのでございます」
「おや、そうなんですか」
「ドラゴンのお姿はかっこいいのですが威圧的に感じてしまいますのでございますから」
「モンスターですから威圧感はあった方がいいでしょう。見た目だけで戦いを挑まれるのを諦めてくれたら無駄な体力を使わなくて済みますからね。魔王様なんて……」
タリュートゥは朝太の威圧感から程遠い姿を思い出したのか、軽くため息をつく。
「魔王様には威圧感というより威厳がございます」
現在魔王がどういうことになっているか、ガトーラは知らなかった。それは他の魔王軍のメンバーも同様である。魔王軍で君守朝太の存在を知っているのは四天王だけだった。
「我々四天王やその副官にも威圧感のある姿をしている者は少ないですからね。シュウクレムくらいでしょうか。もっとも、そちらも今は……」
ゴーレムであるシュウクレムは核である魔法石のみの姿で君守家のインテリアになっていて威厳のかけらもない。
「シュウクレム様はああ見えてお優しいところがございます」
「そうなのですか? 確かに石像モンスターのガーゴイルであるあなたに、ゴーレムであるシュウクレムが優しくても不思議はありませんよ」
「私が魔王城内の壺をうっかり割ってしまったところ、怒るでもなく暖かく見守っていてくださいたのでございます」
「彼はもともとしゃべらないですよね。それと、壺のことは後でちゃんと始末書を提出してくださいね」
「余計なことを言ってしまったのでございます」
そう言ってガトーラは頭を抱えた。
「私はそういうところ優しくはないですよ」
「ハハルアピ様もお優しいところがございます。私がお食事の用意をしていたところ、給仕をするならこの見た目も重要だとこの服をお勧めしてくださいました」
ガトーラはその場でくるっと一回転してメイド服をなびかせる。
「おや、そうなのですか。彼女の助言でそんな恰好をしていたのですね。誰の趣味なのかと思いましたよ」
ハハルアピは君守羽春という名で朝太の母親の役割を果たしている。
「ちなみに魔王軍内ではタリュートゥ様の趣味だと思われているようでございます」
「……どうしてそんなことになってしまったんでしょうね」
「マカマフィン様には威圧感というより威嚇されている気がしてしまうのでございます」
「ああ、マカマフィンはちょっと口が悪いですからね。でも、意外と面倒見のいいところもあるのですよ」
マカマフィンは君守真洋と名乗り、朝太の兄としてよく世話をしている。
「いつでしたか私が意外に明るい魔王城を目指して城内の掃除をしていると言うお話をいましたところ、魔王城に妙なキャッチフレーズをつけるんじゃねーと怒られてしまったのでございます」
「それ別に怒ってはいないと思いますよ。本人はフレンドリーなつもりなのでしょうけれど、部下たちには怖がられてしまうのも無理はないでしょうね」
「そうでございましたか」
「マカマフィンはあの若さで四天王になるほどですから、周りから恐れられて案外孤独だったのかもしれません」
「そうでございましたか。でも、それならば今は大丈夫でございますね」
「おや、それはどういう意味でしょうか」
マカマフィンが人間として朝太に兄としてたわれ、中学校に通い友達たちがいることは秘密のはずである。
「同じくらいの実力者である四天王の皆さんがいるから、でございます」
「なるほど、そうでしたね」
「ですが、魔王様くらいの飛び抜けた実力ですと孤独を感じるものなのでございましょうか。魔王様と同等の存在なんてございませんからね」
「そんなこと考えたことありませんでしたね」
「ところでタリュートゥ様は何をお調べなのでございますか?」
「魔王様が集めたりご自分の考えをまとめたりしたものを調べています」
タリュートゥは時間を戻す術や魔王という存在そのものについて調べているのだが、詳細は伏せている。
「面白いのでございますか?」
「魔王様による勇者の考察なんて資料もあって興味深いですよ」
「どんな考察なのでございましょう」
「勇者が魔王を倒すという伝承は知っていますよね。どんなに強大な力を持った魔王が誕生しても必ずそれを倒す勇者が現れるというものです」
「はい。私にはあの魔王様を倒せる勇者が存在するとはとても思えないのでございますけれど」
「それには私も同感です。とにかく、勇者が魔王を倒すのは、勇者が魔王という存在に対してつくられる世界に組み込まれたシステムのようなものであろうと言う考えが示されています」
「システムでございますか」
「ええ。さらに言うと勇者は特定の魔王にのみ有効な存在であろうという仮説が立てられています。ここでは勇者を免疫とだと例えています。体に侵入した細菌やウイルスという抗原に対抗して抗体がつくられるように、魔王の侵攻に対してその魔王に対抗できる勇者がつくられるという仮説です」
「なんだか難しそうなお話でございますね」
「魔王がこの世界を闇に閉ざす扉だとしたら、勇者はその扉を開ける鍵のようなものでしょうか」
「鍵と扉でございますか」
「ええ。扉は特定の鍵でのみ開けることができます。どんなに強力な魔王であってもその魔王専用の勇者であるならば倒すことができるというわけです」
「分かるような分からないようなお話でございますね」
「あまり考え込まなくてもいいですよ。あくまで魔王様の立てた仮説ですからね」
「せっかく教えていただいたのに私には面白いお話と思えませんでした。申し訳ないでございます」
「謝ることはないですよ。私も魔王様をシステムの一部と考えるのは抵抗がありますからね。一つのパーソナリティとして見てしまいます」
「でも、私はこのお話でひとつ思ったことがあります」
「どんなことですか」
「もし、魔王様と同等の存在があるとしたら、それは勇者くらいのものということでございます。もちろん魔王様と勇者が友達になれるわけはないのですが」
「そうかもしれませんね」
タリュートゥは朝太と夕貴の顔を思い浮かべたのか、少し遠い目をしていた。
「……おや、もうこんな時間ですか。私は帰りますので後のことはお願いします」
「分かりましたでございます。明日もこちらにお越しでございますか?」
「いえ、明日はみんなで動物園に……いえ、大切な用事があるのでこちらへは来ません。ただし、何か対応しきれないことがあったら連絡してくださいね」
「了解でございます」
タリュートゥは魔王城での勤務を終えると転移魔法を使い君守家へ帰宅する。タリュートゥはそんな生活を送っているのである。
「ただ今戻りました」
「おかえりなさい」
魔王城から帰宅した辰人を羽春が出迎える。
「朝太はどんな様子でしたか?」
「今日も勇者と遊んでいたぜ。ダンジョンでの探索の訓練だとさ」
真洋が答える。
「ずいぶん難しそうなことをしていますね」
「片方がどこかに隠れてもう片方がそれを見つけるっていう訓練だ。一般的に言えば、かくれんぼだな」
「そうですか」
「朝太がトイレに隠れたのを夕貴が遠慮なしにドアを開けていたぜ」
「魔王様の扉を勇者が開けたわけですか。それはなんとも……」
複雑そうな顔を見せる辰人に、その意味が分からず不思議そうに顔見合わせる羽春と真洋であった。




