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-4話- 四天王風属性のオマージュしたのはどうやらみにくいあひるの子 その3

 翌朝には朝太の風邪はすっかり良くなっていた。

「一晩寝たらびっくりするぐらい快復したな」

 真洋は昨日の風邪が嘘のように元気になった朝太の様子に拍子抜けしたようだった。

「しつこい風邪じゃなくてよかったわよ」

 羽春も安堵の笑みを見せる。

「タリュートゥは夜中までいろいろ調べていたようだけど、役に立たなかったようだな。落ち込んでいるのか、あんまり元気がなかったな」

「風邪でも引いてなきゃいいんだけどね」


「ママ。僕、お出かけしてくる」

「朝太はユウキちゃんと仲直りがしたいのよね」

 羽春が朝太に尋ねる。

「うん」

「だったら、その気持ちを伝えることが大切だとママは思うな」

「うん。ユウキちゃんとお話をしてくる」

 朝太はそう言うと出かける準備を始めた。

「真洋、あんたがついて行ってあげなさい。ちょうど日曜日で暇でしょ」

 羽春が真洋に朝太への同行を促す。

「なんで俺が」

「病み上がりの朝太が一人で出かけるのは心配じゃない」

「わかったよ。朝太、お兄ちゃんもついて行こう」

 朝太と真洋は家から出る。

「ところで朝太はユウキの家がどこにあるのか知っているのか?」

「うん。家へ遊びにいったことがあるよ」

「そうか。お兄ちゃんの知らないことも知っているんだな」

「こっちだよ」


 ユウキの家である瀬木家のチャイムを押すと理緒が出てきた。

「あ、真洋君。朝太君も」

「こんにちは」

 元気にあいさつする朝太。

「よ、よう」

 それとは対照的に気後れしている真洋。

「こんにちは……」

 よそよそしい態度を見せる理緒。

「お兄ちゃんと理緒ちゃんも喧嘩していたの?」

「喧嘩ってことではないんだけどな」

 求婚して振られたとは言えない。

「ところで、朝太がユウキと話がしたいって言うんだけど、いるか?」

「うん、部屋にいるから上がってよ」


 理緒の言う通りユウキは部屋にいた。

「ユウキちゃん」

「あ、朝太。それと朝太の兄」

 ユウキはそう言うと理緒の後ろに隠れてしまった。

「ほら、朝太君に渡したいものがあるんでしょ」

 理緒に促されて、ユウキは朝太にすっと手を出してきた。

「これ、やる」

 そう言って、ユウキは折り紙で作った鶴を渡してくる。

「折り鶴?」

「朝太君が風邪を引いたって聞いて、千羽鶴を作りたかったみたいだったよ。さすがに千個も作れなかったから一番できのいいのをあげるって」

 理緒が解説する。


「ありがとう。ねえ、この鶴の折り方教えてよ」

「いいぞ」

 そんなやり取りを続ける朝太とユウキ。

「なんだ。向こうも仲直りしたかったのか」

 二人の様子を見守る真洋にも自然と笑みが漏れる。

「実はね、この子、風邪を引いたまま朝太君と遊んだみたいなの。それで朝太君に風邪を移したんじゃないかって気にしていたんだよ」

 理緒が真洋に告げる。

「感染源はここだったのか」

「二人とも仲直りできてよかったね。ずっと落ち込んでいたもんね」

 理緒もそんな感想を漏らす。

「勇者がそんなことで落ち込むか」

 ユウキは強がりを見せる。

「またそんなこと言ってるんだから」

「さて、仲直りも済んだみたいだし、俺は帰るかな」

 真洋は居心地が悪くなったのかそそくさと出て行こうとする。

「ねえ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「お兄ちゃんも理緒ちゃんと仲直りしよう、ね」

 朝太にそう言われて引けなくなる真洋。

「この前のことは水に流して忘れてくれると、ありがたいんだけどな」

 意を決して真洋はそんな謝罪を口にする。

「あんな、からかい方は、よくないよ思うよ」

 理緒は真洋からの求婚について、単にからかわれただけだと言う常識的な判断を下したようである。

「からかったつもりはないんだけど、済まなかった。俺のほうがからかっていると思われていたんだな」

「うん。許してあげる」

 理緒ももともと怒っているようではなさそうである。

「ありがとうな。今後とも兄弟ともどもよろしく」

「私たちの方こそ、これからも姉妹ともどもよろしくね」

「ああ。……え、今なんて言った?」

「姉妹ともどもよろしくねって」

「妹ってことはさ、ユウキって女の子だったのか……」

 真洋は困惑した目でユウキを見つける。

「知らなかったんだ。ユウキって夕方の夕に貴族の貴で夕貴なんだよ。確かに夕貴って服の好みとかしゃべり方とか男の子みたいだもんね」

「朝太は知っていたのか? 夕貴が女の子だって」

「うん」

「そうか。お兄ちゃんの知らないことも知っているんだな……」


「おい、大変だ! 勇者って女だったようだぞ!」

 真洋は君守家に帰るなり、羽春と辰人にそう告げた。ちなみに朝太は帰ってきてすぐに手を洗いに行っている。

「そんなの見れば分かるでしょ」

 羽春はそう、けろっと言ってのける。

「俺は分からなかったけど。タリュートゥはどうなんだ?」

「私も分かりませんでしたよ」

 辰人はドラゴンなので人間の性別を見分けるのは難しいのであろう。

「もっとも、もう少し年齢が上なら匂いで分かるんですけどね」

「やっぱりこいつ変質者かもしれないな」

「でも、勇者が女の子だとすると、魔王様の野望をかなえるための手段が増えることになりますね」

 辰人が話題を戻す。

「魔王様の野望ってなんだよ?」

「理緒さんを朝太の姉にしたいってことですよ。理緒さんを朝太の義理の姉をするには朝太と夕貴ちゃんが婚姻するルートもあるということです」

「兄の配偶者だけじゃなく、配偶者の姉も義理の姉になるものね」

「なるほど。いや、待てよ。ハハルアピは夕貴が女だって知っていたのに俺と理緒を結婚させようと煽ったのかよ」

「あたしたち四天王にできることはそっちじゃないのよ。魔王様と勇者が結婚するならあんたと理緒ちゃんが結婚する必要はないことになるけど、あんたが個人的に付き合うのは止めないわよ」

「相手は勇者の姉だぞ。まあ、理緒は勇者の姉でよかったな。勇者の兄って乗り越えるべき壁としてろくな目に遭わないイメージだからさ」

「やーね。あんたと理緒ちゃんにしても、朝太と夕貴ちゃんにしてもくっつくことになったらあんたが勇者の義理の兄になるんじゃないのよ」

「おおう。いや、そもそも、勇者と魔王を結婚させようとするなよ」

「やーね。勇者が魔王を倒すって言われているじゃない。でも、これって押し倒すって意味かもしれないじゃないのよ」

 羽春がやや興奮気味に力説する。

「それって男女が逆じゃねーか。いや、逆って言うのもおかしいんだけどさ」

「魔王様の隠していた同人誌みたいな展開になるかもしれないわ」

「おい、それって全年齢対象のものだったんじゃないのかよ」

「やーね。あたしは『同人誌が年齢制限があるものだなんて言った覚えない』とは言ったけど、『同人誌が年齢制限のあるものではない』とは言ってないわよ」

「……謀りやがったな」

 そんな会話をしているところに朝太がやってきた。


「ねえ、ママ。手を出して」

「あら、なにかしら」

「これあげる」

 朝太が羽春に折り紙で作った鶴を手渡す。大小二つの折り鶴である。

「あら、ありがとう。まあ、親子の鶴なのね」

「そうだった。理緒の家で作ったんだよな。母の日だからって」

 今日は五月の第二日曜日。母の日である。

「真洋。あんたからは何かないの?」

「ねーよ。と、言うところだったけど、朝太が俺を出し抜いて一人でプレゼントを渡すのを嫌だったのようでな。一緒に作った」

 真洋も親子の折り鶴を手渡す。計四つの折り鶴がある。

「あら、これで家族がそろったわね」

「夕貴ちゃんに折り方を教えてもらったの。本当はカーネーションを育てていたんだけど、お花は咲かなかった」

「そうなのね。お庭でお花を育てていたのはそれだったのね」

「簡単に育てられる花じゃないんだろうな」

「お兄ちゃん、次は一緒にカーネーション育てようよ」

「お、おう」

「うふふ。来年の母の日を楽しみにしているわね」

「うん、今からお水をあげて来る」

 そう言うと朝太は庭へ出て行った。

「そんなに水をあげても駄目なんだけどな」


「やれやれ朝太は優しい子だな。魔王とは思えないぜ」

「……それはそうでしょう」

 辰人が言いにくそうに口を開く。

「どういう意味だ?」

「朝太が魔物頂点に立つ魔王と思えないのは当然です。今の朝太は人間ですから」

「は? そんなわけないだろ」

「朝太が風邪を引いたので調べてみたのです。その結果、魔王様は、朝太は人間でした」

「まじ?」

 真洋はそれ以上の言葉が出せないようであった。

「やーね。昨日の電話で夕貴ちゃんから風邪を移されたかもって聞いたときは気にしなかったけど、人間同士なら風邪も移るわよね」

「そうだな」

「以前、人間が魔物になることがあると言いましたが魔王様もそのケースだったのでしょう。人間に似た魔物どころか人間そのものだったとは少々驚きましたけれど」

「なんか、頭がくらくらしてきた」

「このことは絶対秘密よ。魔王軍に知れたら動揺が広がるなんてものじゃなくなるわ」

「ああ」

 真洋は言葉少なにそう答える。


「ところで、朝太と夕貴ちゃんの喧嘩の原因ってなんだったのですか?」

「なんでも、夕貴との勇者ごっこで魔王の役ばかりやらされるのが嫌だったみたいだ」

「やーね。そんなことなの」

「魔王様が魔王の役を嫌がるのもどうかと思いますが」

「でもさ、魔王の役目って何なんだろうな。勇者と敵対することが役目だっていうなら嫌がるのも無理はないと思うけどさ」

「魔王であることを隠して人間として育てているけど、そもそも人間なのよね」

「朝太を人間として育てたら立派な人間にしかならないだろうな」

「それって、みにくいあひるの子みたいな感じよね」

「どういう意味だ?」

「あれって周りと違う子だと思っていたけど、最後は白鳥になったって話よね。だけど、もともと白鳥の子が白鳥になっただけなのよね」

 そう言って、羽春は折り鶴を見つめた。

「白い鳥じゃなく魔王にしなきゃダメだろう」

「今後のことを考えると、どこかへ飛んで行ってしまいたいのは我々の方ですよね」

 四天王たちは庭で花に水をやっている朝太を見守るしかなかった。



 4話 終

5話へ続きます

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